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第1話

 美しい白亜の城。

 枝一本に至るまで計算しつくされ、整備された庭園。

 広い広い王宮の、――めっちゃ片隅。


「あ゛ー……」


 古い館は、慎ましやかとか言えば聞こえはいい。または素朴。真実はボロ。

 ただ光だけは燦燦と注ぐ。あるいはその日差しの所為で劣化が激しいのかも。周囲の草木もやたら生き生きしている。


「平和ねぇ……」


 ヴェルヘルミナはあくびを噛み殺しつつ独りごちた。

 レイマーク王国、王都は確かに平和だった。

 建国からおよそ五百年。戦には縁遠くなり、人も増え産業や物流もそれなりに発展し、そして今、停滞している。

 人生に飽いた老人の微睡のようだ。

 人ならそれでも良いけれど、国には許されない。最近は若い者や新興貴族から革新の声が上がりつつあり、王族をはじめとした保守派との対立が目立ち始めている。

 別にこの国がどうなろうと、ヴェルヘルミナにはさほど興味はない。

 一応王族の人間だけれど、責任感はないに等しい。だってそんな教育はされていない。

 ヴェルヘルミナは、忘れられた王女だった。


「暇すぎるわ……。これならギルドに出向いたほうが、」


 口にした途端、駄目です! と背後で唯一の侍女、ヒルデが遮った。


「この間行ったばかりでしょう。心配されずとも更新期日にはまだ余裕がありますよ」

「更新期日の心配なんかしてないもん。稼がないと食べられないって話!」


 忘れられた王女はおよそ王族らしくない態度と言葉遣いで喚いた。

 外出には反対でもその現実には同意なのか、今度はヒルデもただため息をつくにとどめる。


「平和だけど世知辛いわ」


 忘れられた王女は齢十四のレイマーク王国第三王女。上から順番に八番目の王の子。母親は男爵家の出で、それなりの美しさでもって王の目に留まり四番目の側室となったが、王宮に上がってすぐヴェルヘルミナを授かり、産み落とすと同時に儚くなった。王の寵愛もさほど得る間もなく死んだ側室の子など、ましてや男爵の血筋、ヴェルヘルミナはすぐその存在を忘れ去られ王宮でももっとも離れに位置するこの館に押し込められた。世話をしてくれる者も館に移った当初はそれなりいたかもしれないが、物心つく頃にはヒルデ一人しかいなかった。皆この境遇を憂えて去っていったらしい。

 ヒルデは元々母の侍女だったのが、母の死去後もそのままヴェルヘルミナに仕えてくれている。侍女たちの中で一番年若く、幼いヴェルヘルミナが年の離れた妹のようで見捨てられなかったのが主な理由らしいが、その彼女も今年で二十八。今や世間一般で言う行き遅れである。

 数多いる国民に対してはほとんど何も思わないヴェルヘルミナだが、唯一ヒルデに関してのみ、申し訳ない思いがある。地方騎士家の出身で貴族としての身分はないが器量は悪くないし、この王宮でずっと孤軍奮闘、ヴェルヘルミナを守り育ててきた実績もある。どこであろうと家を守る良き妻になるだろうに。

 本来ならば仕える者に良縁を組んでやるのも主の務めのうちなのだが、ヴェルヘルミナにそんな伝手はない。伝手どころか、めぼしい財のひとつも忘れられた王女にはないのだ。むしろヒルデに支給されるわずかな給金で食べさせてもらっている有様。ヴェルヘルミナがその現実を知ったのはまだほんの数年前の事で、以来自分の食い扶持くらいはと、こっそり街に出て冒険者ギルドに登録しちまちまと小金を稼いでいる。

 知った当初はヒルデも烈火のごとく怒り狂ったが、現状が現状なだけ、結局は譲らざるを得なかった。それほどまでにヴェルヘルミナ達の環境は悪い。

 恵まれているとはお世辞にも言えないけれど、冒険者業は案外性に合ってる、とヴェルヘルミナ自身は思っていた。

 元より王族と言われても素養はない。必要最低限の礼節は教えてくれるが、ヒルデ自身も所詮は地方豪族どまり、たかが知れている。それを披露したり求められたりする場もない。自分の足で立つための技術を学んだほうがよほど身のためだ。


「ねぇ、ヒルデ。やっぱり今からでも」


 街に行こう、と言いかけたその時、来客を知らせるベルが鳴った。


「えっ」



完全見切り発車で始めてみました。

実験的な感じでコメディ色を強めに、楽しんで書ければいい、ナァー。

気楽にかつ気長にお付き合いいただければ嬉しいです。

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