揃って寝坊
「うん、まあそうだよね。何となくこうなると思ってたよ」
キャロにアザレンカの借金返済をした後、部屋に一つしかないベッドにアザレンカとダリアが二人で寝てしまっていた為、瞬間移動で実家の自分の部屋に一旦戻って、自分の部屋のベッドで寝た結果。
予想通り、見事に昼過ぎまで寝てしまった。
流石にあんな大勢の前で啖呵を切ったのに、一日も経たずに実家に俺が戻ってくるなんて俺の家族も思っていないだろうから、起こしにも来なかった。
いや、俺は悪くない。
自分の借りてる部屋があるのに、宿屋の俺の部屋のベッドでダリアと一緒に寝やがったアザレンカが悪い。
ただでさえ、あのベッドに三人で寝るのはキツいというのに、アザレンカが幅を取ってしまっていた為、俺の寝るスペースが最早無かった。
俺は床で寝ろとでも言うのか。
確かに、もう一部屋借りれば良かっただけの事だけど、流石に軍資金が無くなるペースが早すぎる。
小さな事から節約しなければ。
そんな事を考えながら、服を着替えた後、ホワイトウルフ対策としてローブカーディガンを羽織り、節約の一環として実家の冷蔵庫から果物やジュースやジャムなどを貰っていく。
まあ、貰っていくも何も俺が農園での依頼を達成して、農園の従業員からお礼として貰った物なんだから、仮にバレたとしても家族に文句を言われる筋合いは無いね。
「瞬間移動」
ダリアとアザレンカの分も含めた三人分の食料を袋に入れた後、食事として果物を齧りながら俺はすぐに宿屋内の自分の部屋へ向かう。
◇
「何だコイツら……まだ寝てんのかよ」
自分も昼まで寝てしまった事を棚にあげて、二人に呆れる。
流石に二人に怒られるかもしれないと、大急ぎで宿屋内の自分の部屋へ戻ったのは良いが、杞憂だったみたいだ。
二人ともまだ起きる気配が無い。
アザレンカに至ってはいびきはかいているし、涎は垂らしているし、妊娠しているのかと勘違いするくらい腹が出ているしでとても見てられなかった。
アザレンカの無防備になった腹を見て、何でその腹で顔には肉が付かねえんだよと不思議に思う。
……アザレンカを見ているとダリアが滅茶苦茶細く見えるな。
まあ、ダリアの場合はもっと肉を付けた方が良いと思う。
出来れば、主に胸に。
この二人が王都にいた時は美少女扱いをされていて、男達から羨望の眼差しで見られていたのが遠い昔のように思える。
特に左側の女勇者は。
このまま、タイプの違う美少女(笑)二人の無防備な姿を見続けながら果物でも齧っているのも良いが、準備も含めた上での時間も考えると、そろそろ起こした方が良いと思ったので二人を起こす。
「おーい。もう昼だぞお前ら。ホワイトウルフの群れを討伐に行くんじゃないのか?」
「「……」」
声を掛けるも二人は起きる気配が無い。
昨日のあの謎の使命感に溢れていた二人の言動は何だったんですかね?
埒が明かないのと、多少腹が立ったので魔法で起こす。
「水」
水魔法を詠唱し、コップ一杯分ぐらいの水を二人の顔目掛けてぶっかけた。
「うわっぷ! 何?」
「冷たい! 一体何なの!?」
「何なのはこっちのセリフだ。一体お前らはいつまで寝ているんだ? ホワイトウルフの群れの討伐するんじゃなかったのか? もう、昼すらとっくに過ぎてるんだけど?」
二人は俺の起こし方に不満そうにベッドから起き上がる。
「何も水までかける必要無いじゃないかプライス……」
「一応、私第二王女なのだけど?」
「顔洗う手間を省かせてやったんだから、逆に感謝して貰いたいぐらいだね。しかも俺特製の魔法生成水だから、お肌にも優しいのに何の問題が?」
二人に文句を言われて俺も不服だったが、テーブルの上に二人が着る用のローブと二人の食事としてカットした数種類のフルーツを盛った皿とジュースを用意する。
……アザレンカはローブ入るかな?
一応、持ってきたやつの中で一番サイズが大きい物をアザレンカが着るようにしよう。
「俺はもう食事も着替えも済ませたから、先に下で待ってる。準備出来たら二人も下に降りて来てくれ」
「分かったわ」
「ありがとう、プライス」
そう言って俺は、聖剣を持ってそそくさと部屋を出た。
というのも、二人に水をぶっかけたせいで、部屋着が透けていささか刺激的な事になってしまい、目のやり場に困ったからだ。
これは流石に想定外だった。
あいつら下着付けてねえのかよ……全く。
まあ、俺もあの二人の事を色々言いながらも魅力的だと思っている証拠なんだろうな。
……おっと、俺のもう一本の聖剣(意味深)が暴れだしたみたいだ。
これは今すぐ鎮めなくては。
部屋には二人がいるし、何よりこのままの状態で人の行き来が多い宿屋の受付前には行けないな。
トイレに行かなくては。
個室のある男子トイレに行って、聖剣を鎮めてから受付前で待つことに俺は予定を変えた。
……ふう。
これが、賢者の領域って奴か。
さっきまでの事がどうでもよくなってくるな。
さて、ホワイトウルフの群れの討伐頑張るか。
その後、たまたま受付近くで会ったキャロが何故か顔を真っ赤にしていた。
◇
準備が終わった二人と合流し、三人でラウンドフォレストの街へと歩きだす。
いつもだったら、もっと人も多く街も盛況なのだが、今日はあまり人がいない。
「なあ、アザレンカ? 何か今日人少なくないか?森で一稼ぎした冒険者達が、昼間から街で酒を飲んだり遊んだりしているのが、ラウンドフォレストの日常なのに」
「そうだね……僕もこんな人がいないラウンドフォレストは始めて見たよ」
アザレンカと俺は、不思議に思っていた。
二ヶ月ここで過ごしていたが、こんなに街が閑散としているなんて一日たりとも無かったからだ。
「まあ、私は人が少ない方がありがたいわね。仮にバレたら面倒だもの」
そんなことは我関せずといった感じでローブのフードを深く被るダリア。
第二王女が街にいるってバレたら確かに面倒臭そうだよな。
……バレない為にフードを深く被っているんだろうけど、逆にそれが怪しさを醸し出しているのだが。
「はは……それは僕も同感です。僕ですら、勇者ってだけでジロジロ見られたり、声を掛けられたりされていましたから、最近はそういうことも無くなりましたけど」
……多分それはお前が太ったせいで、声を掛ける程の女じゃ無くなったからだろ。
と心の中でアザレンカに突っ込む俺。
「そんなことより、何で俺らは街に出てるんだ? 森に行ってさっさとホワイトウルフ討伐すれば良くないか?」
「まずは、ラウンドフォレストのギルドに行こうと思ってね。あまりにもホワイトウルフの被害が増えたから、ラウンドフォレストのギルドに、住民達の寄付金が集まったんだ。だから、ホワイトウルフを討伐すればその寄付金も報酬として貰えるんだよ。ただ、その寄付金目的で冒険者達がホワイトウルフの群れに挑んで返り討ちに遭ってるみたいで……」
「……あー、だから冒険者達が大怪我するのが増えているのか、無茶なことをしたもんだなあ……」
アザレンカの話を聞いて、ようやく辻褄が合った。
すぐに逃げれば、ホワイトウルフに襲われて大怪我するなんて事は滅多にないはずなのに、実力も無いのに挑んだらそりゃ大怪我するはずだよ。
「そんなに強いモンスターにこれから挑むのに、プライス以外武器を持っていなくて大丈夫なのかしら……」
「ダリアさんには無詠唱があるじゃないですか。それに僕もプライスと一緒で詠唱短縮が出来ますし、何よりプライスには聖剣があるので、僕達の出番は無いですよ」
「それもそうね。プライス、頑張りなさい。期待しているわよ」
「あの? ちゃんとサポートの方はしっかりして貰えるんですよね?」
そんな事を話ながら歩くと、ギルドに着いた。
「俺とダリアは、外で待ってるから」
「ダリアさんはギルドの人達にバレたりするから面倒なのは、分かるけどプライスは何で?」
「勇者でも無いのに聖剣に選ばれたのが俺だってバレたらそれはそれで面倒な事になるだろ……上手いこと誤魔化してくれ」
「分かった。王都から助っ人を頼んだって言っておくよ」
そう言ってアザレンカはギルドの中へ入っていく。
「むしろ、聖剣に選ばれたのは俺だってアピールすれば良いじゃない。そうしたら王都の人達の貴方を見る目が変わったのに」
「それはそれで騎士王の息子だから当然とか言われそうで嫌だね、何より現在の勇者のアザレンカの立場が無くなるだろ」
「……あの子が自分で自分の立場をどんどん危うくしてるような気がするのは私だけかしら?」
「……すまん、それについては同感だな」
アザレンカがギルドで色々な手続きをしている間、俺とダリアは他愛も無い話をしていたのだった。
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カクヨムでは85話まで掲載されているのでそちらもお願いします。
※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。
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