騎士王の真の計画
セリーナが絶望している理由。
そう、セリーナは一部始終を見ていたのだ。
一番計画を知られてはいけない人間に、計画が知られた。
更に自分が百を超える人間を殺めている事までもがバレてしまった。
次にプライスと会う時には、死を覚悟しなければならないだろう。
絶望するなというのが酷である。
「恨むのなら、婆さんを恨むんじゃな。ペラペラと喋りおって」
絶望するセリーナにバリーは、自分の責任では無いと言いたげに声を掛ける。
が、セリーナの今の格好を見て、すぐにその意見を撤回する。
「……醜いのう。また、罪もない人を殺めて来たのか」
バリーは、酷く嫌悪した。
セリーナの血に染まった鎧を見て。
血の量からして、恐らく一人二人では無いだろうと、バリーは察する。
「い、いえ! 今回は違います! 馬車に乗っていた所を盗賊に襲われたのです!」
「何の罪もない仲間を、騎士王である父親の命令とはいえ、百人以上も殺めた奴の言葉など信用出来んな」
「そ、そんな!」
セリーナは嘘はついていなかった。
実際、ラウンドフォレストから王都へ大幅に戻って来るのが遅れたのは、途中で盗賊に襲われたからだった。
しかし、バリーは聞き入れようとしなかった。
いや、聞き入れたく無かったのだ。
当たり前のように人を殺すようになった孫娘を見てられなかったから、という理由もあるのかもしれない。
二人の間には重い空気が流れる。
そんな、二人の空気を壊すように。
大声でセリーナを呼びながらエリーナがダイニングへ入ってきた。
「お姉ちゃーん? 帰ってきたの? ママがまた殺して欲しい人達がいるって……あら、お爺ちゃん」
セリーナだけがダイニングにいると思っていたのか、バリーも居た為バツが悪そうにするエリーナ。
「……母上はどこにいる」
「え? 私の部屋にいるけど?」
「……そうか。では、バリー様失礼します。大賢者がお呼びですので」
「……」
バリーは言葉を失った。
当たり前のように人を殺せと命令され、それを当たり前のように引き受けるセリーナを見て。
「あれ? お婆ちゃんは来てないの?」
そしてエリーナはエリーナで何事も無かったかのように微笑みを浮かべながら、話をしようとする。
「そんな事はどうでもいいんじゃ! マリーナさんもセリーナに人を殺させているのか!?」
バリーはエリーナを問い詰めた。
そんな話をしている場合では無いと。
自分の息子であるロイが、騎士王という地位を使い、逆らう事が出来ないであろうセリーナに、邪魔な人間を殺せと命令している事は知っていた。
それを見たり、聞く度にバリーはロイを咎めたが、セリーナは命令ですからと言って、ロイの言いなりとなり、人を殺めてきた。
そんなセリーナを見て、バリーは心を痛めていた。
いくら、逆らえない関係とはいえこんな事までさせられるとはと。
だがまさか、大賢者であるマリーナもセリーナに人を殺害させているとは知らなかったのだ。
「あー……。まあ、ね。一人殺すも二人殺すも一緒でしょ? みたいな感じで」
エリーナは、少し言い淀みながらもヘラヘラと笑っていた。
「何という事を……それでも親なのか……あの二人は」
バリーは憤っていた。
騎士王と大賢者という、国民の模範とならなければならない人間が、裏では自分の娘に手を汚させるなどと、汚い事をしていることに。
「そういえば、何で急にママは私の部屋に瞬間移動で来たんだろう? 誰か家に来たの? お爺ちゃん?」
「……さっきまで、プライスがいたのじゃ。ボーンプラントの件とそしてステファニーの件を聞きにな」
バリーは、ダイニングで先程まであったことを説明し、プライスがいたことを話す。
「あー……プライスか。バレたら何するか分からないからね。だから、慌ててママも私の部屋に来たって訳ね」
エリーナはバリーの言葉に納得しながら、椅子へと座る。
バリーへ詳しいことを話す必要があると考えたのだろう。
「一体、あの二人は何を企んでおるんじゃ? セリーナや部下に命令し、第一王子派でない騎士や魔法使い達を大量に殺害するなんて正気の沙汰とは思えん。聞けば、数千もの騎士や魔法使いが死んでいるそうではないか」
バリーのこの言葉を聞いて、疑問に思って当然だろうと頷くエリーナ。
そして、騎士王と大賢者の二人が本当に考えている真の計画。
それを遂に話す時が来たのだと考えていた。
だが、その真の計画は恐ろしいものだった。
「まあ、パパとママでそれぞれ目的が違うんだよね。ただ、その目的を達成するには多くの騎士や魔法使いの死が必要だったみたい。……パパの計画はちょっと賛成できないけど」
「何じゃ、その計画とは」
「パパは、只のコストカットだよ。最近不景気だったからね。王家から人件費削減を命じられていたみたいよ?」
「コストカット!? ふざけるな!」
バリーは、自分の息子がたかが金の為に、多くの騎士の命を奪った事に強い怒りを隠せなかった。
エリーナは話を続ける。
「……まあ、無能に払う金は無いってよく言ってたからねパパ。殺された騎士達は第一王子派じゃないのもあるけど、比較的高齢の人達が多かったかな」
「戦場で使えなくなった高齢の騎士達は不要だと言いたいのか! ロイは!」
「年功序列だから、払うお給料も多いし、定年になれば退職金もある。殺してしまえば全部払わなくて済むって」
「それが騎士王の言う言葉か!」
バリーの怒りは収まらなかった。
長い年月、国に仕え貢献してきた騎士達に対する仕打ちとは思えないのは当然だろう。
「……まあ、それとやっぱり長い間国に仕えている騎士って事は、それなりに発言力あるからね。第一王子を次の王にするのに邪魔だったってのもあるんじゃないかな」
「そんなことが認められるか! ロイを呼べ! ロイを!」
バリーの怒りは頂点に達していた。
しかし、エリーナは表情を変えることなく、話を続ける。
「無駄だよ。今更、パパに何か言った所で殺された騎士達の命が戻ってくることなんて無いんだから」
「この状況で、何も言わずにいられるか! 何より数千の騎士が死んで出来た穴はどうするんじゃ! その皺寄せは生きている騎士達に来るんじゃぞ!」
バリーの意見は当然だろう。
いくらコストカットの為とはいえ、数千の騎士がいなくなった穴は決して小さくはない。
その影響は、騎士達にも大きい。
だが、エリーナはそんな事は分かっていると言いたげに話を続ける。
「ああ、それなら死んだ騎士達を私を含めた魔導士達の黒魔術で操って戦力にするから大丈夫。現にボーンプラントには千人……、ああもう人形みたいなもんだから千体か。派遣してるんだよね」
「……な、なんじゃと」
バリーは耳を疑った。
自分達が勝手な都合で殺した騎士達をあろうことか黒魔術で操って、死んだ騎士達を利用しようとしている事に。
「流石にパパも何も考えずに、大量に殺せなんて命令したりなんかしないよ。それに殺された騎士達は大して実力が無い人達だったしね。むしろ私達が操ってあげた方が強いんじゃないかな?」
エリーナは冷たく、何の感情も無く言い放った。
そんなエリーナを見て、バリーは何も言えなくなっていた。
元々、ドライな面はエリーナにはあった。
しかしここまで、割り切れる人間だとはバリーも思っていなかったのだろう。
「エ、エリーナ……人の命を何だと……」
「もう、殺されて死んでるんだから命なんか無いでしょ?」
「殺された騎士達に申し訳無いとは思わないのか!」
「思わないよ。私が殺した訳じゃないし。むしろ私は有効利用しているんだから、無駄死にじゃなくて騎士達も感謝しているよ。死んでも尚、国に貢献出来るって素敵だと逆に思わない?」
もう、手遅れだ。
何を言ってもエリーナには響かない。
悪いと微塵も思っていないのだから。
そう考えたバリーは、話を変えた。
「……プライスが聞いたら、怒り狂うじゃろうな。死ぬ覚悟は出来とるか? エリーナ?」
それでも、一縷の望みがあった。
プライスと聖剣という。
この話をすれば気が変わるかもと。
だが、無駄だった。
「あーママから聞いたけどプライスが聖剣を手に入れたみたいだね。良い実験になるよ、プライスにとっても私達にとっても。聖剣がどう私達の操る騎士達を蹴散らすのか、聖剣使いにどこまで食い下がれるか」
エリーナは笑いながら楽しそうに話す。
騎士達を操って弟を襲う事も、死んだ騎士達が聖剣が使える弟に蹴散らされる事に対しても悪気など微塵も感じられない。
「それに、ボーンプラントにはステフちゃんがいるもんね。聖剣VS聖剣、聖剣VS千体の死霊騎士、私も生で見てみたいなあ……。ボーンプラントの人達が羨ましい」
……この家は、プライス以外もう駄目じゃな。
薄々気付いてはいたのだろう。
だが、今日それが確信に変わってしまった。
なら、今自分に出来ることは何か。
多くの情報を引き出し、プライスに教えることだろう。
「……そうか、もうロイの話など聞きとう無いわ。マリーナさんの計画とやらを聞かせてくれ」
「大丈夫だよ! お爺ちゃん! ママの計画はちゃんとしてるから!」
嬉しそうに話を始めるエリーナ。
こんな所は子供の頃と全く変わっていない。
話す内容が、とんでもなく悲惨な内容になってしまっただけだ。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
カクヨムでは85話まで掲載されているのでそちらもお願いします。
※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。
ご了承下さい。




