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レベルアップ


翌日、俺はクロウさんに連れられ、村の近くにある森まで出向いていた。


「いいかい? 魔物っていうのは魔力の停滞から生まれるんだ。人の手が入っていない場所ほど魔物は発生しやすいし、発生する魔物も強い」

「魔力の停滞というのは?」

「この世界は魔力という謎のエネルギーで満ちている。例えばそれは人が魔法を使うだとか、魔道具を起動させるとかの影響を受けて不規則に動き続けているんだ」

「……だから普段人が踏み入らない場所には魔物が生まれやすい、と」

「そういうことだね。それに、魔力というのは自然にも影響を与えるんだ。魔力が濃い場所は、例えば雨が降り続けてたり、雷が鳴り続けていたり、植物の成長が早かったり……そういう場所は得てして人が街を作るには適さない。だから尚更人の出入りが少なくなるわけだ」

「なるほど」

「というわけで村に近いこの森は、適度に冒険者が出入りするおかげで湧いてくる魔物の量も強さも控え目の、実に初心者向けの狩場っていうことだ。君も今後自分で狩場を探す時が来るだろうから、その時は今話したことを参考にするといい」

「分かりました、ありがとうございます」

「さて、目の前のあれが何かわかるかい?」


クロウさんが指さした先には、半透明の大福みたいなのが転がっていた。あれは……


「もしかして、スライム?」

「正解。ファンタジーでは定番だよね。この世界にはいろんな種類のスライムがいるんだけど、あいつはその中でもとびきりに普通で、とびきりに弱い」

「俺でも倒せます?」

「倒せる倒せる。というかあれすらも倒せなかったら、人類にはレベルアップの手段がなくなってしまうよ」


俺は今、クロウさんからもらった鉄製のロングソードを装備している。ただ当然と言えば当然だが、こいつが結構重い。これを振り回して戦わなければならないのであれば、確かにあれくらいじっとしているやつが相手じゃないと厳しいかな。


「さぁ、思いきりいってみようか!」

「……はい!」


俺はスライムに近づいて、真上から剣を振り下ろす。そのまま真っすぐ剣はスライムに突き刺さり……


スライムの体から、『8』という数字が飛び出した。


「!?」

「ちょっと! ぼけっとしてないで避けて!」

「え、」


あまりにも不可解な現象に呆然としていると、慌てたクロウさんの声がして、直後、身体に衝撃が走った。同時に赤色の『1』が視界の隅に飛び出してくる。


「いたっ……くはないな?」

「いくら弱い相手とはいえ、一撃で倒せるとは限らないんだから、攻撃した後は気を抜いてはいけないよ」

「すみません、でも次でやれそうですね」

「……? まぁ、やれるだろうけど、よく分かったね?」

「え、だって……」


よくわかるも何も、さっきスライムを攻撃した直後にあれの真上に出てきた緑色のゲージ、残り2割くらいの長さになってるあれ、どうみても『HPゲージ』だろう。いくらなんでも……いや、


「……なんとなく、そんな気がしたんですけど」


違う、彼がそう言うということはつまり、見えてない(・・・・・)んだ、アレが。


「……君は思ったより野性的な感性を持っているんだね。だったらさっきはなんで……ああ、あれか! 数字に驚いたんだ?」

「え、いや……まぁ、はい」


ん??見えてるのか?


「まぁ、なんとなく察してるだろうけど、敵に攻撃したときに飛び出す数字はダメージを表しているんだ。いくつ入った?」

「8ですね」

「ふーん、ならやっぱりあと一撃で終わりそうだね、キズナ、いい勘してるよ」

「……どうも」


違った、確かに見えてない、けど、見えてないのは恐らく『HPゲージ』の方だけだ。どういう訳か俺だけ、敵の残りHPを見ることができる。そしてその原因は恐らく俺の能力……


――――――――――

指揮官(コマンダー)


 使用者にのみ視認可能なコンソールを呼び出し、仲間の召喚、強化を可能とする。


――――――――――


(こんなこと書いてなかったじゃないか……)


「さぁ、それじゃあもう一発いってみようか」

「……はい!」


俺がもう一度剣を振り下ろすと、HPを失ったスライムは白く光って弾け飛んだ。直後、レベルアップの表示が視界の隅に現れる。


「よし! やりましたよ!」

「んん? うぅん?」

「クロウさん……?」

「いや、とりあえずおめでとう。レベルは上がった……よね?」

「はい、LV1になってますね」

「それは良かった、が、正直僕は困惑している」

「え、また俺なんかやっちゃいました?」

「うん……いや、うーん、実は僕にも正直よくわからないんだけど、スライムを倒しても、普通はあんな風に光って弾け飛んだりはしないんだ」

「へぇ、そうなんですか」

「突然変異……とか、かなぁ……? でもレベルは1しか上がってないし……まぁ、いっか、とりあえずそれは置いといて、もう何匹か狩ってみよう」

「わかりましたー」


その後、合計で5匹のスライムを狩ることになったが、その全てが同じように光になって弾け飛んだ。やっぱりおかしいということで、クロウさんが一匹倒してみることになったのだが、


「うん、ほらね? 普通はこんな風に死骸が残るんだよ」

「おぉ、本当だ」


クロウさんが倒した個体は光にならず、死骸としてその場に残っていた。


「やっぱりさっきの現象は、キズナの能力に起因するものである可能性が高いかな……」

「なるほど……これって良くないんでしょうか?」

「うーん、そうだね、結論から言うと、良くない。そもそも冒険者が魔物を倒す理由の一つに、倒した魔物から回収した素材を換金して生活費にするためっていうのがある。スライムだってこんな風に…………ほら、小さい魔石が取れたりするんだ」

「へぇ、それいくらで売れるんですか?」

「50コイル」

「あー、スライム一匹倒してそれなら、割といいかもですね」


『コイル』というのはこの世界の通貨のことだ。魔力が結晶化したものらしく、主に燃料なんかに使われるらしい。ちなみに俺が今持ってる鉄の剣は、クロウさんが親っさんの店で6000コイルで買ってくれたものだ。


「だろう? だが君の場合、倒した魔物は跡形もなく消え去ってしまうので、その方法でお金を稼ぐことができない」

「うーん……」

「おまけに目立ちすぎる。人前であんなのを見せたら、私は異邦人ですって言って回ってるようなものさ」

「うーん…………」

「参ったな……」


俺氏、詰んだかも。


それではみなさんよいお年を~

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