【コミカライズ】悪役令嬢よ。お前はコソコソ、何をしておる?
なぜだ……?
なぜ、俺はこんなにも嫌われているんだ?
騎士科の成績は中の上。
領地経営も傾きかけの貧乏伯爵家、しかも三男坊の自分に降って湧いたような突然の縁談。
国王陛下の妹を母に持つ、高貴な血筋の公爵令嬢……イザベラ・フランシスの結婚相手として、婚約の打診があったのは一か月前。
両家立会の下、初顔合わせをしたはいいが、目が合った瞬間に歯軋りが聞こえてきそうな勢いで睨みつけられた。
「同じ学園に通う者同士、弾む話もあるだろうから、後は二人でゆるりと過ごしてくれ」
公爵閣下の発言を受けて大人達が席を外し、公爵邸の庭園に二人きりで取り残されたのはいいが、怒り狂っているのか、何を話しかけても真っ赤な顔でギリギリと睨む公爵令嬢イザベラ。
よく見ると瞳が潤んでいる。
泣くほど嫌だったのかと途方に暮れ、どうしたら良いか分からず頭を抱えた。
「あの……イザベラ様、俺なんかと婚約が決まり、不本意なのは承知しています。ですが、親同士が決めた事。気に入らない所は直すよう努力しますので、譲歩していただく事は出来ませんか?」
まだ顔合わせの段階だが、ほぼ本決まりだと聞いている。
それであればお互い歩み寄り、少しでも良い関係性を築きたい。
駄目なら駄目で構わないが、そんなに不本意な婚約であれば、今のうちに先方からお断りいただきたい、というのが本音である。
「譲歩……?」
その言葉に、イザベラの頬がピクリと引き攣る。
怒り狂っているのか、カッと目を見開くとキツイ顔立ちが益々険しくなり、さらには父親譲りの威圧感まで溢れ出し、ギルは慄いて一歩後退った。
「このわたくしに、譲歩しろと仰るの……?」
「い、いえ、そそそそういう訳では……! 家同士が決めた結婚です。お互いに、妥協し譲歩すれば仲良く出来る道もあるのではと……」
「おっ、お互いに妥協ですって!?」
あ、しまった、これでは俺もイザベラ様との結婚に不服があるように聞こえてしまう――。
そう思った時には、既に手遅れ。
焦るあまり失言をした俺――ギル・ブランドの左頬に、小さな紅葉が飛んで来た。
*****
「おいギル、お前イザベラ様と婚約するって本当か!?」
「……ああ、本当だ」
早くも噂になっているらしい。
休み明け、騎士科の教室に入った途端、ワッと友人達に囲まれる。
あの後、当然婚約は無かったものにされると踏んでいたのだが、驚くべき早さで婚約手続きが進んだ。
騎士として身を立てるくらいしか出来ない自分に、降って湧いたような幸運。
分かってはいるのだが……後は貴族院の承認を待つばかりと聞いた時は、愛の無い重苦しい結婚生活に思いを馳せ、絶望で膝から崩れ落ちそうになった。
「フランシス公爵家の分家が断絶し、余っている爵位があるだろう? 結婚したらそれを継ぐ事になるんじゃないか? 伯爵位か子爵位か……いずれにせよ、羨ましい限りだ」
それなら代わって欲しいくらいだ。
そもそも何故俺が選ばれたんだと溜息をついて窓の外を見遣ると、渦中の公爵令嬢イザベラが何やら木陰でコソコソしている。
そのうち騎士科の同期レナードに見つかり、談笑する姿が目に飛び込んで来た。
髪に木の葉でも付いたのだろうか、少し恥ずかしそうに顔を赤らめ、レナードが笑いながらそれに触れている。
「あんな顔も出来るんじゃないか……」
目が合っただけで親の仇のように睨まれた、先日の記憶が蘇る。
自分と過ごした時とはまるで違い、楽しそうに微笑むイザベラに、何やら気分がささくれた。
随分と仲が良さそうだな、と呟く友人の声が妙に耳に残り、悔しいような情けないような……鬱々とした気持ちで、ギルは机の上に突っ伏したのである。
*****
丁度その頃、木陰に潜んでいた公爵令嬢のイザベラは、今日も今日とてお気に入りのオペラグラスで、騎士科の教室をこっそりと覗いていた。
「イザベラ様……またですか?」
ギルの同期、騎士科のレナードに見つかり軽く舌打ちをしたイザベラは、観念したように木陰から姿を現した。
初めて覗きを見つかったのは、半年前。
それからというもの、たまに耳寄り情報を提供するイザベラ子飼いの子爵令息である。
「噂で聞きましたよ? 何とかご両親を説得して、あとは承認を得るだけなのでしょう? 婚約まで秒読みなのですから、いい加減直接会いに行ったらどうですか?」
「……レナード、黙りなさい。わたくしとの顔合わせで、ギル様が何と仰ったか……『家同士が決めた結婚だから、お互いに妥協し譲歩しよう』と言われてしまったのよ!?」
だ、妥協……。
公爵令嬢たる、このわたくしがこれ程までに慕っているというのに、『妥協』って!
「だから、その想いがそもそも伝わってないんじゃ……」
「そんな訳ないじゃない! プレゼントもしたし、お手紙も。寮に住むギル様に、毎週差し入れだってしているのよ!?」
甘い物が苦手なギルでも口に出来るよう、外国から取り寄せた香辛料をふんだんに使った、公爵家特製スパイスクッキー。
気に入ってくれたのか、あっという間に食べ終えたと聞き、それからは毎週のように差し入れている。
「でもそのクッキー、パメラを通じて渡してませんでしたか? あれだとイザベラ様からではなく、パメラからだと勘違いするのでは?」
「レナード様もそう思います? 私からも繰り返しお伝えしたのですが、自ら渡すのは嫌だの一点張りなんですよ」
「……パメラ、お前はまたそんな所に」
イザベラ後方の草むらがガサガサ動き、何やら可愛い声がする。
アルバイト代わりに手足となって動きつつ、迷走するイザベラを心配しつつ、影ながらサポートする特進科のパメラ。
平民ながら、この学園に入学を許された特待生……非常に優秀なのだが、雇い主のイザベラに影響されたのか、近頃少々奇行が目立つ。
「イザベラ様がそれで満足なら、何も言いませんが……ああ、そういえばギルのやつ、先週稽古用のシャツを木に引っ掛けて、袖口が破れたと言っていました」
今週は稽古が休みだし、どうせそのままにしていると思うので、イザベラ様が繕って差し上げたらいかがですか?
イザベラの髪に付いた木の葉を取り除き、レナードは先週のギル情報を提供する。
「なっ、なんですって!? わたくしの繕ったシャツを、ギル様が着てくださると……!?」
頬を赤らめ、それは耳寄り情報だわ! と嬉しそうにはしゃぐイザベラ。
絶対伝わって無いと思うんだけどな……。
パメラとレナードは顔を見合わせ、小さく溜息を吐いたのだった。
*****
「あのぅ~」
放課後、騎士科の寮に帰る途中に可愛い声で呼び止められ、視線を落とすと、最近よく差し入れをしてくれる女の子が目に入る。
子リスのような小動物系の顔に、優し気な雰囲気。
さらに平民で特進科に入学ともなれば、さぞ優秀に違いない。
確かパメラと言ったか、比較的小柄なその子はどこから情報を入手したのか、シャツの袖口が破れた事を知っていた。
「もし良かったら、繕わせてください」
そう言って手を差し出す姿がいじらしく、俺なんかのシャツをわざわざ繕いに来てくれたのかと、思わず頬が緩む。
いつもクッキーやメッセージカード……暑い日にはタオルまで。
今度何かお礼をしなければ、と思いつつ、こんな雑務をお願いしてよいものか悩んでいると、後ろから来たレナードに掴まった。
「お、どうした? パメラじゃないか」
レナードと仲が良いのだろうか。
そういえば、今日レナードとイザベラ、パメラが三人でいる姿を見掛けた。
「レナード様、こんにちは。ギル様のシャツを繕わせていただこうと思い、お声がけした次第です」
本当はイザベラ様の使いで、と言いたいところなのだが、恥ずかしいから言わないでくれと、イザベラの名を出さないよう申しつけられているパメラ。
誰が繕うのか主語が抜けている為、これでは勘違いされるのでは……と心配のあまり気もそぞろなのか、少々台詞が棒読みである。
「どうせ自分でやらないんだろう? 折角だから、お願いすればいいじゃないか」
レナードに背中を押され、それならばとパメラに手渡した。
嬉しそうに受け取り、駆け去るパメラ。
「結婚するなら、あんな子が良かったな」
ぽつりと本音が漏れ出ると、驚いたのかレナードが、大きく大きく目を見開いた。
*****
今週は稽古が無いから構わないが、いつ頃返してくれるのか聞き忘れたな……。
何かお礼でもと思うのだが、迂闊な事をすると件の公爵令嬢イザベラに怖い顔で糾弾されそうで、何も出来ないまま今に至る。
「昨日のシャツなんだけど……代わりにこれを使って欲しいとイザベラ様から」
教室からぼんやり外を眺めていると、レナードから声が掛かる。
パメラに渡したはずなのに、何故か歯切れの悪いレナードから、新しい稽古用のシャツを手渡される。
「……なぜイザベラ様から?」
繕ったシャツを着ている男なんて、高貴な血を引く自分には似つかわしくないとでも言いたいのだろうか?
それならさっさと断って、婚約破棄でもなんでも、してくれればいいものを。
そもそも何故シャツの一件をご存知なのだろうか。
昨日も何故か騎士科の近くでこそこそと……一体どういうつもりだ!?
挙げ句、俺にはニコリともしないくせに、レナードの前ではあんなに可愛く微笑んで……。
腹立たしいような悔しいような、どろりと黒いものが胸をムカつかせ、ギルは勢い良く席を立った。
さすがにコレは、一言言わねば気が済まない。
親切にしてくれたパメラの事も気掛かりである。
早足で特進科に向かうギルを、慌ててレナードが追いかける。
特進科の校舎が視認できる距離まで近付いたその時、少し嫌がる素振りのパメラの腕を、強引に引っ張り空き教室へと連れて行く、イザベラの姿が遠目に見えた。
「うわぁぁっ! 何をする気ですか!?」
叫ぶパメラの声を耳が拾い、これはまずいと慌てて教室へと急ぐ。
すわ一大事かと教室に飛び込むギルと、後に続くレナード。
木陰から、僅かに日が差し込む教室。
無残に散らかった裁縫用具に、こんもりと絡まった糸くず。
息せき切って飛び込んだ視線の先には――――。
ギルのシャツに顔を埋め、ご満悦で深呼吸をする公爵令嬢イザベラの姿があった。
「……え?」
思いもよらないイザベラの痴態に、状況を理解できず呆然と立ち尽くすギル。
奇行を止めようと、慌てふためきながらシャツを引っ張っていたパメラは、ギルに気付き、あーあと小さく呟いた。
ドア口に凭れ、呆れたように息を吐くレナード。
「…………えぇ!?」
人の気配に気づいたイザベラは、ほんのり紅く染まった顔を上げ、ドアの方へと目を向ける。
茫然自失で立ち尽くすギルと、苦笑するレナードがその瞳に映り込む。
「……きっ」
すぅぅと息を大きく息を吸う。
「キャアアアァァッ……ッツ!!!!」
窓の外で、木の葉がさわさわと優しく揺れる。
羞恥と驚愕にまみれたイザベラの悲鳴が、教室中に響き渡った。
*****
「で? どういう事だか、頭の悪い俺にも分かるように説明してもらいましょうか」
まさかの痴態に、ギルは仁王立ちのまま腕組みをする。
もう敬意も何もあったものではない。
よもや自分のシャツの匂いを恍惚と嗅いでいるとは思わなかった。
「だって、袖口が破れたと聞いたから……」
いつもの高圧的な様子が嘘のように鳴りを潜め、しゅんと肩を落として俯く様子はまるで子供のようである。
「繕おうと思ったのよ……」
その呟きにギルは驚き息を呑む。
「え!? 俺のシャツを、イザベラ様がですか!?」
「……なんでそんなに驚くのよ。だって、私達、あと何年かしたら、か、かか、家族になるのでしょう?」
ほっぺを赤く染めて、イザベラはプイッとそっぽを向いた。
そのまま口を閉ざし、ギルのシャツを握りしめたまま、黙り込んでしまう。
困ったギルが助けを求めるようにパメラとレナードを見遣ると、短く嘆息したパメラが観念したように口を開いた。
「シャツの繕いを申し出たのは、イザベラ様に頼まれたからです。ご本人自ら繕おうと、今朝から授業をさぼって頑張っていたようなのですが」
まぁ、ご覧いただいた通りの惨状ですので、後はお察しください。
どうにもならず、助けを求めるイザベラに捕まったパメラは、新品も渡したことだしもう諦めましょう、と説得したのである。
「不要になったこの使用済シャツは廃棄しましょうと重ねてお伝えしたのですが」
パメラの言葉に、急に目を輝かせたイザベラ。
新しいシャツも渡したし、あら? ならばこれはもう、私のモノ!?
やったぁー! と、嬉々として叫び、シャツに顔を埋めて深呼吸を始めたイザベラを、必死で止めようとしたのが先程の『うわぁぁっ! 何をする気ですか!?』で、ある。
「え……じゃあ、差し入れは?」
未だ思考停止状態で呟くギル。
「お前なぁ……平民やそこらの貴族が、あんな高価な香辛料をクッキー如きにふんだんに使える訳がないだろう?」
平民のパメラが作れるはずもない、公爵家特製スパイスクッキー。
普通は一口食べれば気付くだろうと、レナードが呆れている。
「手紙を入れたと聞いたが、読まなかったのか?」
「……手紙?」
レナードの言葉に、ギルは何の話だと首を傾げた。
「もしかして、クッキーに毎回入っていたメッセージカードのことか?」
毎回クッキーに添えられたメッセージカード。
差出人の名前は無く、いつも『頑張ってください』と一言だけ書かれている。
おやそれは初耳ですと、パメラはイザベラを軽く睨んだ。
それじゃ分かる訳ないだろうと、レナードも白い目でイザベラを見つめる。
「いやだって、そもそも何故俺に?」
まったく理解が追い付かず、再びイザベラに目を向けると、しょんぼりしながらポツリポツリと語ってくれた。
父親譲りの悪役顔と、公爵令嬢という高い身分。
取巻きはいても友達が出来ず、話し掛けるだけで泣かれる時もあり、陰口を叩かれるのは日常茶飯事。
もうこんな学園辞めてやろう、そしてキッチリ顔と名前を把握したので覚えておけよと草むらに隠れて泣いていたその時、「でもさ、具体的に何かされた話って聞いた事ないんだよね」と擁護する声が耳に入った。
驚いてこそっと覗いてみれば、陰口に反論する男性……ギルが、「根拠の無い話を面白半分に触れ回るの、俺はどうかとおもうぜ」と、その場にいた貴族子女にキッパリと意見する。
学園内は身分による優遇が禁止されてはいるものの、依然として格差はあり、貧乏伯爵家の三男坊などになれば、そう発言権は強くない。
にも関わらず自分の考えをはっきりと述べる流されない強さに惹かれ、イザベラのストーカ……見守り生活が始まるのである。
こそこそと観察するうち、誠実な人柄に益々心惹かれたイザベラは、何とかして婚約出来ないかと画策を始める。
もともと政略結婚などする必要も無い公爵家。
半年かけて両親を説得し、ついに婚約の打診にまでこぎつけたのである。
「じゃあ、顔合わせの席であんなに怒り狂っていたのは、何故ですか?」
思い出したようにギルが問いかけると、その言葉に驚いたイザベラは飛び跳ねるような勢いで席を立った。
「怒り狂ってなどおりません! 恥ずかしくて嬉しくて号泣しながら叫び出しそうになるのを堪えていただけです!」
まさかの真実に開いた口が塞がらないギル。
包み隠さず話すうちに開き直ったのか、先程までの羞恥はどこへやら、得意満面でフンと鼻を鳴らすイザベラの姿に、駄目だもう我慢出来ないとパメラがお腹を抱えて笑い出した。
「学園でイザベラ様に声を掛けられた時は、鋭い眼光に震えあがりましたが、蓋を開けるとなんてことはない、片思いをこじらせた可愛らしい御令嬢……さらにはクッキーを届けるだけでバイト代を貰えると言うのだから、平民の私にとってはありがたい限りですよ」
ええっ、あれアルバイトだったの!?
勉学に支障が出ない割の良いアルバイトはないかと探すパメラに、「それならわたくしの手足となって動くのはいかが?」と勧誘したイザベラ。
カミングアウトが止まらない二人に、最早二の句が継げないギル。
「顔合わせの時は、あああギル様が! ギル様がわたくしの婚約者になってくださるなんて、天にも昇る幸せええぇええ! と、泣き叫びそうになってしまって」
はにかみながら、潤んだ目を向けるイザベラに、「そ、そうですか」と口元を抑え思わず耳まで赤くなるギル。
あれ、なんだろう、いつも睨まれてばかりだったからか、イザベラの照れる姿が新鮮で、すごく可愛く見える……。
いやそもそもそんな理由だとは思わなかったし、まぁなんと言うか……。
騎士科は御令嬢達に人気があり、それなりにモテるのだが、方法はともかく、こんなに真っ直ぐに愛情をぶつけられるのは初めての事である。
「と、いう訳で、このシャツはわたくしのもの。お返しするわけにはいきません」
少し冷静さを取り戻したのか、ほほほと高笑いを始めたイザベラがどんな子なのか分かってきたギルは、それならばと組んでいた腕を解いた。
「……それであれば、あの、それではなく直接お顔を埋められたら如何ですか?」
騎士たるもの、全力で臨む相手には、全力で迎え撃つべし。
そんなに頑張ってくれたなら、ここで応えねば男が廃る。
はい、と手を広げると、イザベラがゴクリと息を呑む音が聞こえた。
……余裕な雰囲気を醸し出し、大人な男を装うが、実はギルも経験値不足。
いつでも飛び込めるようスタンバイしたものの棒立ち状態。
顔は赤らみ、目も泳いでいる。
「はい、どうぞ」
待ってる自分が恥ずかしくなり、ほら早くと催促するや否や、イザベラがギルに向かって駆けてきた。
「きゃあぁぁギル様ぁぁぁッ……〇✕◇!」
何かを泣き叫びながら、その胸に飛びつくイザベラ。
思いがけず柔らかな身体にドギマギしながら、夢中で抱き着くその姿に、なにやら男として込み上げるものがあり、広げた腕の中に閉じ込めたくて堪らなくなる。
「だ、抱きしめてもいいですか?」
ぐりぐりと顔を擦りつける可愛らしい様子に我慢出来なくなり、でも一応聞いてからにしようと問いかけると、イザベラは虚を衝かれたように動きを止めた。
「……え、駄目です。まだその段階ではありません」
えええ、じゃあこれは一体どの段階なの!?
まさかの拒否に、固まるギルと呆れる傍観者二名。
――こそこそと、何をしているのかと思いきや。
青天霹靂、まさかの結末。
幸せそうに胸元へ顔を埋めるイザベラを見遣り、手を上げたバンザイの姿勢のまま、ギルは口元を綻ばせ……そして、ぎゅうっと抱きしめた。
「きっ、きゃああああ!!」
腕の中で叫び暴れる彼女が可笑しくて、自然と笑みが零れる。
片思いをこじらせ、勘違いを撒き散らしながら暴走する公爵令嬢イザベラ。
単純な自分に苦笑しつつ、不器用だけど一途な彼女を腕の中に、幸せな気持ちでギルは目を閉じた。
目を留めていただき、本当にありがとうございました。
応援してくださった皆様のおかげで素敵なご縁をいただき、コミカライズ化企画進行中です。
詳細につきましては、決まり次第ご報告させていただきます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
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※連載版、はじめました! 下にスクロールいただくと、直接飛べるリンクもあります。
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