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ゴブリン


クロウさんの元で狩りを始めてはや七日、めでたくレベルが10になった俺は、クロウさんに連れられていつもより深いところまでやってきていた。


「さぁ、着いたよ。ここが目的地だ」

「これは、洞窟ですか、中には何が?」

「ゴブリンの巣」

「あー、いるんですか、ゴブリン」

「うん、今日はここのゴブリンを間引く依頼を受けてきた」

「……依頼ですか?」

「そ、前に言ったと思うけど僕って冒険者だから。基本的にはギルドに寄せられた依頼を解決するのが仕事なんだよね。昨日ちょうどこの依頼が上がってたから、ついでに受けてきたんだ」

「なるほど。でもそれって僕がやるんですよね? 大丈夫なんですか? その、ルールみたいな」

「うん? まぁ、いいんじゃないかな? どういう形でも依頼が達成できるならギルドはとやかく言ってこないと思うよ。というか、どうせバレないし」


それは本当にいいのか怪しい気がするが、まぁ確かに目的は達成するんだからいいっちゃいいのか。


「じゃあ行こうか」

「うっす」


――――――――――


結論から言うと、ゴブリンは大して強くなかった。


「うーん、やっぱりというかなんというか、レッドファングには劣りますね」

「まぁ、それはそうだろうね。ゴブリンだって進化すれば強いよ」

「へー、ここにも出るんですか?」

「出ないと思う」

「そうですか」


洞窟はここが行き止まりらしく、今倒した2匹で最後だったようだ。

洞窟といってもただの洞穴(ほらあな)でここまで分かれ道もなく、最奥部は少し広めになっているくらいだ。道中に倒した分含めて11匹しかいなかったし、狭い道幅で素手で襲い掛かってくるもんだから正直敵じゃなかった。

ちなみに今の俺の装備はクロウさんから借りた剣と、レッドファングの毛皮で作ったマント。一昨日手に入れたレッドファングの牙と毛皮は、親っさんに宿代として渡すことにしたんだけど、昨日の夜になぜかマントを貰った。つくづく出会いに恵まれたんだなと実感するね。


「ボスとかいるのかなって、思ってたんですけど」

「運が悪いといるときもあるだろうね、ボスといってもたかが知れてるけど」

「そういえば依頼の完了ってどうやって証明するんですか?」

「ああ、それはね」


そう言ってクロウさんが何かを取り出そうとしたところで、入り口の方から足音が聴こえることに気付いた。振り返ると、そこに立っていたのは今日俺が散々戦ったゴブリンの姿。しかし、今までのゴブリンとは明確に異なる点が一つ、

そいつは杖(・・・・・)を握っていた(・・・・・・)


「避けろ!」


クロウさんが叫ぶのと同時に俺も大きくその場から飛び退く。直後飛来してきた火の玉がさっきまで俺たちの立っていた場所で爆ぜる。


「気を付けて! 最悪一撃だ!」

「了解!」


そうは言うもののやはりクロウさんは手を貸してくれないようだ。

というのも、魔物を倒した際の入手経験値は、その魔物に対して有効ダメージを与えた人数で分配されるらしく、少しでも多く俺に経験を積ませたいクロウさんとしては、本当に死ぬと思った時以外は傍観に徹するのが最良なのだ。実際一人でレッドファングを倒した時の経験値は凄かったし、それ以上に一対一で格上に勝利するという経験は俺にとっても得るものが多かった。


(そうは言ってもちょっとスパルタが過ぎるかな!)


飛んでくる火の玉を躱しながら、徐々にゴブリンとの距離を詰めていく。ゼロ距離まで近づいたところで剣を一閃。入ったダメージは『30』。全体の1割以上が削れていた。


(あれ? こいつ柔らかいぞ?)


怯んでいるところにすかさずもう一撃。やはり大幅に削れるHPを見て、俺は確信した。


――ごり押しで勝てる(・・・・・・・・)と。


「くたばれぇぇぇぇぇ!!」


俺は目の前のゴブリンに体当たりをかまし、そのまま尻をついたそいつに馬乗りになりながら顔面に何度も剣を叩き込む。6回目の攻撃が入ったところでゴブリンは力尽きた。


――――――――――


「はっはっは!! 随分思い切りのいい戦い方だったじゃないか!」

「いやぁ、はは……」

「なに、恥ずかしがることじゃないよ? 事実として君は無傷の状態であれを仕留めたんだからね!」


終わってみれば実にあっけなかった。確かにあいつの魔法は強力だったのだと思うが、裏を返せばそれだけだ。当たらなければ意味はないし、一度ダウンさせてしまえばなすすべなくやられるだけだった。


「あんなの倒すだけでこんなに経験値貰えるなんてラッキーですね」


なんとさっきのゴブリン(正確にはゴブリンメイジという個体らしい)を倒しただけで、次のレベルまでに要求されていた1000以上の経験値が埋まったのだ。

1匹の魔物から得られる経験値はその魔物のレベルに比例する。厳密には、『その魔物がそこまでのレベルに達するのに必要とした経験値』がそのまま俺たちの得る経験値なわけだが、つまり奴は最低でも1000の経験値を蓄えていたことになる。

だからこそあの弱さが若干気になるところではあるのだが……


「うん、さっきの1匹で依頼も無事完了だ、村に戻ろうか」


クロウさんが1枚のスクロールを取り出すと、そこには依頼内容に被せるように赤い幾何学模様が浮かんでいた。


「説明の途中だったけど、ギルドが発行する依頼用のスクロールには特殊な魔法が仕掛けられていてね、こんな感じで依頼が達成されると自動的に魔方陣が浮かび上がるんだ」

「へぇー、すごいですね」

「どうやらこれも異邦人の残した遺産らしいね、僕が来た時には既に存在していたから詳しくは知らないんだけど」

「ほえー」


そうして俺たちが出口に向かって歩いていると、何か嗅ぎ慣れない、生臭いよう、な……


「……え?」

「なるほど……」


そこには血まみれで俯せに倒れた、女性の死体があった。


「後ろから一撃でダウンして、そのまま悲鳴を上げることもできなかったんだろうね。さっきのメイジの仕業だろう。大方狩りから戻ってきたゴブリンが彼女を殺して進化したっていうところかな」

「そんな……」

「まぁ、犠牲者が出てしまったのは残念だが、勉強になったと考えればいいさ、場合によってはここで死んでいたのは君かもしれないよ」

「俺たちが、外のゴブリンを先に見つけてたら、この人は死なずに済んだかもしれないんじゃ……」

「そんなことを言っても仕方ないだろう。僕らが世界中の魔物を滅ぼしていれば魔物による被害は起こっていなかった。そう言っているのと同じだよ。たらればで、無理筋の話をしても何も解決はしないんだ」

「…………」

「この世界での人間の命は軽いよ、本当に。ショックなのはわかるけれど、こんなことでは立ち止まっていられないんだ。僕らは生きているんだからね」

「……はい」

「さぁ、早く帰って早く寝て、明日もレベル上げに精を出そうじゃないか。そうすれば救える命も増えるかもしれないね」


まだチュートリアル続きます

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