ベランダに犬 ~引越して初めて出来た私の小さな友達~
サクッと読めます。
引越しして3日目、都会に移り住んできて初めての私に友達ができました。
その時の私は、衣類や雑貨、両親からの仕送りの品、地元の友達からの餞別品等々を包んでいたダンボールをあらかた片付け終え、やや部屋が広くなったと感じていました。
実際は1KでUB、キッチンは片付けても狭いけど…。
この部屋で、初めて一人で暮らすという実感が湧き、同時に少し実家が恋しくなっていたそんな私の前に彼はひょっこり現れました。
まるで必然かのように…。
初めは自分の目を疑った。
ベランダに犬が居たから、…ネコじゃなくて。
私が住み始めたアパートは3階建てで、1フロアにはほぼ同じ間取りで3部屋が並んでおり、私の部屋の配置は2部屋に挟まれたちょうど真ん中の部屋です。
彼は、ベランダの仕切り板の下からひょっこりと顔を出していました。
そのときの私は、この部屋で初めての洗濯を終え、自分の手で洗濯物を干し終えて
ベランダに出入りするための掃き出し窓に腰掛けて、青空と洗濯物をボーっ見ていました。
彼の第一印象は、「変な犬」の一語に尽きます。
視線を感じ目を向け、私と目が合うと彼はこちらに尻尾をブンブンと振って近づいてきました。
意外に人懐っこい!
首輪はないのですが、
野良ではなく、お隣さんが飼っているのかな?と最初は思いました。
小型犬だし…。
ひとしきり遊んでやると彼は来た方向とは反対の仕切り板をくぐっていきました。
私は思わず「あれ?」と声を出しました。
その日はそれきり彼の姿を見かけませんでした。
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それから数日後。
彼を街中で見ました。
私はこの町に来て一番ドキドキした時間を終えた直後でした。
まだ知らない大学という場所で、着慣れないスーツを着て、人が多い入学式を終え、気疲れしていました。
ドウデモイイけど…。
彼は花屋のおねえさん(上品な言い方)に犬用のお菓子をごちそうになっていました。
彼がお菓子を食べている間、おねえさんは彼の頭を撫で撫でしていました。
彼はその間、抵抗もせずお菓子をハムハムと噛み、意識をお菓子に集中させていました。
お菓子を食べ終わると彼はそそくさとその場を離れていきます。
「バイバイ、ミーちゃん」
そう言って、おねえさんは彼を見送っていました。
その光景を見て「彼って意外にかわいい名前だな」と思いました。
その後は、近所のスーパーマーケットで朝食用のシリアル食品と牛乳を買い、家路に着きました。
部屋に戻って、今日はパスタの気分かな?と携帯端末でレシピを検索し、夕飯の支度をしようと思った時、ベランダに彼がいるのに気が付きました。
モノ欲しそうな表情で、顔の小ささに比べると大きな瞳で、こちらをじぃーっと見つめてきます。
「さっき食べたんじゃないの?」と思いつつ、「うぅ~ん」、思わず唸った後に「エサになりそうなもの」と、三回程度、頭の中で唱えた後、冷蔵庫から牛乳を取り出し、少し深さがある耐熱皿にそれを適量注いで、身体が冷えてはいけないと電子レンジで人肌程度に温め、ベランダに出て、「ミーちゃん」と呼ぼうとしたそのとき
「ワンッッッ!!」
と逞しい犬の声がどこからか聞こえてきました。
そのとき、彼はあからさまに「ビクッ」とおびえた様子でした。
ベランダから声の主を探すと、向かいの家の前で今まさに散歩に出かけると思われる男性と黒い大型犬が一匹居ました。
彼が苦労してわざわざここを通る訳が、先程の反応から分かりました。
そして、私の中で彼の名前が決まりました。
「ビック」
おびえた顔が、凄くスキ。
…私ってセンスない。
その後、彼がホットミルクを真剣に飲む隙に頭を撫でながら、ふと思いました。
この町にはまだ私の知らないことが沢山ある。
私の将来もどうなるかも分からないし、不安は大きい。
でも、この小さな友達は、怖いものを上手く避けつつも、ちゃっかり、美味しいごはんにありついて、逞しく生きている。
そのことに気づき、思わず感心して、「この町の事と君の事を教えてください。」とつぶやいた。
彼は顔を上げて、「ワン」と小さな高い声で答えた後、名残惜しそうに皿をなめて、はぁはぁと舌を垂らしながら、つぶらな瞳で私に訴え掛けてくる。
苦笑しつつ、リクエストに応じる為に皿を持ち上げ、再度ホットミルクを作る。
友情の深まりを感じつつも、お腹が鳴った。
…今日の私の夕飯はもう少しの間、おあずけだ。
面白いと思って頂けたら、嬉しいです。
本当にいたら、少し生活が楽しいかもですよね。
道 バターを宜しくお願いします。
他にも作品をアップしています。
作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに見つかります(笑