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女王と大賢者との再会

 園長から託された贈答品のリンゴが入ったかごを持って俺は、一歩ずつダリア様とライオネル王国の王子の縁談が行われているテーブルへと近付いていった。


……は? 仲介人が俺の親父?

この縁談、まさか親父も一枚噛んでるのかよ。

そんでもって、ダリア様の付添人が第一王子。

ライオネル王国の王子の付添人がライオネル王国の最強の兵士"将軍"ってやつか。


女王と俺のお袋はお似合いね~なんて、別のテーブルで駄弁ってるだけかよ。


縁談の場に割って入るのは厳しいな。

いきなり縁談に入って親父をキレさせて無事に生きてられる自信が俺にはない。

お袋と女王のテーブルに先に行くか。

入りやすい空気を作って貰わんと。


騎士王と大賢者の息子というだけあって、顔が知れているにしてもまさか声も掛けられんとはな。

ウチの王国騎士団と魔導士団の警備ザル過ぎない?と考えながらお袋と女王が喋っているテーブルへ着いた。


「おう、お袋久し振り。女王様もお久し振りです」

駄弁っている二人は俺を見るなり驚く。

が、お袋はすぐに顔をしかめた。

「プライス……聞いたわよ?アンタ訓練所壊したんですって?」

ああ……訓練所の件もうお袋にも伝わってたんだ。


「直したから良いだろ。それにあれはエリーナ姉さんが有給休暇を悪用して新しい魔法の実験をする! とか言ったからああなったんだ。処罰ならエリーナ姉さんにどうぞ」

「エリーナぁ……」

あっ、エリーナ姉さん。御愁傷様です。

お袋、怒らせちゃった。


「まあまあ、折角の再会なんだからそんな怒らなくてもいいんじゃないかしら? そんなことよりプライス? 私も突然王都からプライスがいなくなったって聞いて心配だったわ」

にっこり笑う銀髪緑瞳の女性。

これがイーグリット女王、マリア・イーグリット。

お袋と同い年だから四十歳くらいか。

年齢より十歳は若くみえる。

それに対してお袋はただの白髪混じりの黒髪オバハンだけど。


「心配って言っても俺も十九歳ですよ? 普通に同い年の子は一人暮らししてますって」

「ダリアも心配してたのよ。王家が野菜とか仕入れている農園からの依頼をプライスが受けたって聞いてすぐに農園に向かっちゃったぐらいなんだから」


……果たして、それは俺が心配だったから。なのかね?

まずは、女王とお袋から揺さぶるか。


「いや全く大変だったよ。大きい声では言えないけどさ、ライオネル人の山賊達が農園に襲い掛かって来てさ?」


俺の言葉に二人は驚く。

この二人の驚いた反応で、少なくとも女王様とお袋はライオネル人の略奪行為の事は知らないって分かったな。

演技じゃなければ。


「ちょっ、ちょっとプライス!」

お袋は俺の頭を掴んで女王様と自分の顔付近に俺の顔を近付けさせた。

てか、オエッ。

二人ともオバサン臭い香水の臭いがする。

思わず俺は顔をしかめてしまう。


「……それは、本当なの?プライス」

お袋は周りに聞こえないように俺と女王様だけに聞こえる声で喋る。

さっきまでの騒ぎ具合は何だったんだ。

女王様もすっかり黙っちゃって俺に本当なの? って聞きたそうに見ているじゃないか。


「本当だよ。農園からの依頼で、夜中に農園内の見回りをダリア様としていた時に、確認できる範囲だけで十数人以上の人数でゾロゾロと来たんだ。わざわざ夜中に武器を持って農園に何の用があるって言うんだ?」


二人は俺の言葉に顔を見合わせた。

そんなことがあったなんて初耳だという感じで。

「……正直、ダリア様の強化魔法が無かったら怪我人が間違いなく出てただろうし、ダリア様も危なかったかもしれない」

あえて深刻そうに話す俺。

その方がライオネルに対して疑いを持てるだろう。

まあ、結果は俺の圧勝だったんですけどね。


「……信じられないわ。そんなことダリアは一言も……」

「話せる訳が無いでしょう? ライオネル人に第二王女が襲われかけたなんて話が広まったら、それはもう縁談どころかライオネルとイーグリットの争いの火種ですよ」


もっともらしいことを言って誤魔化す俺。

農園内の夜勤労働者や園長が見ているのに広まってないわけが無いだろう。

まあ、農園から王都まで大分距離があるから王都までは届かないだけであって。


「ちょっと園長は? 確か来てたでしょ? 話を聞きたいわ。というか何でその報告が無いのよ?」

お袋が苛立ちながら園長を呼び出そうとする。

女王もご立腹みたいだ。

こうなる事も考えられたから帰して正解だったな。

だが、俺の方が逆に言いたいことがある。


「その前にだ。何故、ライオネルの内情を把握してなかった? ライオネルの山賊がやった略奪行為は、イーグリットでは違法でも、ライオネルでは他国に対しての略奪行為なら合法なんだよ。それを良いことにあそこの農園はライオネルの山賊に何回も作物を奪われていたんだぞ?把握してないそっちのミスだろ?」

お袋と女王はばつが悪そうに黙った。

当然だ。明らかな自分達のミスなんだからな。


「最初、園長はモンスターの仕業と思ってたんだから、ライオネルの山賊にやられたと気付いたのはダリア様が襲われた後なんだよ。お袋も俺が全然依頼をこなしに来ないって連絡来たんだろ? モンスターの駆除を一向にしてくれないって」

「あっ、そういえばそうだったわ……ってアンタが偉そうに言うな」

お袋に頬をつねられる。


「……ってえな。だから、園長は悪くねえよ。というかさっき俺が農園に今すぐ戻るように言ったんだよ」

「どうしてよ?」

「贈答品のリンゴは?」

……おい、オバハン共話を聞け最後まで。


「贈答品のリンゴなら俺が預かってますよ、女王様」

園長から託された贈答品のリンゴの入ったかごを見せる。

女王様はほっと一安心して、すぐにで?何で園長はいないの? って顔をしだす。


「今日、イーグリットで王家同士の縁談の日って山賊共も把握してるだろ。仮に見つかってもほとんどの人員は王都に集約されてるんだから、手薄な所を狙われるに決まってるだろ。あそこの農園にある物は加工品も含めて高く売れるんだし。それで、園長を帰したんだよ」

その話を聞いてようやくお袋も女王様も納得してくれた。


「で、こっからが本題なんだけどさ」

「えっ……このレベルの出来事で本題じゃないの?」

「……娘の縁談なのに集中出来ないわ」

二人は心底嫌そうな顔をする。


「王国騎士団か王国魔導士団、あるいはその両方にライオネル王国の内通者いるだろ?」


最早、絶句。

お袋も女王様も言葉にならないといった感じだった。


「実は俺とダリア様はライオネル王国の内情を知っていたんだ。俺はライオネルに昔住んでいた知り合いが居て、聞いたことがあったんだよね。ダリア様がどうやって知ったのかは知らないけど」

お袋はこの一言で察したようだ。


「普通なら農園に襲い掛かって来ているライオネル王国の山賊退治を私達に命じるはずなのに、ダリアちゃんはそうしなかった。それらしき人間を見つけてしまったから……って事よね、それって」

お袋はため息を吐きながら苦虫を噛み潰したような顔をした。


「もしくは第一王子であるジョーの顔を立てる為だったのかしらね、私もあまりに素敵な方だったから勧めてしまったけど、元々はジョーの紹介だったから……」

やっぱりライオネルの王子は第一王子の紹介かよ。


その考えもあったな。

とんでもない国の王子をダリア様に紹介しやがって…みたいな感じでただでさえ低い騎士や魔法使いからの第一王子への人望が更に低くなるわな。

あっ、低くなるほど人望ねえかアイツに。


「俺が確信を得たのは、ダリア様と俺が農園の見回りをしていたあの日は、農園内の魔法障壁が外からでも分かる位分厚く張っていたのに山賊達が構わず農園に来たからだな。ダリア様が農園にいると内通者から情報を貰った事で、その日の山賊の目的はダリア様だったのかもしれん」

「もし、プライスがいなかったらダリアは今頃……」

感謝の目で女王様が見てきたので普通に調子に乗った。

お袋はボソッと小声でたまたまだろと言ってたが。

素直に息子をたまには褒めてくれ。


「まあ、これから農園に山賊が来ても俺に農園を守るようにダリア様が園長と約束したって時点でおかしいとは思ってたんだけどな。さあ、これで俺の話せる事はもうないよ」


全部、話した。

そして全部聞いた二人は頭を抱えた。

何かシュールだな。

女王と大賢者がこんなことしてるって。


「……ジョーには悪いけど、この縁談は破談にするわ。元々ダリアも乗り気じゃなかったし」

……乗り気じゃなかったんならそもそも無理矢理縁談をさせなければ良いのでは? と思わず言いそうになったが辞めた。


王家と王家じゃないかでは全く違うからな。

何はともあれこの縁談を破談にさせるという俺の目的は達成した。

あれ? それなら俺縁談の場に入らなくて良くね?


「じゃ、俺エリーナ姉さんに訓練所の修理徹夜でさせられたせいで眠いから帰るわ。贈答品のリンゴ渡しといて」

面倒事に巻き込まれる前に帰って寝よう。

まだ、頭を抱えたままの二人から離れ、テーブルから距離を取る。


瞬間移テレポーテー……」

瞬間移動テレポーテーションを使って帰ろうとした時だった。


「おい、そこのお前! 何魔法を使おうとしているんだ!」

あっ、しまった。

イーグリットの王国騎士団と魔導士団の警備はザルだから大丈夫だろと思ったら、よりにもよって"将軍"とかいうライオネル王国の最強の兵士に見つかっちゃったよ。

周りもざわついている。


仕方ない。


リンゴ、持ってくか。


俺は贈答品のリンゴが入ったかごを持って、ダリア様達がいる縁談の場のテーブルへ向かった。

 ここまでご覧いただきありがとうございます。

 

 カクヨムでは85話まで掲載されているのでそちらもお願いします。


 ※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。

 ご了承下さい。

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