王家の企み 1
夜、俺は瞬間移動で実家の自分の部屋へと戻って来ていた。
時刻は午後七時を少し回ったぐらいなので、恐らく皆夕食を食べているだろう。
飯時に押し掛けるのは失礼かもしれないが、説得出来る人間が多い事に損はない。
……まあ、一番の理由はお袋の意見が聞きたかったからなのだが。
騎士王である親父や王国騎士団の横暴を、大賢者として、王国魔導士団のトップとしてどう思っているのか。
お袋の返答次第では、お袋や王国魔導士団も俺達の敵と考えざるを得なくなる。
エリーナ姉さん曰く、王国魔導士団は第一王子派ではないらしいが、王国魔導士団トップであり、大賢者のお袋が第一王子派を宣言してしまえば、王国魔導士団も第一王子派となってしまう。
味方と勝手に勘定しておいて、後から蓋を開けたら敵でした。
なんてことは避けたいからな。
この際はっきりさせてしまおう。
……ああ、そうだ。
そういえばダリアに親父達からどんな返答があろうと、聖剣の力を使って見せしめのように人を殺して、無理矢理こちらの要求を通す事はあってはいけないって釘を刺されていたのを忘れていた。
親父やセリーナに会うのが嫌すぎて。
俺はサラキアさんに、親父達がボーンプラントから氷の女勇者(氷の聖剣を使う訳ではない)をマリンズ王国へ召還する事に対して難色を示した際は王都の連中を数人程、聖火の餌食にすると言った。
それぐらいの覚悟で説得するという意味だったんだかな。
それをダリアは真に受けて、スパンズンの苺農園からラウンドフォレストへ戻った時に、俺を必死で説得してきた。
アザレンカは、多少は痛い目を見せるのもありなのでは? と言っていたが。
まあ、もし親父達が氷の女勇者をボーンプラントから追い出す事を拒否をしたら、私達の手で何か方法を考えて氷の女勇者を追い出そうと。
ダリアは、そう言った。
なら、俺が勝手に動く訳にはいかない。
……というか、俺の家族が俺が思わず殺したくなるような事を言わなければ良いだけの話なんだけどな。
やれやれと呆れながら部屋を出て、家族が食事をしているであろうダイニングへ向かう。
◇
「久し振り。最後に会った日から一ヶ月も経ってないけど」
ダイニングへ入った俺は、食事中の家族に向け、軽く挨拶をする。
お袋は連絡も寄越さずにと呆れ、親父は俺を見るなり不愉快そうにする。
姉二人にも話を聞いて貰いたかったのだが、残念ながら不在のようだ。
代わりに、父方の祖父母が来ていたみたいだ。
丁度良い。
ステフの件を聞きたいからな。
元々マリンズ王国とのコネを狙って、ミューレン家の令嬢だったステフと俺を結婚させようとさせたのは祖父母だからな。
跡取りとして使えない俺の使い道として、最適じゃろ? と話していたのを聞いたことがある。
「おお、久し振りじゃな! プライス! お前が暴れ回ってワシらに攻撃魔法を放った時以来じゃから二年ぶりじゃな!」
相変わらず元気な人だ。
俺の爺様は。
「何なのアナタのその髪の毛の色? 本当に見るだけで不愉快。流石ベッツ家の恥」
……それと対照的にこの嫌味なクソババア。
親父の嫌味ったらしさはこのクソ祖母譲りだな。
間違いないわ。
だが、二人ともただの老いぼれと侮ってはいけない。
まだまだイーグリット国内では、発言力があるから厄介だ。
祖父のバリー・ベッツは、イーグリットの騎士王だった人間だ。
正直、前の騎士王が失言で失脚したとはいえ、親父が若くして騎士王になれたのは間違いなく、この爺様の影響があるだろう。
祖母のカトリーヌ・ベッツは、実はイーグリットの女王、マリア・イーグリットの遠い親戚なのだ。
そう、あの女王と遠い親戚なのだ!
ただそれだけ。
それだけなのに何故かイーグリット国内で強い発言力を持っているんですよこれが。
女王の両親や叔父叔母が全て亡くなっていて、女王より年上の親戚で高齢の人はこのクソババア位しか生きてないらしい。
イーグリットの前の女王様が、体が弱くて今の女王一人しか産めなかったのも、このクソババアが変に発言力を持ってしまっている要因の一つかもしれない。
……一回家系図みたいなもん見せて貰ったけどマジでほぼ他人。
なんなら爺様の方が女王と近い存在と言っても良い。
それなのに、女王が会う度にこのクソババアにペコペコしてる辺り何か弱味を握られているんじゃないかと勘繰ってしまう。
あー帰りてえ。
確かにステフの事を聞くならこの二人が最適なんだが、爺様は良いとして、もう一人の王族気取っているババアがマジで嫌だ。
なんならセリーナの方がまだマ……
いや、どっこいどっこいだったわ。
俺がクソババアを見て親父に負けず劣らず不愉快そうにしたのを見て、爺様は大笑いする。
「ハッハッハ! そうやってすぐ顔に出る所はロイそっくりじゃの! 若い時のロイそっくりだと思わんか婆さん?」
「母親の躾がなってないだけでしょう。ロイはこんなあからさまに態度を出す程愚かではありません」
……このクソババア老眼のせいで見えてねえのか?
俺を見るなり思い切り不愉快そうな顔を親父はしてたぞ?
お前の教育もなってねえよ。
と言いたい所だが、言い争いにしかならないので辞めておく。
「……相変わらず婆さんはプライスには厳しいのう……すまんなプライス」
「慣れてるから大丈夫。主にセリーナでな」
「ハア……」
俺達三人の様子を見て、お袋は大きな溜め息を吐く。
恐らく、今お袋は大賢者としての仕事よりもキツいと感じているだろう。
よくお袋もあのクソババアが姑で、離婚しなかったもんだ。
爺様がしっかりサポートしてくれたとはいえ。
「……一体、急に押し掛けて来て何の用だプライス。用件を言え」
ここまでずっと黙っていた親父が口を開く。
また面倒事を持ってきたのか? と疑いを掛けているようだ。
ようやく、本題に入れるな。
「とある街の領主から聞いたんだが、随分と王国騎士団の騎士はボーンプラントで好き勝手やってるそうじゃないか?」
俺の疑問に何故かホッとしている親父。
良かった……面倒事じゃなくてみたいな感じで安心すんじゃねえよ。
十分問題だろ。
「何だその大した事じゃなくて良かったみたいな顔は? ボーンプラントに大量の第一王子派の騎士を送り込んだのは親父だろ? そいつらがボーンプラントで問題起こしてるんだぞ?」
「仕方ないだろう。あそこの領主が王家に逆らうのだから。しかも第一王子を無能と侮辱したのだ。これは許される事ではない」
間違った事言ってねえじゃねえかよ。
お前らだけだぞ。
第一王子を無能と思ってないのは。
「いや事……、それはともかく領民達も困っているだろう?」
「領主の不手際は、領民の不手際でもある。領主が間違っているのに、声を上げない領民達が悪い」
「……」
親父のとんでもない理論に思わず俺は声を失ってしまった。
すると話を聞いていたクソババアが割り込んできた。
「王家に逆らう事は何人たりとも許されてはならないのは当然。そしてそれはアナタも例外ではないわ」
「その通りだ。母さん、プライスに言ってやってくれ」
親父はここぞとばかりにクソババアに丸投げする。
俺がこのクソババアを苦手なの分かっていて、丸投げする辺り性格が悪い。
お袋も爺様もこのクソババアには意見出来ないから、擁護も期待しないでおこう。
「アナタ、ライオネルの王太子と第二王女の縁談をぶち壊した上に、その場で次の王に相応しいのは第二王女だと宣言したそうね」
「何か問題でも? ライオネルの山賊にダリアが襲われた話なら耳に入ってるはず。どのみちこの事実が判明してれば縁談は上手くいってなかった」
俺は開き直った。
女王と遠い親戚なのよ! と虎の威を借る狐のような老いぼれに屈してるようじゃ、これから先ダリアを守っていけるはずも無いからな。
「その後、第二王女が次の王に相応しいと言った事が問題なのよ」
やれやれと呆れながら、クソババアはグラスに残っていたワインをがぶ飲みし、俺に釘を刺すように言い放つ。
「次の王は第一王子。これは王家だけでなく、ベッツ家も含めた王族関係者やイーグリット上位貴族の総意。それに異を唱えるような事は謹んで」
俺は耳を疑った。
ベッツ家も含めたって言ったよな?
つまり、お袋や爺様も第一王子派なのか?
「嘘だろ……お袋? ベッツ家は……お袋も第一王子派なのか?」
俺はお袋に思わず聞いてしまう。
しかし、俺の問いにお袋は目も合わせずに。
ただ消え入りそうな声で。
「……しょうがないのよ、プライス」
しょうがない?
しょうがないって、何だよ?
お袋はこの国の大賢者じゃないか。
第一王子の横暴や評判の悪さや人望の無さ、次の王に第一王子が相応しくないと思える材料なんていくらでもあるじゃないか?
それなのに、しょうがないのよって。
重苦しい、空気が流れる。
そして次に発言したのは、お袋ではなくクソババアだった。
「プライスに計画の事を話して無いのマリーナさん? 嫌ねえ、大賢者程の地位の人がちゃんと説明も出来ないなんて」
「お義母さん! それは!」
「何よ? 良いじゃない。味方や人手は多い方が良いわ」
計画?
計画ってなんだ?
「プライス。第一王子は次の王になっても政治をやらないって公言してるの」
「は?」
クソババアの言ってる意味が分からなかった。
王になっても政治をしない?
「要は、私達の操り人形、傀儡の王になって頂くのよ」
ここまでご覧いただきありがとうございます。
カクヨムでは85話まで掲載されているのでそちらもお願いします。
※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。
ご了承下さい。