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動く姉妹

バリーがダイニングから出て数分後、マリーナに呼ばれていたセリーナがダイニングに戻ってきていた。


ダイニングへ入ると、紅茶を飲んで寛ぐエリーナがいたので、セリーナは声を掛ける。


「バリー様は?」

「お爺ちゃんなら、帰ったよ。お婆ちゃんに怒って帰っちゃった」

「そうか。……確かに、カトリーヌ様に激怒していたからな、バリー様」


バリーが帰った理由を適当に説明する為に、カトリーヌのせいにしたエリーナだったが、セリーナがあっさり納得してしまい、拍子抜けしてしまう。


正直に計画をバリーに説明したと話しても良いが、両親と姉は良い顔はしないだろう。

ましてや、プライスに伝えても構わないとバリーに話したので、伝える為にバリーは帰ったなどと言えば、余計な事をするなと怒られてしまう。


しかも、プライスに話しても構わないと言った理由が、本気のプライスと、本気の聖剣と戦いたいというエリーナの我が儘を話したところで、納得する程三人に余裕は無い。


「そんなことより、ママから次は誰を殺せって言われたのお姉ちゃん?」


エリーナは話を変えた。

ボロが出て、バリーが帰った理由がバレるのも面倒だとも考えていたが、単純に姉を心配しているのだ。


いくら、ベッツ家の跡取りになりたいからといって、傍から見れば、セリーナは両親の命令を聞き過ぎだと思ってしまうのも無理はない。


エリーナも自分自身がおかしい人間という自覚はある。

だが、当たり前のように人を殺せと娘に命令する親もその命令に当たり前のように従い、人を殺す姉もどちらもおかしい人間なのだ。


特に、父親と姉は魔剣を使うようになってから、おかしくなってきたような気がしていた。


母親は、なんら変わった様子はない。

確かに、人を殺せと娘のセリーナに頼むのは一見おかしいかのように見えるが、基本的に凶悪な犯罪者達の処罰しか頼まない。


「ああ、母上はいつものだ。また魔剣を悪用しようとした不届き者がいたらしい。問題は父上の方の命令だ」

「え? またパパに命令されたの?」

「ああ、私が母上の命令を聞き終わって、父上に今のプライスの状況を報告しようとしたら、計画を変更すると言ってな」


ため息を吐きながら、セリーナは憂鬱になっている。


セリーナも分かっているのだろう。

最近の父親がおかしいということに。


王家などの自分より上の立場の人間がいる時は以前と変わらない父親なのに、自分より立場が下の人間しかいなくなった途端、暴君と化してしまう。


だが、父親の焦る気持ちは分からないでも無かった。

多くの騎士達の命を奪って、コストカットをしたことは王家内では評価している人達もいれば、疑問視している人達もいる。


王都の人間からの反発も大きかった。

命よりも金を優先するのかと。


その反発の答えとして、父親はボーンプラントの敵勢力を捕まえ、王都に連れてきて大量に公開処刑を行った。


第一王子が次の王になる事への反対勢力を潰す目的もあったが、国民に対して見せしめという意味も含まれていたのだ。


自分達に逆らうなら、次はお前らの番だと。


この公開処刑は効果覿面だった。

ぱったりと批判の声が無くなった。


だが、ここまでやってしまえば、失敗は許されない。


失脚などということになれば、自分は処刑台に送られてしまうだろうから。


そんな父親の心情は分かっているのだが、無理難題を押し付けられたセリーナは呆れながらエリーナに話し始める。


「父上の命令は、勇者アザレンカを殺せという命令だ。エリーナ、これはお前にも手伝って貰うぞ」


セリーナから伝えられた父親の無理難題を聞いて、エリーナも呆れてしまった。


「プライスとダリアちゃんの目を掻い潜って、聖剣に選ばれてないとはいえ、上級氷魔法の使い手の勇者を殺せって? 無茶な事言うねパパも」

「全くだ。しかも、リスクに対して大したリターンも無い」


勇者を殺す。

いくらセリーナとエリーナが将来期待されている騎士と魔法使いでも、簡単な事ではない。

しかも、勇者の死は、イーグリット王国の他国への発言力の低下に繋がりかねない。


「どうして、そんな事やらされる訳? 何かメリットあるの?」


エリーナは当然分かっている。

勇者がどれだけの影響力を持つのか。

なら、何故殺さなければならないのか?


セリーナは言い淀みながらその疑問に答えた。


「勇者アザレンカを殺し、本当のイーグリットの勇者はプライスだと国民や他国に宣言する気でいるようだ父上は」


セリーナの言葉に唖然とした。

父親が自分達に勇者を殺させてまでやろうとしていること。

それをエリーナは何となく察したからだ。


「まーたパパの悪い癖が出た。プライスを利用して、自分達の王国内での発言力を強めたいんだね」

「ああ、騎士王と大賢者、そこに勇者が加われば誰も逆らえなくなるだろう? 更に、プライスが勇者になることでの我々のメリットはこれだけではない」


そう言いながら、セリーナはテーブルを挟んでエリーナの向かい側の椅子に座る。

本格的に話すべきだと考えたからだろう。


「もう一つのメリットは、私達が勇者の意見を無視出来る状態を続けられるということだ」

「どういうこと?」

「自分達がやりたいことがあっても、今までは聖剣を持った勇者に異を唱えられれば自由に国を動かす事が出来なかった。それを嫌がって聖剣を敢えて勇者アザレンカに渡したのはお前も分かっているだろう?」


そう、今は自分達の好きなように出来ている。

厳密には先代勇者のマルクが病で倒れて王都に来なくなってからこの状態は続いていたが。


元々は勇者に口を出されない事に味を占めた王家が、それを保つために敢えてアザレンカに聖剣を与えた。


だが、アザレンカを頼ったプライスが聖剣に選ばれてしまうという想定外の事が起きてしまい、更にアザレンカは第二王女派。


このまま、アザレンカを勇者にしておけば、プライスと第二王女を連れてきて、自分の意見を言い出すようになってしまうかもしれない。


「あー……プライスを勇者にすれば、ママや女王様辺りの説得で暴走とか止められそうだし、何より面倒事に巻き込まれたく無いって言って、意見してこなそうだもんね」

「父上も言っていたよ。プライスは甘いと。だからその甘さと奴の性格を利用させて貰うという訳だ。それに、戦力は削っておいて損にはならないだろう?」


セリーナの言葉にエリーナは頷く。

アザレンカの氷魔法が厄介なのは、良く分かっている。

味方であれば心強いが、敵ならば相手をするのも面倒だ。

更に強化魔法のスペシャリストのダリアに強化された上級氷魔法など想像するだけで、恐ろしい。


それならば、ここでアザレンカには死んで貰うのも、一つの策かもしれない。

と考えたのだ。


そうして、二人の話は進んでいく。

だがエリーナにはもう一つ疑問があった。


「ステフちゃんはどうするの? わざわざ第一王女をマリンズ王国に嫁がせてまで呼んだのに」


アザレンカの代わりの勇者として呼んだステファニーはどうするのか?

それは当然の疑問だろう。


しかし、セリーナはどうにもならないといった感じで答える。


「どうするも、ステファニーは私達の言うことを聞かないだろう。プライスに会える気がすると妄言を吐き続けて、ボーンプラントから動こうとしなかっただろう」

「結果的に、ボーンプラントでプライスと会えるから良かったんじゃない? ……ま、今のステフちゃんが他の女の存在を許すとは思えないけど」


苦笑いを浮かべながら、エリーナは紅茶を飲む。

対照的にセリーナは好都合と言わんばかりに笑っていた。


「聖剣同士の戦いになれば、プライスはあの二人から離れて戦う事を選ぶだろう? プライスの事だ、二人を怪我させたくないと考えるはず」

「あ、そっか。その隙に私達は二人の所へ行ってアザレンカを殺せば良いのか。どうする?

ついでにダリアちゃんも王都に連れてく?」

「いや、相手は勇者だ。確実にアザレンカを殺そう。欲張るとロクな事にならん」


そう言ってセリーナは立ち上がる。


「準備は……出来てるようだな。行くぞ、ボーンプラントに」

「いや私、転移魔法使えるから、まだ行かなくて良いでしょ」

「お前一人だけだろう? 転移出来るのは? まさか、プライスみたいに一緒に連れて行く者を抱きつかせたいのか?」

「はあ……プライスと一緒にしないで、そんな事しなくても私の魔法なら複数人でも荷物も持たなくても一緒に転移させられるから。……というか、プライスそんな事してるの?」

「ああ、この目で何回も見た」

「……それ、ステフちゃんに見つかったらプライス殺されるんじゃない?」

「……確かに、不味いかもしれんな」


セリーナとエリーナ、二人の姉がプライスを心配している頃、当のプライスはいつもの宿屋で、ダリアとアザレンカに全てを説明していたのだった。

 ここまでご覧いただきありがとうございます。


 カクヨムでは85話まで掲載されているのでそちらもお願いします。


 ※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。

 ご了承下さい。

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