久し振りの感覚
「ふぁ~眠い……」
欠伸をしながら背伸びをする。
まだ辺りは暗い。
朝と呼ぶには早過ぎる。
そんな時間に俺は何をしているのかというと、訓練所に落ちているレビーが持っていた風の聖剣の監視をしていた。
レビーの話を聞いた後、ステフと話して、夜中から朝までは俺が風の聖剣の監視をすると約束したからしょうがないが……やっぱり眠いなあ……。
第一、監視なんかする意味あるか?
マリンズ王国内でも、百年くらいはこの風の聖剣をまともに扱える聖剣使いが現れなかったんだろ?
今のイーグリットに風の聖剣が認めるほどの風属性魔法の使い手なんかいないって。
……マリーナやエリーナクラスの魔法使いがいれば、また別の話だが。
俺も一応中級までなら風属性魔法は使えるし、なんなら火属性魔法の次には得意だけど……まあ流石に選ばれるなんてことは無いだろ。
……無いよな?
地面に転がっている風の聖剣を見ながら、まさかな……と思い直し、首を振る。
火の聖剣に選ばれたことだって、そもそも想定外だった訳だし。
あの時はビックリしたなあ……急に聖剣に話し掛けられてさあ……。
(……ねーキミ。面白いね)
そうそう……こんな風に話し掛けられて……って、ん?
話し掛けられた?
いや、そんな訳無いか。
風の聖剣が俺に話し掛けてくるなんてことはあり得ないはずだ。
(ねーねー、聞こえてるんでしょ? 無視しないでよ。プライス・ベッツくん? ああ、今はプライス・ミューレンくんか)
「!?」
今、誰かに名前を呼ばれた。
聞き間違いじゃない。
かつての名字を呼ばれた後に、今の名字を呼ばれた。
……誰かいるのか?
こんな時間に、一体……誰が?
(おい、お前。呼ばれているのに無視は良くないだろう?)
突然誰かに名前を呼ばれたかと思えば、今度は珍しく火の聖剣に呼ばれた。
呼ばれているのに無視は良くない? いや、誰が俺を呼んでいるんだよ?
(聞こえているのだろう? 風の聖剣がお前の名を呼んでいるのを? さっきから話し掛けているではないか?)
は? え? マジ?
風の聖剣が俺に話し掛けているだって?
(キミ、本当に面白いね。普通ボクらから話し掛けられたら、大抵の人間は大喜びするんだけどなあ。まあ、キミは大抵の人間に当てはまるような人間じゃないか。火の聖剣を使う聖剣使いだし)
……マジで風の聖剣が話し掛けてきてたわ。
正直ビックリなんだけど。
(我に初めて話し掛けられた時も、そんな反応だったなお前は。だが、これは決して悪い事ではない。むしろお前を認めたという事だ。恐らく風の聖剣もお前を認めたのだ。良かったな)
いやいやいや、良くねえよ。
この風の聖剣はマリンズ王家の物だろ。
レビーも王家に返却するって言ってたし。
これが初めてとかなら、まだ何とかなるかもしれないけど、ステフもいるんだぞ。
流石にこの短期間で聖剣二本も奪われたら、マリンズ王国だって黙っちゃいないって。
(それに関しては、ボクからも言いたい事があるね。百年以上もボクをまともに扱える人間が出てこない国が、果たしてボクを所持している意味があるのかってね。風の聖剣がそう言っていたって伝えてくれれば、きっと諦めてキミにボクを託してくれると思うよ?)
…………。
火の聖剣も失礼な奴だが、風の聖剣も大概だな。
俺にわざわざマリンズ王国へ行って宣戦布告をしろとでもというのか。
(ねーねー? 色々と考えてるみたいだけどさ? 多分キミ、今のままじゃマリンズ王国の第一王女に負けるよ? 長い間マリンズ王国にいたボクが言うんだから、これは間違いないね)
……ステフからテレサの話を聞いて、まあ何となく無理だろうなと思っていたけど、やっぱりか。
そもそも俺の持つ聖剣と相性が悪い上に、国を滅ぼす力と実績があるわけだから、当然と言えば当然なんだが。
(おい、風の聖剣。この男には我がいると分かっていての発言か? 百年以上もの間ロクに活躍していない風の聖剣の忠告など、説得力に欠けるのだが?)
(えー? だって向こうは水の聖剣もあるんだよ? 単純に相性悪いし……。それに向こうは聖剣を二本持ちなんだよ?)
争うな争うな。
聖剣同士で。
それに、テレサと俺がやり合うなんて決まったわけじゃねえだろ。
国を滅ぼすような化け物と戦いたくなんか無いぞ。
風の聖剣は、まるで俺とテレサが戦うのは確定みたいな口振りだが、生憎そんなつもりはない。
こちとら、マリーナとエリーナでいっぱいいっぱいだ。
だがしかし……。
(んーそれは無理だね。恐らくキミ、今のままじゃ間違いなくテレサとは戦うことになるよ。そして負けるね。聖魔法を使える聖剣使いもあと二人いるみたいだけど、まあその二人を入れて、三対一で戦っても善戦程度で終わるんじゃないかな)
……マジかよ。
あんな化け物と戦うのは確定なのかよ。
そんでもって敗北もセットなのね。
嫌なことを聞いてしまった。
適当に言っている訳でも無さそうだし。
(でも、ボクがいれば話は変わってくると思うよ? 更に、キミの仲間……ダリアだっけ? ボクとあの子の更なる進化……それがあればテレサにすら勝てると思っている)
……ダリアの更なる進化?
ここまでご覧いただきありがとうございます。
カクヨムでは87話+アザレンカルートまで掲載されているのでそちらもお願いします。
※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。
ご了承下さい。