薬草採取
帝都の近くにある森…と言っても徒歩で2時間はかかる。帰りの時間を考えると薬草採取に割ける時間は2時間くらい。森には魔物がいるから野宿はできない。俺は武器を持ってないし…持っててもあまり得意じゃない。せめて盾があれば戦えるんだけど…
まあ、無い物ねだりをしても仕方ない。とりあえず薬草。金が無いとご飯が食えない。魔物に遭遇したら全力で逃げるしかない。
薬草は森に入ればどこにでも生えている。雑草や毒草も生えているから見極められなきゃわからないと思うけど…荷物持ちとしての経験をもってすれば薬草を見極めるなんて楽勝ですよ。ええ。できないと死んでましたから。
2時間かけて大量の薬草を採取した。薬草を入れる鞄も束にして縛る紐も無い。買う金なんかなかった。だから蔓を使って薬草を縛り、背負えるようにする。我ながら見事な仕事だ。こういう事しかできないんだけどね…だってポーターだったし…
太陽の傾き具合からしてそろそろ帰らなきゃマズいな。野宿が危険なのは森だけじゃない。街道でも夜になると魔物が徘徊するようになる。夜はアイツらの時間だからな。
薬草を背負って帝都を目指す。…まとまった金ができたら違う町に行こう。帝都は俺みたいな冒険者には不便すぎる…近くの森で片道2時間は流石にね…
帝都に着く頃には日はほとんど落ちていた。いい時間に切り上げてこれたな。さて…ギルドに行って薬草を売らなきゃ…宿代くらいになればいいけど…
門を前にして足が止まった。…どうしよう。入る時は通行料が必要なんだった…銅貨5枚…
「ん?ヴェインか?1人で何やってるんだ?」
「…ライル?」
今日の門番は知り合いの兵士のライルだった。くっ…仕方ない。知人に頼むのは気が引けるが…
「ライル。俺にお金を貸して下さい!」
「…はぁ?」
ライルに事情を聞かれたので全て話した。だって話さなきゃお金貸してくれないって言うし…
俺から事情を聞いたライルは深い溜息を吐いた。
「…冒険者にもいろいろいるけどよ…ランディの奴は本当に…」
「そろそろ限界を感じてたから丁度よかったと思ってるよ」
「…俺はもうすぐ交代の時間なんだ。ギルドの用事が終わったらウチに来い。この金はその時に返せよ?」
ライルはそう言って俺に銅貨5枚を貸してくれた。
「ありがとう。後で必ず返すよ」
「ああ。早く行きな。ギルドが閉まっちまうぞ」
「っと…そうだね。行ってくる。また後でな」
門の入り口で通行料を払って帝都に入る。…他の町に行ったらライルや他の知り合いとも会えなくなるのか…どうしようかな…とりあえずはお金を貯める。先の事は余裕ができたら考えよう。
ギルドに着いたのは受け付けが閉まる直前の時間。酒場のほうは深夜までやってるけどね。
急いで受け付けに行って薬草を買い取ってもらった。一応、常設依頼になるので依頼という形になる。
「薬草は1束銅貨1枚です。35束…銀貨3枚と銅貨5枚が報酬になります」
「…計算間違えてません?『銀の剣』の日当の5倍くらいになるんですけど…」
安い素泊まりの宿なら銅貨3枚で泊まれる。つまり、通行料を引いても10日分の宿代を稼いだって事か?
「この量をこんなに短時間で採ってこれる人なんていませんよ…あと、『銀の剣』の日当は安すぎです。最近はポーターが少ないので新人のポーターでも日当は銀貨1枚くらいは貰えますよ」
ランディの野郎…「俺は優しいからポーターにも高い金払ってやる」とか言ってたくせに…
「俺、もうパーティーには入りません」
「…危険だから入って欲しいんですけど…この薬草を見たら無理は言えませんね」
心配してくれるアンナさんには悪いけど、もう信頼できる奴としか組みたくない。メーシェがいなきゃもっと早く抜けてただろうし…
あ、ライルの家に行かなきゃいけないんだった。
「アンナさん。ありがとう。またお願いしますね」
「はい。遅くまでお疲れ様でした」
アンナさんに見送られてギルドを離れる。ライルの家はそんなに離れてないからのんびり行こう。
しかし…この短時間でこんなに稼げるとは…俺が人に隠してる「収納」スキルを使えばもっと稼げるかもしれないな…バレたら面倒だから使わないけど。
あ、ライルが家の前で待ってくれてる。早くお金を返さなきゃね。