こんばんは、初めまして
「今日も一日頑張るぞいっと」
ベッドから起き上がる、窓から差し込む光が気持ちいい。
あれから半月が過ぎた。ちなみにこの世界のひと月も元居た世界のひと月も大して変わらないらしい。こっちはひと月30日が12ヵ月の360日でちょうど一年ということなので若干数えやすい程度か。
「さてさて、今日のログボも……入ってる入ってる」
色々と分かったことがある。この世界のこともそうだが自分の能力についても。
――例えば毎朝5時には召喚石30個(通称ログボ)が自動で補充されることだったり
――例えば画面右上に表示された49/50という数字はMPと連動していて、0になると強制的に画面が消えることだったり
――またまた例えばその下にあるメモ帳ボタンを押すと様々な『クエスト』が確認できることだったり
そんな感じで俺はこの半月で様々なことを学んでいた。今となっては俺以上に俺の能力に詳しい人間はいないだろう。当たり前だが。
(召喚石も地味に溜まってるけど、まだガチャ一回分か、10連回せるまで3ヵ月ちょっとって考えるとまだまだだなぁ……)
「ま、果報は寝て待てってね」
――何はともあれ今日も仕事だ。頑張ろう。
――――――――――
「ありがとうございましたー!」
「おう、今日はもう閉めるか」
「そうですね、暗くなってきましたし」
暗くなってきたと言えば、この世界には明らかに地球とは違うところがあった。
太陽の存在である。この星(?)にも朝と夜の概念があるのだが、その切り替わり方が斬新だった。この世界の太陽はスリープタイマー付きの照明なのだ。太陽っぽいそれは24時間微動だにせず、明るくなっては暗くなってをゆっくりと繰り返すのみ。この世界では日が沈むことはないし月が出ることもない。
キズナが店を閉めようと入口へ向かうと、そこには一人の男性が立っていた。
「どうも、今日はもう店じまいかな?」
「ああ、今閉めようと思ってたところですけど大丈夫ですよ! 親っさん、お客さんでーす!」
「あん? こんな時間にか? ったく、何が……」
「やあ、久し振り。2年ぶりくらいかな? 近くに来たついでに寄っただけなんだけど……随分面白い少年が居るじゃないか、親方」
「おめぇは……」
「あの~……俺、引っ込んでた方がいいですかね?」
「ああ、待ってくれ、せっかく会えたんだ、君とも話がしたい」
「……俺と、ですか?」
「おい、」
「ふふ、聞かなくても分かるよ。異邦人だろう、君?」
「え」
「ああ、怖がらないでくれ。僕もなんだ」
「異邦人」
――――――――――
今、俺たちは三人でテーブルを囲んでいる。
俺と、親っさんと……急に現れた異邦人のお兄さんだ。
「いやぁ、それにしても驚いた! 本当に驚いたよ! 15日前だって? ドンピシャじゃないか!」
「おめぇ、狙ってきたんじゃねぇだろうな」
「そんなわけないだろう? 正真正銘ただの偶然だよ、もしかしたら運命かもしれないけどね?」
「…………」
「それにしても、随分警戒しているね? どうしてだい? 親方に何か吹き込まれたかな?」
「ああ、坊主、安心しろ、そいつはまともな方だ」
「おやおや、まともじゃない方がなんなのか気になるねぇ?」
「おめぇさんの方がよっぽど分かってんだろうがよ」
「ふふ、それもそうかもしれないね」
「あの、あなたは……」
「ん? 敬語じゃなくていいよ。君、日本人だろう? 同郷のよしみだ、仲良くしてくれると嬉しいな」
「いや、敬語っぽいのはデフォルトっていうか……まぁいいや、そう言うってことはあんたも日本人……なのか?」
「そうだね、50年くらい前にこっちに来たんだ」
「ごじゅ!?」
「はは、驚いた? ということは知らないんだ、異邦人のルール」
「ルール、ですか?」
「ああ、ルールその1」
「異邦人は歳を取らない」
「!?」
「ダメじゃないか親方、ちゃんと教えてあげなきゃ」
「そのうち教えるつもりだったんだよ、一度にあれこれ言っても仕方ねぇだろうが」
「ふふ、そう、僕たちの身体は少し特別らしくてね、老衰することもなければ、寿命で死ぬこともない。正真正銘の不老不死というやつだよ」
「……それは、異邦人全員が?」
「そうだね、今まで僕が見た中では例外なく、寿命で死んだ異邦人はいない。どういう仕組みかは分からないんだけど、そういうものと捉えるしかないんだ」
「そう、ですか」
寿命が無いだなんて到底信じ難い話ではあるが、目の前の彼が50年以上生きているというのであれば確かに信憑性は出てくる。だってどう見ても目の前の男は20代前半程度にしか見えないのだから。
「そしてルールその2、異邦人はスキルを習得できない」
「……スキル??」
「…………親方」
「それも後で、だ」
「はぁ……まぁ、わかるよ。大方こっちの暮らしに慣れるまでは匿っておくつもりだったんだろう? その選択自体はそこまで悪くない、けど、最善でもないね。君……あー、名前なんだっけ」
「キズナです」
「キズナ君! いい名前だ。君、レベルは?」
「……0」
「本当に生まれたてじゃないか! 親方……流石にそれは危機感がなさすぎるよ……万が一僕以外の異邦人が来たらどうするつもりだったんだい」
「……なもん俺が叩き出してやらぁ」
「そんなこと不可能だって分かっているだろう、まぁ、確かに多少レベルを上げたところで何とかできるような話ではないけど、それでも0はまずい。今の彼じゃ1秒だってもたないよ」
「……そんなにまずいんですか?」
「ああ、まずいもまずい、激マズだよ、この世界で僕らが生き延びるためにHPの障壁は必要不可欠だ。君のステータスじゃちょっとした魔法の余波で削りきられる」
「今の俺のステータスって……」
「まぁ、具体的な数字はわからなくてもある程度想像はできるからね、HPとMPは2桁、残りは良くて20、悪くて1桁だろう?」
「HPとMPは50で、他は10です」
「…………」
俺のステータスを聞いた彼はぽかんと口を開けて固まった。え、そんなにヤバいの?俺のステータス?
「君も相当に危機感がないね……いいかい? 普通、会ったばかりの人間に対して、自分のステータス値を教えるような真似はしてはいけない。今のはそういう話の流れにしてしまった僕も悪いと思うし、当然他言はしないが、それでもダメだ。この世界においてステータスは重要な手札、しかもレベル0時点のステータスなんて自分の弱点をまるまる伝えてるようなものだよ」
「そんなに?」
「ああ、そんなに。例えば今ので予想がついたけど、君の転生者特典は十中八九、空間型か付与型だ。まぁ、まかり間違っても変換型や操作型ではないというのはバレる。ヤバいだろう?」
「……コネクトとか、そういうのはよくわからないんですけど、まぁ何となく、ヤバそうだなってのは」
「そうだね、それも後で教えよう。ここで会ったのも何かの縁だ、ある程度は面倒を見ようじゃないか。親方、明日からは僕がキズナ君の面倒を見るよ。いいだろう?」
「え、待ってください、」
「いい、坊主、そいつの言ってることは正しい。正直俺もどう教えるか悩んではいたんだ、渡りに船だと思って世話んなれ」
「そういうことだ。君もせっかく転生したのにしょうもないことで死にたくないだろう? ここは乗っておく場面だよ」
「……なら、お願いします」
「ああ、任せたまえ、さっそく明日から狩りに出るよ。表向きは、そうだな、親方の伝手で僕に弟子入りしたことにしよう。異論は無いかな、キズナ君?」
「はい、よろしくお願いします……あと、俺のことはキズナでいいです。えっと……」
「ん? そうか、自己紹介がまだだったね、僕のことはクロウと呼んでくれ。これからよろしく頼むよ、キズナ」
こうして俺は鍛冶屋の臨時店員からクロウさんの弟子にジョブチェンジした。
――――――――――
「そういえばクロウさんのご職業って……」
「ふふ、なんとなく分かるだろうけど、冒険者」
「……ですよねー」
ぐっもーにん。次の投稿は今日の17時頃かな