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王家の企み 2

「傀儡の王……だと」


俺はクソババアの言葉で全てを察した。

王家や上位貴族、そしてベッツ家は、第一王子が次の王に相応しいだとかは、どうでも良いと考えていることに。


「……なるほどな。自分達の思い通りにしたいから、魔法も使えない、人望も無い、やる気も無い第一王子を次の王にするって事かよ」


俺の言葉にニヤニヤしながら、クソババアは話を続ける。


「あら~やだ~プライス。それじゃまるで第一王子が無能みたいじゃない? ちょっとマリーナさん? これはどうなの?」

「……母親として、このような発言を息子がしたことをお恥ずかしく思います」

「この、ババア……」


俺は思わず聖剣に触れ、抜こうとしてしまう。

……落ち着け。

ダリアと約束したろ、聖剣を使って脅すような事はしないって。

聖剣の力を使えばこのクソババアを灰にする事なんて簡単だが、こんなクソババアを殺したぐらいで、ダリアに失望されるのなんて割に合わん。


「すまんのうプライス。ワシは婿入りで騎士王という立場じゃったから、仕える側の王家、つまり婆さん側には逆らえんのじゃ……」


爺様も王家の決定に思うことがあるのだろう。

憤る俺に頭を下げる。


爺様の言う通り所詮は仕える側なのだ。

この壁は簡単には超えられない。


爺様の気持ちは良く分かる。

かつて俺もその壁にぶち当たり、ダリアの事を諦めたのだから。


「という訳だ。プライス。実績作りなどと言って、第二王女を連れ回し、挙句の果てに勇者アザレンカを巻き込むとは言語道断。今すぐ第二王女を連れて王都へ帰ってこい」


親父は、俺に諦めてもう終わりにしたらどうだ? と言わんばかりに諭す。


「……何故それを」

「ラウンドフォレストに派遣している騎士から報告があった。勇者と一緒に神獣辺りを討伐すれば、王家が第二王女の方が相応しいと考えるとでも思ったのか? 無駄な事は辞めろ」

「無駄なんかじゃ……」


「いいえ、プライス。無駄なのよ」


お前のやっている事は無駄だと。

ハッキリ言われてしまった。

しかもお袋に。

その目はとても悲しそうに、今にも涙を流しそうになっていた。


「フフっ……第二王女も可哀想~無能が集まった所で、どうにもならないのに。勇者アザレンカも先代が優秀だっただけ。あの娘も無能よ。だから、代わりの勇者を呼んだわけだし」


お袋の言葉を聞いたクソババアが笑いながら、アザレンカの事を馬鹿にする。

この言葉には、流石の俺も黙ってはいられない。


「今の言葉取消せクソババア! 俺の事を侮辱するのはどうでも良いが、アザレンカまで侮辱するな!」


俺は声を荒らげる。


だが、クソババアは笑いながら、悪びれもせずに、とんでもない事を言う。


「……あらあ? そんな口を利いて良いのかしら? アナタが愛しくてしょうがなかったステファニーを折角イーグリットに呼んであげたのに~ 《《新たなイーグリットの勇者》》としてね」


は?

嘘だろ?

ステフが新しいイーグリットの勇者?

意味が分からない。

このクソババア、とうとうボケたのか?


「婆さん! その言い方は無いじゃろう! ステファニーは、二年前、ワシらに言ったようにベッツ家に相応しい女性になって現れたじゃろ!」

「相応しい~? マリンズ王国が手放しても惜しいと思わないような聖剣を扱う女勇者がベッツ家に相応しいって、笑わせないで!」


俺をよそに言い争いを始める爺様とクソババア。


嘘だろ……。

マリンズ王国から来た女勇者。

つまり、氷の女勇者はステフなの……か。


しかもイーグリットの新しい女勇者って。


「何故勇者アザレンカを頼っても無駄か分かっただろう?」


親父は俺を哀れむように、そしてもう諦めろと言いたげに俺に問う。


「……まさか、アザレンカが聖剣に選ばれていないと気付いていたのか」


親父もお袋も黙って頷く。

どういうことだよ、それ。


「察しが悪いわね~プライス。聖剣が邪魔だったのよ! 聖剣に選ばれた人間に意見されたら好きに国を動かせないでしょ! その為にあの無能に聖剣を与えたのよ!」


爺様を口喧嘩で負かしたクソババアが、黙って頷くだけの両親に変わって、俺に現実を突きつけてくる。


……コイツらは、そもそもアザレンカに対して、勇者として全く期待してなかったのか。

自分達が保有していて、仲間内に聖剣に選ばれた存在が出てくるのも面倒だから、敢えてアザレンカに聖剣を与えた。


だが、まともな勇者が不在なのは困るから新しくイーグリットの勇者としてステフを迎えた訳か。

それじゃまさか。


「マリンズ王国に第一王女を嫁がせたのも……ステフを迎え入れる為か!」


親父もお袋も何も言わない。

ただ黙って頷くだけだ。


「これで分かった? 大人しく第二王女を連れて戻って来なさい。そうすれば、ステファニーと結婚させてあげるから。好きだったんでしょう?」


クソババアは嬉しそうにニヤニヤしながら、嫌味ったらしく俺に提案してくる。


クソババアの醜く笑う姿を親父もお袋も爺様も。

誰一人咎めない。

もうダメだ、聖剣を……。

いや、ダリアとの約束を果たさなければ。


「ステファニーもアナタをちらつかせれば言いなり、第二王女は他国に嫁がせてコネの道具に、勇者アザレンカはフラフラさせておいて、どこかで聖剣ごと野垂れ死んで貰えれば、最高ね! 計画は完璧よ!」


下品に大きな声で高笑いをするクソババア。

こんな奴が、これからイーグリットという国を動かそうとしているのか。


「ねえ? 面白くない? あんな捨てられ方したのに、聖剣に選ばれて女勇者になってまで真っ先にプライスなんかを望んだステファニー!

そして無駄な事をしているだけのプライス! お似合いの夫婦になるわ! アハハハハハ!!!!!」


……ああ、ダリア。

ゴメン。

約束を破るかもしれない。


「母さん……。もうその辺に……お酒飲み過ぎなんじゃ無いのかい?」

「何よ~ロイ。本当の事でしょう?」

「……ほらまたプライスを怒らせたじゃないか……プライスを余り怒らせないでくれよ」

「あら、本当ね。いつの間に剣を抜こうとして? 本当変わらない。気に入らないことがあると暴力に訴えかけるなんて子供よ」


親父とクソババアは俺を見てやれやれと呆れるが、お前らの言動をよく考えろと言いたい。


そして、そんな俺に聖剣はまた問い掛けてくる。


(よく我慢しているなお前も。我は一緒に聞いていて腹が立ったぞ)


内心じゃ滅茶苦茶キレてるよ。

ただ、ダリアとの約束があるから……。


(……違うな。お前はまだ心のどこかで、家族を信じているんだ。これだけお前の大切な存在達が侮辱されているのに、我慢出来るということはそういう事だ)


家族を信じている、か。

……そうなのかもしれないな。

口では、色々言っても家族。

まだ、やり直しが利くんじゃないかと心のどこかで思っているんだ。

味方になってくれるんじゃないかと。


(……どうやら、それは無駄みたいだな。我は知らんぞ。お前の母親を見てみろ)


そう聖剣は俺に伝えて、突然、聖剣の声がしなくなってしまう。


お袋を見ると、涙を流しながら何かを話始めようとしていた。

そして、クソババアが早くお袋に全てを話すように促す。


「さっさと伝えなさいマリーナさん? もう計画は、後戻りが出来ないほど進んでいるということを」


なんだと?

このクソみたいな計画はもう後戻り出来ない?

どういう事だ?


「……プライス。アンタがこのまま第二王女を次の王にすると言い続けるのなら、第一王子派としてベッツ家はアンタを殺さなきゃなくなってしまうの」

「……脅しのつもりか?」

「……脅しじゃないわ。既に、もうこの計画で何百、何千もの騎士や魔法使いが殺されているのよ。第一王子派の手によって」


お袋の言葉に耳を疑った。

違う、俺はこの現実を受け止めきれないだけだ。

自分の家族が、影でアザレンカやステフの事を無能扱いしていたのもキツかったが、これはその比じゃない。


俺の家族は……《《俺の家族だった人達》》は既に、自分達の目的の為に人を殺めているんだ。


「王都にいた騎士や魔法使いが減った事は薄々気付いていたでしょ? 皆第一王子の事を侮辱して、王家への侮辱や反逆の罪で捕まって殺されたのよ」


第一王子が次の王になると話が広まって、少なくない数の人間が王都を去ったとダリアは言っていたが、実際はコイツらに殺されていただけだったのか。


「そうそうセリーナは本当、ベッツ家の跡取りとして優秀。既に百を超える反逆者達を始末したのだから」

「辞めて下さいお義母さん! セリーナのそんな話をプライスに聞かせるのは!」

「褒めてるだけじゃない? プライスにも見習って欲しいだけよ? それにステファニーと結婚させた後、二人には反逆者達の始末を任せるつもりなんだから、遅かれ早かれでしょ?」


……まあ、何となく分かっていたけど、セリーナは敵なのね。

つまり、エリーナ姉さんと爺様以外は敵なんだね。

俺の家族は。


「……なあ? もし、聖剣を使える人間が出てきて、この計画を辞めろと言われたらどうするつもりなんだ?」


俺は目の前の第一王子派に聞いてみる。


「言ったでしょう? プライス? 勇者アザレンカが聖剣を扱えない事を私達は把握しているって」


お袋は現実を見ろと言いたげに、俺を諭すように、そんな事はあり得ないと諦めたように答える。


「それに今の所、イーグリットの聖剣は三本。お前らに聖剣があるとはいえ、使える訳じゃない。だが、こちらにはステファニーがいる。更に不明のもう一本の聖剣も探して手に入れるつもりだ」

「……その為に、もう一本の聖剣の在処を知っているボーンプラントの領主を王家への反逆の罪で捕らえて、口を割らせようとしているの……。失望したでしょう? プライス」


なるほどな、何でステフがボーンプラントに派遣されたか分かったよ。

ボーンプラントの領主からもう一本の聖剣を在処を聞いて、そして見つけて反対勢力の手に渡らないように、隠すつもりなんだな。


……じゃあ、これからの俺達のやるべき事は決まった。

ボーンプラントへ行きステフを追い出す。

そして領主を解放し、領民達を助けた後、聖剣の在処を教えて貰って、もう一本の聖剣を俺達が手に入れる。


流石に助けりゃ、聖剣の在処を教えて貰えるよな……? 多分。


それと、忘れずに宣戦布告をしなきゃだな。


「そうか、良く分かったよ。凄く良く考えられた計画だね」


皮肉っぽく言ったはずだったのだが、目の前の第一王子派の奴らは、嬉しそうにする。


「良かった~ アナタがいないとステファニーが言うことを聞かないの! ステファニーを言いなりにさせられるだけでもアナタには価値があるわ!」


俺が諦めたと思ったのか、手のひらを返すように、クソババアは俺を褒めだす。


全く褒められている気がしないが。


親父もお袋も、安心した顔を浮かべて頷いている辺り、マジでそう思ってそう。


「ちげーよ。バカかお前ら? 皮肉が通じねえのか? その計画は《《聖剣に選ばれた者がいない》》事を前提に考えられた杜撰な計画だろ?」


俺は目の前のアホどもを、煽る。

勿論、クソババアは激怒する。


「黙れ! 無能が! 大人しくアンタは手駒になってりゃ良いのよ!」

「……なあ? ここまで言って気付かないのか? お前ら?」


俺の言葉に、今まで黙っていた爺様が何かに気付いたかのように、口を開いた。

ずっと俺を見て何かを考えていたからな。


「その赤い髪の色! そしてプライスから感じられるこの強さ! プライス! 聖剣に選ばれたんじゃな! 何か引っ掛かっていたんじゃ!」


爺様の言葉に、他の三人は失笑する。

流石にそれは無いと思っているんだろうな。


だけど。


「大正解だぜ! 爺様!」


悪いな、ダリア。

先制攻撃は、戦いにおいて重要なんだよ。

だから、許してくれ。


俺は聖剣を遂に引き抜いた。

 ここまでご覧いただきありがとうございます。


 カクヨムでは85話まで掲載されているのでそちらもお願いします。


 ※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。

 ご了承下さい。

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