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お礼も言われない

ラウンドフォレストの領主の家に騎士達の案内で来た俺は、この家の執事に迎えられる。


「すいません。二人が急に押し掛けちゃって」

「いえいえ、確かに血相を変えて、勇者様と第二王女様がお越しになった時は驚きましたが、騎士王ロイ様と大賢者マリーナ様のご子息であるプライス様が命の危機だと言うのなら、それは助けを求めたくもなるでしょう」

「いやいや大げさなんですよ、あの二人が」


執事と会話しながら玄関に入る。

そして、領主やダリアやアザレンカがいる部屋に行くために階段を上がっていくと、俺が行く目的の部屋の前に緑髪の女性が腕を組みながら立っていた。

……何か怒ってないか?

しかしそれにしても、綺麗な人だ。

しかも、スタイルも抜群。


やっぱり出るべき所は出ていて、引っ込むべき所は引っ込んでいるのが一番だよな。

昔はアザレンカもこんな感じだったんだけどなあ……。

今じゃ、体の全部が出ちゃってるからな。

などと失礼な事を考えていると、緑髪の女性に話し掛けられた。

執事は逃げるように、後はお任せしますと言って、そそくさと階段を下りていってしまった。


「やれやれ、第二王女様と女勇者が急に押し掛けて来たと思えば、今度はベッツ家の末っ子が来たんだね」

目の前の女性は何やら呆れていた。

……まあ、こんな夜に急に家へ押し掛けて来られたら呆れもするよな。


「申し訳ございません。こんな夜分遅くに押し掛けるなど、ダリアとアザレンカがご迷惑をお掛けしまして……。二人を連れ戻しに来たついでに、ホワイトウルフの群れの討伐の件の報告をさせて頂ければと」

「下手な敬語。使い慣れていないのがよく分かる。君と私は同い年だから敬語は使わなくて良いよ」

同い年かよ。

何だよ、敬語使って(使えていない)損したな。

まあ、敬語使わなくて良いって言われたけど最低限は使っておこう。

初対面だからな。


「しかし、ラウンドフォレストの街が閑散としていたのは、領主様が家にいろって命令していたからなんですね。俺は王都に少しの間戻っていたので全く知りませんでした」


……あれ?今思うとずっとラウンドフォレストにいたはずのアザレンカって何で領主が家にいろって命令していたの知らないんだ?

あいつも昼間、街に人がいないの不思議そうにしていたよな?

ま、アザレンカのことだから知らなかったとか平気で言いそうだけど。


「そうだね、どっかの女勇者がいつまで経ってもホワイトウルフの群れを討伐しないから、そういう命令を出さざるを得なかったんだよ?」

「……まあ、ラウンドフォレスト内にホワイトウルフを討伐出来そうな冒険者なんていそうに無いですもんね」

「だから、勇者に頼んだのにいつまで経っても……。とうとう今日こそ討伐してきたかと思えば、助けを求めに来るなんて……」


……この人が誰だかは知らないけど、アザレンカの事を良く思っていないということだけは分かる。

先に報告するか。


「ああ、ホワイトウルフの群れならアザレンカが討伐しましたよ。証拠にホワイトウルフの牙と皮です」

持ってきていた大きな袋に入ったホワイトウルフ数十匹分の牙と皮を見せる。


「討伐自体はしていたんだね。意外だったな。クラウンホワイトが出たなんて嘘をつくから、また討伐に失敗したのかと思ったよ」

……あの二人、まさかバカ正直に全部話したんじゃないだろうな。

俺が聖剣に選ばれた事は話していないと良いんだが。

しかも、クラウンウルフが出てきたことにして、誤魔化そうとしていたのにクラウンホワイトが出たってあの二人が言っちゃったら何も言えなくなるじゃねえかよ。


「……だから、アザレンカに頼んでダリアを逃がして貰うようにしたんですよ。第二王女が怪我したらマズいですし。まあ、まさか領主様の家へ押し掛けるとは思ってもいませんでしたが」

「本当にクラウンホワイトに遭遇したの?

君、怪我一つ無いじゃない。どこが命の危機に瀕していたっていうの?」

……うん。もう誤魔化しきれないな。

諦めよう。

ただ、この話にはダリアもアザレンカも居た方が良い。


「詳しい説明は、領主様にも聞いて頂きたいので、そこの部屋に入らせて貰ってから話をしてもいいですか?」

「分かった」

俺の希望を了承した彼女は、部屋にノックをする。


「どうぞ」

中から女性の声がした。

ダリアでもアザレンカでもない。


「入るよ。さ、君も入って」

彼女と一緒に部屋に入ると、部屋にはダリアとアザレンカ、そしてこれまた綺麗な大人の緑髪の女性が。

何か凄いな。

大人の色気をたっぷりと感じる。


「始めまして、私はグリーン。ラウンドフォレストの領主よ。今一緒に入ってきたのはノバで、私の娘よ」

こんな綺麗な人がラウンドフォレストの領主だったのか。

……サラっと聞いたけど、俺と同い年の娘がいるような年齢には見えないな。


「プライス! 無事だったんだね!」

「だから言ったろ? 大丈夫だって。あ、ダリア拘束魔法今解除するから」

「……」

アザレンカは俺の無事を嬉しそうにしていたが、ダリアはそっぽを向いてしまった。


……まあ、あんなやり方したら怒るのは無理もないか。

触らぬ神に祟りなしだ。

ここは放っといて置こう。

ダリアに掛かっていた拘束魔法を解除し、俺は領主の方を見る。


すると、領主が話し始めた。


「無事で良かったわ。プライスさんが命の危機に瀕しているって二人から聞いていたから。クラウンホワイトが出たんですって?」

……うん、やっぱりこの二人普通に喋ったんだな。

はあ……真実を話すしかないのか。


「ええ、出ましたよ。俺が討伐しておきましたが。あ、後これアザレンカが討伐したホワイトウルフの牙と皮です。依頼完了の証拠としてご確認下さい」


「え?」

「……あり得ない」

「凄いなあ」

「……」

四人は俺の発言に様々な反応をする。

まあ、一人はただの無視だけど。


「クラウンホワイトが、聖剣と相性最悪だったから助かったよ」

「そっか!クラウンホワイトは氷属性耐性はあるけど、火属性は弱点だもんね!」

「……え?」

「どういうこと?」


アザレンカは嬉しそうに反応するが、緑髪の二人は俺が何を言っているのか分からないといった様子だ。

それはそうだろうな。

勇者であるアザレンカが、聖剣の使い手だと思っているのだから。


緑髪の二人に、見せ付けるように俺は聖剣を引き抜く。


「多分王都の人間も知らないですが、聖剣に選ばれたのは勇者であるアザレンカではなく俺なんです」

「聖剣が選んだのは、勇者じゃなくてプライスさんだったの!?」

「……通りで、勇者が依頼をいつまで経っても完了させられなかった訳だね」


領主は俺が聖剣に選ばれた事に驚いていたが、ノバは納得している様子だ。

というか、ノバはさっきからアザレンカに対してちょっと当たりが強いな。

アザレンカのフォローしてやるか。

それにノバの口調は気に入らないしな。


「おい、ノバといったか? さっきからお前の態度は何なんだ? 礼も言わずにただひたすら文句を言ってきやがって」

急に俺が全く敬語を使わずに話し出した事にビックリしたのかノバは驚いていた。


「ちょっと……プライス? 辞めなよ。すいませんノバさん」

俺の言動を失礼だと思ったのか、アザレンカはノバに謝罪する。


「何でお前が謝るんだ? アザレンカ?」

「何でって、僕がホワイトウルフの群れを討伐するのに時間が掛かったのが悪いんだしさ……」

「それは俺が協力するのが遅れたってのもあるから、俺のせいでもあるから気にすんな。ただ、頼んでいる側の人間が助けられて当然ってスタンスでいるのが俺は気に入らないってだけだ」


俺の言葉が勘に触ったのか、ノバも言い返してくる。


「二ヶ月も待たせておいて、その言い種は無いでしょ? 二ヶ月の間に大怪我した冒険者もいたんだよ?」

「それは、ラウンドフォレストのギルドに集まった寄付金目当てで大した実力もないのにホワイトウルフの群れに挑んだ連中が悪いだろ。すぐに逃げれば大怪我なんかしなかったさ」

「くっ……でも、ホワイトウルフの被害が出るかもしれないからって、こうやってラウンドフォレストの経済活動を止めてるんだよ? 勇者がちゃんとすぐに対処してくれればこんなことにはならなかっ……」

「もういいや。ダリア、アザレンカ、ラウンドフォレストを出るぞ? ここに長居する意味もないだろう?」


ノバが何やら言っている途中だったが、やはり不愉快だったので話を聞かずにラウンドフォレストから出ることをダリアとアザレンカに提案する。


「……プライス実は僕、宿屋に借金が……」

「それなら払っておいたから問題ないぞ。キャロには色々文句を言われたがな」

「え? そうなの? それなら、僕はラウンドフォレストに用はもう無いかな。流石にこれだけ待たせておいて、報酬を受け取るのも悪いし」


アザレンカは賛成してくれた。

というか、アザレンカもラウンドフォレストの人間に色々言われたせいか一刻も早くここを立ち去りたいのだろう。


「私も構わないわ。……それに、彼女達は第一王子派の人間らしいから、これ以上協力する必要もないわ」

ずっと俺を無視していたダリアもようやく話を聞いてくれたみたいで、ラウンドフォレストを出ることに賛成する。

……さらっとダリアが言っていたけど第一王子派の人間なのかよ。

ラウンドフォレストの領主達は。


「私がいくらプライスを助けるように頼んでも、それは出来ませんの一点張りだったのよ?この二人?」

ダリアも不愉快そうに領主とノバを見る。

ここまでダリアが顔に出すなんて珍しいな。


「私達は第一王子派じゃないよ。ただ、王家から第二王女達には協力しないように通達が来ているんだよ? 私達はあくまでも王家の下。逆らえる訳がない」

ノバもノバで不満そうに話を始める。

王家から圧力があったことを普通に話して良いのだろうか?

一応話しているのは王家の人間を含んでいるのに。


「辞めなさい、ノバ。第二王女の前でそんなことを話すべきではないわ」

「ラウンドフォレストの人間が非協力的だなんて、噂を流されても良いの? 勇者、第二王女、プライスの三人にそんな噂を流されたら、嘘でも真実のように扱われる。そうなったらラウンドフォレストの評判はガタ落ちだよ?」


なるほどね、だからノバは事実を話したのか。

でも、ダリアとアザレンカは悪評なんて周りに流さないだろうから、そんなことを心配しなくても良いのに。

あ、俺はラウンドフォレストの悪評を流す気満々でした。


「とりあえず、俺達は宿屋に戻ろうぜ? これ以上話をしても不毛な言い争いになるだけだろ」


話し合っても無理だと、アザレンカもダリアも思ったのか、俺達は領主の家を後にし宿屋に戻った。

 ここまでご覧いただきありがとうございます。


 カクヨムでは85話、第3部まで掲載されているのでそちらもお願いします。


 ※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。

 ご了承下さい。

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