リリーフカーの買い替え
プロ野球の某球団では、リリーフカーを買い替えることになった。
リリーフカーというのは、投手交代の時に登場する車だ。新しい投手が乗ってくる。プロ野球ならではの、場を盛り上げる演出の一つだ。
ここ最近、そのリリーフカーの調子が悪くなってきた。十数年も使ってきたことだし、そろそろ買い替えの時期が来たのかもしれない。
今のリリーフカー、見た目は派手だが、市販車を改造したものだ。新しいリリーフカーも同じ方法でいいだろう。買ったあとに車の外見を、それっぽく改造するのだ。
さて、どの市販車を買おうか。球団上層部は検討を始める。
その情報が投手たちの耳に入った。
自分たちがリリーフする時に乗る車だ。できることなら、かっこいい車がいい。
そう思って投手たちは、車のカタログに付箋を挟んで、球団社長の部屋の前に置いてみた。自分たちの希望を、こんな形で伝えてみる。
すると、意外や意外、球団上層部が前向きに検討し始めた。
だったら、他の希望も伝えたい。
実を言うと、最初のカタログでは、お値段の面で遠慮していたのだ。
多少高くてもいい、そんな話が球団上層部では出ているみたいだし、せっかくだから・・・・・・。
ネットオークションで見つけた「中古のレーシングカー」、その情報をプリントアウトして、球団社長の部屋の前に置いてみる。
こんな車で登場したら、きっと球場は大盛り上がりだ。ファンの興奮は最高潮に達するだろう。
そんな場面を想像して、笑顔になる投手たち。球団社長の部屋の前から、こそこそと立ち去った。
その様子を廊下の反対側から、一人の男が静かに見ていた。
ベテラン野手だ。これまでもそうだったし、これからもたぶん、自分がリリーフカーに乗ることはないだろう。
だったら、新しいリリーフカーなんて、これで十分。
球団社長の部屋の前から余計な物を片づけると、「三輪車」のカタログを置いていった。
次回は「年賀状」のお話です。