スキル
レッドファングを倒したことによって手に入った経験値は驚異の『1800』おかげでさっきまで6だった俺のレベルは9まで上がっていた
「いやぁ、お疲れ様! それにしてもいい動きするよねぇ、なんかやってたの?」
「ああ、はい。アクションゲームを少し」
「ん? ゲーム?? ゲームやっててあんなに動けるようになるものなの?」
「え? まぁ、この世界の自分の身体って、まるでゲームの中と同じように動くんで、正直ゲームやってるのと大差ないっすね」
「ゲームの……中って、まさか! キズナが暮らしていた日本にはあるのかい!? 本物のVRゲームが!?」
「あー、そっか、クロウさんの日本は50年以上も前ですもんね、ありますよ、フルダイブのVR」
「なんてことだ……と、ということはまさか! HUNTER×HUNTERも完結して!」
「ないです」
「そうか」
そうなのだ、この世界に来てすぐの頃は気付かなかった、というかレベルが0だったから当然なのだが、自分のレベルが上がるにつれて、段々身体が軽くなっていくように感じるのだ。そしてそれは奇しくも俺が趣味でプレイしていたVRゲームの感覚に酷似していた。そんなこともあって剣を振って戦うという動きは、最初こそ違和感があったものの、今は何の問題もなく体に馴染んでいるように感じる。
「まぁ、その話は置いておくとして、まだ近くにイビルゼリーが残ってると思うから、狩っていこうか」
「あ、はい、了解です」
――――――――――
その後、イビルゼリーの残党と、ついでに数匹のスライムを狩った俺たちは帰路についていた。
「それで、結局何だったんですか? 今日のやつらは」
「ああ、それはね……」
曰く、今日のあれは魔物が『存在進化』という現象によって、言葉通り進化したものだったらしい。魔物の中には特定の条件を満たすことで進化できるものがおり、今日の俺たちはたまたま進化の場に居合わせたということだ。
「いやぁ、僕らが通りかかってよかったね、運が悪ければあと2、3人は死んでたと思うよ」
「そんなにですか……ん? いや、『あと』って?」
「ああ、バウルがレッドファングに進化する条件、人間を殺すことだから。最初からレッドファングとして生まれる場合もあるけど、この森にレッドファングは湧かない」
「」
「まぁ、この森は初心者も多いからね、多少はこうして命を落とす冒険者がいるのも仕方ない。僕ら異邦人は忘れてしまいがちだけど、この世界では強い方なんだ。まぁ、正直キズナは実感ないかもしれないけどね、それも能力の使い方を理解すれば次第にわかってくると思うよ」
「……そうですかね」
「多分ね。まぁ、転生特典の中には全く戦闘に応用できないってのもなくはないみたいだけど、ほとんどが上手く使えば一般人の何倍も上手く立ち回れるようになるものだから、キズナの能力もちょっと癖はあるけどそうなる可能性はあると思う」
クロウさんには、俺が倒した魔物を自動的に素材とコイルに変換する能力を持っているということだけ伝えている。ただ正直これはおまけみたいなもので、教えていない本命の方は今クロウさんが言ったように化ける……いや、むしろ戦闘にこそ特化した能力である可能性がかなり高いと思っている。そもそも指揮官なんて名前の時点で戦えないという方が考えにくい。
「まぁ、幸い時間は無限にあるからね、死なないように頑張ってればなるようになるさ」
「そうですね……頑張ります。それと、もう一つ聞きたかったんですけど」
「うん?」
「スキルって、なんですか?」
以前クロウさんから聞いていた『異邦人はスキルを習得できない』という話、そして今日の戦いで見た不可解な現象。あれもゲームと同じように考えればある程度想像がつくけど……
「ああ、確かに、説明するつもりが忘れていたね。といっても、このタイミングで聞いてくるということは、説明の必要もなさそうだ」
「となると、やはり……」
「うん、今日キズナが戦ったイビルゼリーの闇魔法、レッドファングの瞬発動作がそれぞれスキルだよ」
闇魔法というのはあのよくわからない黒い球、瞬発動作っていうのが慣性を無視して突っ込んでくるめちゃくちゃな能力のことかな。
「魔物や人間は様々なスキルを覚えることができるんだ、普段よりも高威力の攻撃だったり、特定の能力値を一時的に上昇させたり、まぁ、多すぎて全部は説明できないんだけど、その中でもアクティブスキルというものは自らのMPを消費して好きなタイミングで使うことができる」
「パッシブもあるんですか?」
「そうだね、理解してるみたいだけど、常時効果が発動し続けるものがパッシブスキルと呼ばれてる」
「そしてそれを僕らは覚えられない?」
「そう、異邦人は一切のスキルを他の人間のように習得することができない。この世界に来た時に与えられる転生特典、これが僕らにとって唯一無二のスキルだと捉えてもいい」
「それは……かなり不便というか、ハンデが大きいのでは」
「でも実際に一般人よりも異邦人の方が強いと言われ続ける程度には、転生特典が強すぎるってことなんだろうね」
「クロウさんの転生特典も強い?」
「ふふ、超強いよ。どんな能力かは内緒だけどね」
「そうですか……そういえば前に、コネクトがどうたらこうたら言ってましたよね、あれは?」
「そうか、そっちの方がもしかしたら大事かもしれないね。僕らの持つ転生特典、これには何種類かの大まかな方向性があるっていうのが昔からの定説だったんだ」
「ふむふむ」
「ただ、いかんせん異邦人って少なかったからね、十分な検証をするのも難しい。それがここ数年で急激に増えただろう? おかげで長年はっきりしなかった転生特典の系統分けは、ほぼほぼ終わった」
「なるほど」
転生特典は変換型、操作型、空間型、付与型の4系統に分類されるらしい。
――変換型は魔力や物質を異なる物質に変換する能力で、魔力の消費は発動時のみ、効果は永続というものが多い。レベルアップ時にはMPとINTが成長しやすい。
――操作型はある特定の対象を操作する能力で、射程が長く、能力の発動中は魔力を消費し続ける。レベルアップ時にはMPとDEXが成長しやすい。
――空間型は空間に干渉する能力で、発動時に魔力を消費するタイプと、発動中は魔力を消費し続けるタイプが存在する。レベルアップ時には各ステータスが平均的に成長する。
――付与型は対象に魔力を纏わせて変化を引き起こす能力で、発動時に魔力を消費するタイプと、発動中は魔力を消費し続けるタイプが存在する。レベルアップ時には各ステータスが平均的に成長する。
「なるほど……」
「もちろんそれが分かったからって簡単に対処できるほど甘くはないけどね」
「ですよね、ちなみにクロウさんはどのタイプなんですか?」
「教えるわけないだろう? 教えたところで実物を見ないとよくわからないだろうからね」
(俺の能力は……どうなんだろ? それを知るためにもまずは色々試してみないとな……目下の目標は、金か)
「ああ、そうだ、レッドファングの牙って回収できてるかい?」
「ん? あー、はい。牙と毛皮が……」
「いいね、武器の素材にもなるし、売るところに売ればいい値段になると思うよ、鍛冶屋とか」
「へー、いくらで売れるんですか?」
「んー、牙だけで1万くらいかな」
「ひぇ……」
長かったり短かったりしてすまん