今よりもっと
俺が行かないところを見るとチート君はすぐに手首から手を離してくれた。
良かった……とほっとするのと同時にじーん……と手首が痛いことに気付いた。
俺より少し身長が低いチート君は俺の顔を見ると言った。
「すみません。痛かったですか?」
「いや、少し……」
「それぐらいで良かった。オレ、あなたに言いたいことがあるんです」
何だ? 早く言ってくれ!!
「冒険者登録はもうお済みですか?」
「あ? ああ、してることはしてる」
「そうですか。だったら、魔法とか、覚えてますか?」
「あ、ああ……少し」
というか、今のところフレイムだけだし。
あのヴァンパイアお嬢様の時に教えてもらった光の魔法は結局覚えてないというか、あの呪文が書かれた紙どこやったっけ?
そんな事を考えていると目の前でチート君がさっと大きな片手剣を前に……というか俺に向けて構えた。
とても切れ味抜群そうでヤバイ!!
危ねー!!! っていう顔が良かったのか、チート君はにっこりと微笑んで。
「剣の術もその冒険者登録するとレベルに応じてですが、マスター出来るって知ってました?」
「あ……、いや、知らないな……」
チート君はにっこりと剣をしまうと、またにっこりと。
「剣の練習、しときません? 役立たずにはなりたくないでしょう?」
この子、マジかよ……。
本気で言ってる。声はあんまり笑ってない……。
はあ、このチート君もやっぱり、もう日本人ではない。異世界人だ。いや、転生者なんだし、当たり前か。いくら日本での体や記憶があったって、そこに居ればその世界の人だ。
「君には負けるな……。でも、俺はそこまでして強くなりたいと思わないよ」
「何故? しとかなければオレのように何者も守れる男にはなれないと思いますよ」
「まあ……そうなんだろうけど……」
これだからチートは嫌われるんだ。
「魔法がちょっとでもあれば十分さ。詠唱の時間を短く、そしてなくせば良いんだから」
「それは……そうですね。否定するのは止めときます」
彼は笑うのを止めた。
「講習にあなたを誘うのは無理そうなのでもう行きますね」
そう言って香住ちゃんが行った方向に歩いて行く。
俺はその講習内容が何となく気になってしまった。
まあ、行きはしないけど聞くだけは自由だろう。何せ、リリーさんが受付をやり、香住ちゃんだって参加するような講習なんだし。
「なあ、その講習、どんなやつなんだ?」
大声で行こうとしているチート君の背中に向けて俺は訊いた。
すると、クルッとこちらを向いてチート君がさらっと答えてくれた。
「今よりもっと強くなる為の講習ですよ。だから、あなたには用がないでしょう」
「そうだな、ありがとう。また今度機会があったら誘ってくれ」
「会えたら、そうします」
一礼して、チート君は皆が行く方向に行ってしまった。
俺はそれから五分後に宿に辿り着いた。クレアがテレポートした場所が宿とは反対だったとか……。
これは宿で会ったら文句を言ってやろう!! と俺は長期間泊まることになっている宿に入った。




