出会いは森の中で
遠くに聞こえる川のせせらぎ。
こちらを伺う魔獣達の赤い瞳。
見渡す限り同じ風景が広がる大森林の中で、ウィール・ド・エインディは仲間とはぐれ迷子になっていた。
「チッ······、ったく。アイツら何処に行きやがったんだ。そろそろ日も暮れるってのに」
道を阻む草木に向かって、装飾の少ない無骨な大剣に魔力を流しつつ、芝刈り機の如く振り回す。男の通った後はまるで嵐が通り過ぎたかのような悲惨な状況であった。
魔獣達も思わず尻尾を股の間に入れる始末である。
ググーーー キュルルルル······
「あー···、腹減ったなぁ···」
ウィールがちろりと辺りを見回すが、魔獣達は一斉に散開して逃げてしまう。
魔獣だって好きで食糧になりたいモノはそう居ないだろう。
ウィールが謎の快進撃(?)を続けている内に、頂点にあったはずの太陽は大きく傾き、木々の影が闇に染まり始めていた。
夜は強力な魔獣が跋扈するこのマルスの森にはギルドが許可するパーティしか入れない。ここ、スラヴィアム王国のギルド公認ゴールドランクパーティ《EDEN》は、特定指名依頼を受けてマルスの森の調査に来ていた。
しかし、ゴールドランクのパーティメンバー1人の能力がいくら軍の師団レベル程と謳われても、限度がある。随一パーティの攻撃力を持ったウィールでさえも、1人で夜の森の魔獣を相手には苦戦を強いられる。そろそろ引き時だった。
「···今夜は木の上で野宿か······。アレ、背中痛てぇんだよなぁ···」
そうボヤくウィールは寝床となる木を探し始めたが、数分後に思わぬ出会いを果たすことになる。