87話 3位決定戦
記念すべき第1回ガナドールもいよいよ今日が最終日である。
残る対戦は3位決定戦と優勝戦のみ。
たった2試合。たった2試合ではあるが観客達は今か今かと待ちわびていた。
「優勝はベイダーだろ!あの天狗仮面に勝利したんだしよ!」
「分からんぞ。相手のムサシって奴もなかなかの強さだ。五分五分だろう」
「じゃあお前はどっちに賭けるんだ?」
「うーむ。昨日締め切った優勝者の賭けで天狗仮面に賭けちまったからなぁ。今日の賭けは絶対外すわけにいかんのだ」
「だからどっちに賭けるんだって?」
「払い戻しの大きい方に賭ける!一発逆転だ」
「そう言う奴がどんどん深みにハマっていくんだろうな……」
そんな会話がそこかしこで繰り広げられていた。
3位決定戦の時間が近付き闘技場内は観客ですでに溢れんばかりであった。
一方、出場者のエルさんはVIPルームには来ず控室で出番を待っている。
俺達はエルさんの試合を見ようとVIPルームで観戦だ。
「さてさてエルさんは勝てるのかね?」
俺がそう呟くとルーリが頬を膨らませて
「絶対勝つ!いや勝て!私とナティさんの仇討ちだわ!」
「ふふふ、私は特に何もないわよ。ただエルウィン様には勝ってもらいたいけど」
ルーリがヒートアップしてるが一昨日のような感じとは違うので安心してる。ナティさんはいつも通りだった。
「あいつと直接戦った二人はどう感じた?」
この二人は両方ガルドに負けていたのでそう聞いてみた。
「私はすぐ記憶なくなったから覚えてないけど。ライオンらしくしなやかでそれでいて力強かったわ」
「私も同じ感想ね。エルウィン様とはまた違ったパワータイプって感じよ」
ああ、なるほど。同じタイプだけど微妙に違う。まさしくゴリラとライオン、そんな感じだ。
ガルドがどこまでエルさんと戦えるのか? 今から対戦が楽しみで仕方ない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昨日のユウとの試合は負けはしたものの面白かったが、さて今日の試合はどうなるかな?
相手はガルドと言う獣人だ。試合を見た感じではスピードとしなやかさで攻撃してくるタイプ。
予選の数値もまぁまぁ高かったと聞いてる(数値は忘れた)ので、実に楽しみだ。
「それでは3位決定戦を始めます! まずは昨日は惜しくもベイダー選手に敗れましたが、その実力はまさにトップ・天狗仮面選手!!」
「対しますは獣人族を代表する強者・ガルド選手です!」
お互いの紹介も終わり、あとは開始の合図を待つのみ。
「それでは始め!」
ガルドが突っ込んでくる。もちろん俺も突っ込む。
瞬く間に間合いは詰められ、互いに右拳を振り抜く。両者相打ち!
あえて食らってみたのだが、吹き飛ばされたのはガルド一人だった。
――パンチが軽い。
いやLv30以下の探索者が食らえば首から上が丸ごと飛んで行ってしまうだろう。
ただしそれは一般の人に対してであって俺に対してみたらまだまだ軽いと言わざるを得ない。
スピードにしてもそうだ。地上のレベルで比べたら早い方かも知れんが……。
そう考えていたらユウと出会う前のつまらん生活を思い出してしまった。
何もわからずこの世界に召喚され、いきなりダンジョンマスターになれと言われた。
ダンジョンマスターなど聞いたこともなかった俺は右も左も分からずバルスと共に必死に生き延びてきた。
召喚魔物が弱いなら己を鍛えればいい。そう思って日々自己鍛錬に明け暮れた。幸い貧弱だった俺は転生時に強靭な体を手に入れていたのだった。
魔法など見たことも聞いたこともなかった俺は上手く扱う事が出来ずに苦労した。魔法を半端に扱うくらいなら徹底して武術、主に格闘術を磨きあげる事に専念した。
ようやく軌道に乗せ始まったころ、ある一人のダンジョンマスターと仲良くなる事が出来た。
その人は難しい人との噂通り、あまり笑わない人だった。
ただ俺にだけは笑顔を見せてくれた。まるで少年がそのまま大きくなったような屈託のない笑顔だった。
俺には兄弟がいなかったが兄貴が出来たようで嬉しかったのを覚えている。
それから俺は兄貴と呼んで一緒に成長していった。いや、成長させてもらっていたのだった。
その兄貴が同じダンジョンマスターの卑劣な手によって殺されてしまった……。
俺は泣いたね。泣いて泣いて泣いて、復讐を誓った。
それからの俺はまさに鬼だっただろう。
来る日も来る日も探索者や他のダンジョン所属の魔物を屠りまくった。
気が付くとレベルも80を超えて、ダンジョン『キングダム』も人間達から上級に指定されるようになっていた。
配下のドラゴンたちを鍛え、アグリルを筆頭に強力な軍団も作り上げた。
そして遂に兄貴を卑劣な罠で殺したダンジョンマスターに復讐を遂げた……。
念願の想いを成し遂げた時、やっと心が晴れるかと思いきや逆にぽっかりと穴が開いたようだった。
――俺はこれから何のために生きていくのか?
それからの俺はただただ惰性で生きてきた。傲慢で自己中心で勝手気ままに生きてきた。
そうすればいつか誰かが殺してくれると思ったからだ。
自由気ままに生きてたらいつの間にかダンジョンランクが1位になっていた。そこからは死ぬ事を考えるのをやめた。
このまま自由気ままに生きてやろうじゃねぇか。
いつしか『傍若無人』 そんな風に呼ばれていた。
そんな俺でも付いてくる奇特なマスターが何人か出来た。
俺はそいつらと「俺と兄貴」のようになりたかったんだろうな。もっと気安くしていいと言ってもそうしてくれる奴はいなかった。
そしてそいつらは俺に対して必ずこう言った。
「○○から嫌がらせを受けているので潰してください」
「××が気に入らないからやってしまいましょう」
そいつらが求めていたのは俺の強さだけだった。俺の陰に隠れて吠えるだけだった。
その中の一人が俺の名前を使って喧嘩を始めたが、俺はその喧嘩を無視することにした。するとそいつは呆気なく殺されたのだった。
――自業自得だ。
そう思っていたのだが、死んだ仲間?のやり返しもしない俺に付いてきた奴らは次第に離れていく。
――つまらん人生だ。
俺はそいつらのダンジョンを潰して回っていた。
そんな日が続いたある日、ダンジョン神様からルールの追加が発表される。
「ダンジョンの侵略の禁止」
またも俺の心にぽっかりと穴が開いた。
ダンジョン同士の争いはなくなったが同時に繋がりまでなくなることになった。
なんだかんだで他のダンジョンと潰し合うのは楽しかったんだろうな。
バルスに小言を言われ、ナティにも苦言を呈され、アグリルには無視された。泣いた。
王を操って遊んでも面白くない。笑い合える兄貴もいない。
――孤独。
そんな俺を何十年か振りに心躍らせる奴が現れた。
初めて町を訪れた際には不思議な感覚に陥った。そこに広がるのはダンジョンらしくなかったからだ。
初めて見る遊び、ゲーム、戦闘方法。
どれもこれもがワクワクさせやがる。
その極め付けがこの町の主であるユウだ。
奴は俺を知らなかった。だが知らなかったが故に俺を『エルさん』と呼んだ。
俺は思わず大笑いし、そう呼ぶ事を認めた。
ああ、そうか。あの時の兄貴の気持ちもこんな風だったのか……。
もしあの時ユウに『エルウィン様』なんて呼ばれていたらこうはならなかったかもなぁ。
ユウには言わないが、俺はユウを弟?妹?まぁどっちでもいい。兄弟と思って遊んでやろうと決めたんだ。
その後の事はご存じの通りよ。あいつは想像以上に面白い奴だった。そして凄い奴だった。俺もこの2~3ヶ月楽しくて仕方ない。
俺にとってユウはもうなくてはならない。そういった存在になっていたんだ。
そのおかげで今、こうして戦う事も出来ている。
憎しみも享楽も何も関係ない。ただ純粋な戦闘。
――だが、それがいい!
「わはははは、もっとやろうぜ。ガルドよ!」
「このバケモンめ……」
そう呟くとガルドはゆっくりと倒れていった。
「え?」
俺が「何が起こったのか」分からず呆気にとられていると気絶確認が入る。
「ガルド選手気絶により、天狗仮面選手の勝利です!よって天狗仮面選手の3位が決定いたしましたー!」
「待て待て待て!過去に浸ってたら終わってたんだが?」
「それは個人の自由ですので!」
「ガルド立て!お前はまだやれる!最初からやろうぜ!なぁ、ガルド!ガルドー!」
そう言ってガクガク揺さぶってみたが、ガルドが気絶から覚める事はなかった。
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