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二刀流というシステム


最近気づいたことがある。

剣は、2本持った方が強い…………かもしれない。


「うーん、どっちがいいんだろ」


先日、クロウさんから借りていた鋼鉄製のロングソードを正式に買い取らせてもらったんだけど、『じゃあ、前に貰った剣はどうするの?』ってことで(たわむ)れに二刀流にチャレンジしてみたところ、ある不思議な現象が起きることに気付いた。


――この世界では、剣を両手に持った場合、2本分の数値(・・・・・・)がSTRに加算される。


いや、そもそもSTRって何ぞやって話なんだが、簡単に言えば『攻撃力』のことである。

この世界の生き物は例外なく、HP、MP、STR、VIT、INT、RES、DEX、AGIという、まるでゲームのステータスのような8種類の言葉で表される加護を持って生まれてくる。

これらの加護は、日常生活では何の意味も持たないのだが、ある瞬間、(すなわ)ち『他者と傷つけあう』時にだけその効果を発揮する。


――HPとは、他者の攻撃から己の身を守る絶対の障壁


――MPとは、神の権能である『スキル』を神ならざる者が使用するための権限


――STRとINTは、攻撃によって他者のHPを削る力


――VITとRESは、他者の攻撃を受け流す力


――DEXは、あらゆる行動の精度を、AGIはあらゆる行動の速度を向上させる


強き存在を求める神々が、弱き者に与えた奇跡、それがステータスの加護というものだ。

人々は念じれば自らのステータスを確認することができて、あとどれだけの魂を吸収すれば己が高次の存在へ至れるのかを知ることができる。

まぁ、これはあくまでそんな風に昔から言い伝えられているよってだけなんだけど……


話を戻そう、装備とは加護を強めるための道具だ。例えば武器はSTRを、鎧はVITをといったように、特定のステータスを強化する役割を果たしてくれる。

重要なのは、装備が装備者のステ(・・・・・・)ータスそのもの(・・・・・・・)を上昇させるという点だ。剣そのものにではなく、剣を装備した人間にSTRの加護が付いているので、

どちらの腕で(・・・・・・)攻撃しようが(・・・・・・)剣2本分の威力(・・・・・・・)を出すことができる。


STRというのは魔物との戦いにおいて非常に重要だ。なぜなら、ほとんどの状況に置いて、攻撃した側のSTRから攻撃された側のVITを引いた値がそのままHPへのダメージになるから。

そう、つまり、STRの上昇という面でだけ考えれば、剣を1本持つよりも、2本持った時の方が2倍近いダメージを与えられることになる。

じゃあなぜ世の冒険者たちは武器を1本しか持たないのか、それは、武器を2本以上装備することで起こるある現象のせいだ。


――武器を複数装備するとVIT、INT、RES、DEX、AGIの各ステータスから、武器によるSTR上昇値の半分が差し引かれる。


具体的にどんなことが起こるかというと、


――――――――――

HP :140/140

MP :140/140

STR:58

VIT:38

INT:28

RES:28

DEX:28

AGI:33

――――――――――


これが、


――――――――――

HP :140/140

MP :140/140

STR:68

VIT:18

INT:8

RES:8

DEX:8

AGI:13

――――――――――


こうなる。


ちなみにこれはSTR補正30の鋼鉄のロングソードを持っていたところに、STR補正10の鉄のロングソードを追加した場合だ。

まぁ、二刀流がいないのも頷けるけど、全く使えないかと言われるとそうでもないんじゃないかと思う。


例えばVITとAGIが他より若干高いのは、親っさんに貰った『赤牙狼のマント』のおかげだ。現状二刀流の影響によるバッドステータスは20、おまけに魔法を使わない俺はINTを必要としないし、VITもRESも攻撃を受けなければ問題ない。つまりクリティカル補正に影響するDEXと、回避や攻撃の速度に影響するAGIだけをカバーしてやればギリギリ使えるようになるはず……


(ただ、そうするなら装備を増やさないとなぁ)


装備を作るには金が要る。そして俺には金がない。現在の所持金は7439コイル。

これがどれくらいかというと、まともな宿屋に部屋を借りたら2週間で底を尽く程度だ。先日のゴブリン退治でギルドから出た報酬が2万コイル、クロウさんから鋼鉄の剣を定価で買って2万コイル。今の俺が必要とするレベルの装備を手に入れるには最低でもそれくらいの金が必要になってしまう。


「……やっぱり冒険者になるしかないと思うんです」

「うーん、まぁ、いいんじゃない? 実際それが一番楽だと思うよ」

「そうですよね、そういえば、冒険者になることでデメリットとかあるんですか?」

「とくには無いかな? 指名依頼を断るのが面倒なくらい? あと活躍するほど目立つ」

「まぁ、それはそうですよね」


……やはり冒険者にはなっておくべきだろう、いつまでも親っさんのところに居候してるわけにもいかないし。


「決めました、俺、冒険者になります」


――――――――――


朗報、冒険者になった。悲報、仮登録しかできなかった。


仮登録状態というのは、冒険者ランクに制限が付くだとか、ギルド内でのクランの設立ができないとか、指名依頼が受けられないとか、まぁ色々不便な状態らしい。

本登録をするにはもっと大きな街にあるギルドへ行って加入試験を受けねばならず、仮登録の場合は即時納品型の依頼もしくはギルドから発行されるEランク以下の討伐依頼しか受けさせてもらえないらしい。


なんでこんな面倒なシステムになってるかというとそれはひとえに冒険者ギルド全体の信用のためである。冒険者ギルドの役割は依頼の斡旋(あっせん)であり、民間や貴族からの依頼を適切な能力を持った冒険者に割り当てることでマージンを取って運営しているわけだ。素上の知れない奴に仕事をさせて失敗しましたでは顧客からの信用もがた落ちなわけである。


信用も何も競合他社がいないのだから結局人々はギルドに頼るしかないのでは?と思ったんだが、世の中にはギルドに所属しない所謂(いわゆる)フリーランスの冒険者がいたり、エトランゼのような組織もあるのでそちらに仕事を取られてしまうこともある。

そのためギルドは冒険者をランク分けし、相応の実力を備えた冒険者に適切な仕事を割り振ることで、依頼の成功率を上昇させているのだ。

そして俺は説明に含まれていたある言葉を聞き逃さなかった。


「依頼の下請け行為は禁止って言ってましたけど……」

「ああ、そうだったかな? まぁ、でも問題ないよ。報酬の2万コイルは僕の手にあるし、依頼自体も僕がキズナに協力を依頼しただけだからね」

「詐欺じゃないですかそれ」


どうりで急に剣の買取りを進めてきたわけだ。こんなのもう犯罪でしょ。


「何はともあれ、仮ではあるけどキズナも冒険者になったわけだ。今後は堂々と依頼を受けられるね」

「はぁ……」


ちっとも悪びれた様子の無いクロウさんの姿を見て、これが冒険者の(したた)かさなのかなとか考えながら、俺は小さくため息を吐いた。


投稿するときいつもタイトル間違える

(あげなおし)

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