友人からの励まし
「日当銅貨6枚って…ポーターってそんなに楽な仕事じゃねぇだろ」
「行く場所にもよるけど…野営が必要な場所に行く時は背負う荷物の重さは100kg超えてるね」
「100kgって…どこの重装兵だよ?なんでただの荷物がそんなに重たいんだ?」
「『銀の剣』は俺を含めて6人パーティーだったんだよ。6人もいると1食で数kgの食料が必要だし…片道1週間かかる場所とかだとね…」
「ポーターを増やすとか手はあるだろうが」
「ランディがそこまで考えると思う?」
「…なんだかなぁ。アイツがあんな馬鹿になったのはお前にも責任がある気がしてきたぜ」
「なんで俺が…」
「やり過ぎなんだよ。あの馬鹿…ポーターの基準がお前になってるだろうから苦労するな」
冒険者を生業にするならやり過ぎなんて事は無い。一歩間違えれば命を落とす可能性があるんだ…入念に準備をするのも様々な知識を蓄えるのも必要な事だ。
「…で、これからどうするつもりなんだ?」
「しばらくはソロでお金を貯める。…ある程度貯まったら帝都を離れる事も考えてるよ」
「…『銀の剣』の奴らがいるからか?」
「いや。アイツらとはもう関わる気は無いから気にしてない。ただ…稼ぐ為には帝都じゃ効率が悪くてね。森まで片道2時間とか…」
「なるほどな。生きる為に冒険者をやってるんだろうし…そういう事も考えなきゃいけないよな」
「うん。まだ駆け出しだけど冒険者として活動するならちゃんと自立したいからね」
荷物持ちとして『銀の剣』に所属していた時はパーティーで屋敷を借りていて、俺にも部屋が与えられていた。俺だけ屋根裏部屋だったけどな。正規メンバーと荷物持ちじゃ扱いが違うのは当然…って思ってたから気にしてなかったけど。
貰ってた金もほとんどパーティーの為に使っていた。回復魔法が使える人がいなかったから怪我の治療はポーションを使うしかなかったから俺が用意してた。
「他の街に移るのもいいが…帝都に来る事があったら顔を見せろよ?」
「まだ先だけどね。その時は会いにくるよ」
「門番なんてやってると顔は広くなるけどよ…こうやって仕事以外の時間に会う奴なんてほとんどいないんだ。まあ…友人って奴かな」
「うん…俺もそういう人はほとんどいないや。ライルくらいかもしれない」
「帝都を出る時は教えろよ。どこかいい店でメシくらい奢ってやるからよ」
「ああ。その時は遠慮なく注文させてもらうよ」
パーティーを抜けたからライルと少し親しくなれたのかもしれない。冒険者は自由な職だって言われてるけど…本当にそうなのかもしれない。『銀の剣』を抜けてまだ1日目だけど一気に視野が広がった気がするんだ。
メーシェの事は気になるけど…もう別れたんだ。俺が何時までも気にする事じゃない。…大丈夫。仕事に没頭していれば思い出す事も減るだろう。今の俺には「他人」の事を気にかける余裕なんて無いのだから…
ライルが出してくれた酒を飲みながらどうでもいい話をして笑い合った。
こんなに気分は久しぶりだ。まるで…ギルドに登録したあの日のように不安と期待が入り混じったなんとも言えない気分。『銀の剣』にいた頃のような追い詰められる感覚に比べたら遥かにマシだな。
明日から頑張ろう。冒険者としての俺はまだまだ駆け出し。やる事はいっぱいあるのだから…