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第9話 初クエスト

 


 腹ごしらえも済み、俺たちは早速クエストに行くことにした。


 ゴブリン三体の討伐。

 難易度2。


「よーし、とりあえずふたりがどれだけ戦えるか知りたいから自分たちなりに頑張ってみてくれ」


 というのが今回の目的だった。

 まずはどれだけの実力があるのか知りたかった。

 パトリエさんや本人たちの口から聞いた限りじゃあ、なかなかあれらしいけど。


「見てて、ダレン! ゴブリンなんてちょちょいのちょいなんだから!」


 そう息巻いていたジェイミーだったが。


「うわああああん! 当たんないよおおおおおお!」


 現在、半べそをかきながらゴブリンの攻撃から逃げていた。

 ……おい。


「ジェイミー、避けて」


 一方、接近戦をしていたジェイミーとは離れた位置で待機していたペトラは杖を構えて狙いを定める。


「【ファイア】」


 初級、中級、上級、最上級と四段階ある魔法の中で一番下の初級魔法を放つ。

 ゴブリン相手なら充分ダメージを与えられるものだったが。


「どわっ!」


 なぜかゴブリンとは全然違う方向の木の陰に隠れていた俺のところにそれはきた。


「ごめんなさいダレンさん!」


 わざとではないらしく、すぐに謝られる。

 俺は気にするな、というふうに左右に首を振る。


 まあまあ。まだ戦って一分少々。一体くらい倒せるだろう。


「いたあああああああい!」

「ちょっジェイミーこっち来ないでえええ!」

「だって痛いんだもん! 交代、交代して、ペトラ!」

「やだよぉ。わたし、魔法使い! 大剣使いなんだから頑張って」

「だったら援護してよ!」

「わかった。【ウォーター】」

「冷たっ! 私! 当たったの私だから!」

「ごめん、次は当てるから」

「お願いよ――あ、やめっ! やめて、い、痛い……痛いから叩かないでえええ!」

「ジェイミーから離れて――痛っ! ああ、こっち来ないで……来ないでえええ!」


 それから見守ること数分。

『アリゾナの森』で繰り広げられる幼女対ゴブリンの一戦は、一方的なものとなっていた。

 俺は一体なにを見せられているのだろうか。


「ごめんなさい。もうしないから……もうしないからああああ」

「やだ、ジェイミーを攻撃しないで! やめてえええええええ」


 限界だな。

 さすがにこれ以上見ているのは無理だと判断した俺はジェイミーに馬乗りなって攻撃しようとしていたゴブリンを蹴飛ばす。


『グギャ――』


「大丈夫か、ジェイミー、ペトラ」


 声をかけるとふたりは涙目になりながら抱き着いてくる。


「ダレン、ありがとおおおおおおおお」

「ダレンさん、怖かったですぅううう」

「わかったから離れてろ」


 無理矢理引っぺがし、俺は起き上がってきたゴブリンを一刀する。

 そのまま二撃、三撃加えると小さく呻いて倒れた。


 うん、弱いな。


「すごいこんなにあっさり倒しちゃうんだ」

「ダレンさんお強い……」


 尊敬するような眼差しをふたりの幼女から向けられる。

 ……いや、決して俺が強いとかそういうんじゃなく。


「なあジェイミー、ペトラ」

「なに?」「なんですか?」


 ゴブリンが死んだかどうか確認していたふたりは俺のほうを向く。


「悪いことは言わない。討伐クエストはもう少し戦えるようになってからのほうがいい」

「ええ? ダレンまでなんでそういうこと言うのー」

「ダレンさん見捨てないでくださいぃぃ」


 やいのやいのとくっついてくる。


「攻撃が当たらないのにどうやって倒せるんだよ」

「調子が悪かったの! それに相手がちょこまかちょこまか動くから!」

「相手は動くに決まっているだろ。ちゃんと狙わなきゃ」

「狙ったもん。でもゴブリンがうんこだから避けられたのー。しかもひどいんだよ。私が待ってって言っているのにぶってきてえ!」


 当たり前だろ……。


「ペトラもだ。魔法のコントロールがなってない状態じゃあ援護もできん」

「コントロール難しいんです」

「初級の魔法すらできないってのはちょっとな……」

「使えるんです。使えるんですけど、いまいち感覚が掴めなくて」


 うーむ、どうするか。

 実践というよりも剣を扱う練習や魔法の練習をするほうがいいんじゃないかこれ。


「とりあえず、あとの二体は俺が――」

「ダレン……」

「ダレンさん……」


 倒そう、と言おうとした俺の袖を引っ張って見上げてくるふたり。

 まるで飼い主に見捨てられそうになった子犬のようだった。


「わかったよ。じゃあ今度は俺の言うとおりにやってみようか」

「うん!」

「はい!」


 元気よく返事をしたジェイミーとペトラに俺は肩をすくめた。



――――



「そう。しっかり相手と自分の距離感を把握するんだ」


 じりじりと対峙するジェイミーとゴブリン。

 相手も武器である棍棒を所持している。対するジェイミーは大剣。


「ていっ」


 かけ声とともに大剣を振るったジェイミー。

 動きは悪くないが、相手も馬鹿じゃない。真正面から突っ込んできたら避ける。

 案の定攻撃は空を切った。


「右だ、避けろ」

「わわっ」


 棍棒を振り回してきた相手にジェイミーはかがんで回避する。


「よし、そのまま攻撃だ」

「――せいっ!」


 攻撃後、背を向けたゴブリンを鋭い剣閃が襲う。


『グギャッ』


 カウンターを受け、ゴブリンは一瞬よろめく。

 ちょっと浅いな。


「やったっ! 当たったっ! ダレン当てたよー」

「喜んでいる場合か! 後ろ後ろ」

「いたあああい!」


 はしゃいでいたジェイミーの側頭部に棍棒が振るわれた。

 言わんこっちゃない。


「戦っている最中なんだから喜んでいる暇なんかないぞ。次来るぞ、ちゃんと相手を見ろ」

「うう……わかったぁ」


 痛そうに側頭部をさすりながら構え直す。

 まだ危なっかしいが、ジェイミーばかりを見ていられない。


「よし、ペトラ。魔法を使ってジェイミーを援護するぞ」

「でもわたし才能なくて、全然うまく扱えないんです」

「なーに言ってんだ。才能ないやつは魔法を発動することすらできないっての」


 卑屈になるペトラに俺はにこっと笑ってやる。


「コントロールだけだろ? なら大丈夫。あとは慣れだ」


 俺もべつに魔法が得意というわけではない。

 魔力だって平凡だし、扱えるのだって中級までだ。

 当たりはしなかったが、初級であの威力だと俺よりもすごいと思う。


「俺も専門的なことはわからないけど、自分の身体の一部である魔力を使うから、要は魔法ってのは言ってみれば自分の手足みたいなもんらしい。ペトラは普通に手足を扱えるだろ? 感覚としてはそれと同じだ」

「やってみます」


 ごくりと喉を鳴らして杖を構えるペトラ。

 この魔法を主体で戦うやつらは基本的に杖のような魔法の威力増大や発動の高速化などといった補助媒体として使われる。魔法の素養がない人でも使うことのできる魔導具と似たような造りである。僧侶であるかつての仲間、イヴも杖を介して魔法を行使していた。


「相性のいい魔法属性はわかるか?」


 わからないというふうに首を横に振られる。

 人によって火系魔法が得意な者もいれば、風系魔法が得意な者も、また治癒系魔法や身体強化といった補助系魔法が得意な者もいる。相性がいいと扱いやすかったり威力が変わってくるので普通は得意な魔法を鍛錬を重ねることによって伸ばしていく。これらはおのずとわかってくるものだが、ペトラはまだ自分の得意とするものがわからないようだ。


「まずは火系魔法を使ってみよう」

「はい」


 奮闘するジェイミーのほうを見て、狙いを定めているペトラと目線を同じくするようにかがむ。

 真剣に取り組もうとするその表情を見て、俺はペトラの頭にぽんと手を置く。


「……はう」

「肩の力を抜け。それじゃあ当たるもんも当たらない」

「は、はい」


 返事をすると、ペトラはひとつ深呼吸をした。

 ゆっくりとその杖に魔力が注入されていくのを感じる。


「【ファイア】」


 言葉とともに杖から放たれた火の玉。

 ちょうどジェイミーがゴブリンとの距離を取った瞬間をちゃんと狙ったのだろう。

 その攻撃は狙いどおり――とまではいかなかったものの、ゴブリンの頬を掠めた。


「おりゃ!」


 死角からの攻撃に気を取られていたゴブリンを見逃さなかった。

 ジェイミーは飛んで一気に距離を詰めると、そのまま一刀両断した。

 綺麗に縦に切断されたゴブリンの体から血が噴き出す。


『ゴギャッ……』


 ひくひくと体を震わせながら痛みに耐えられず、ゴブリンは地面に倒れた。


「た、倒した……? やったの、これ?」


 まだ信じられぬといった様子でゴブリンの体を凝視するジェイミー。

 ペトラも遠くから倒れ伏したゴブリンの様子を窺う。


「ナイスだ、ジェイミー。倒したぞ」


 近づきながら俺も死んでいるか確認する。うん、大丈夫そうだ。


「やったあ! 倒した倒した! 初めて倒したー」

「うわあ、すごいジェイミー。やったね」


 喜ぶふたりを見て、俺も昔のことを思い出してしまった。

 初めてモンスターを討伐する、そりゃすげえ嬉しいよな。

 しかも指示を出したとはいえ、ちゃんと自分の手で、だ。


「ちゃんと相手の隙を突いて倒せた、しっかり相手を見ていた証拠だ。すごいぞジェイミー」

「……えへへ。ダレンありがと」

「ペトラも当たりこそしなかったけど、相手の意識を逸らすことができた。あれがあったからこそジェイミーが決めることができたんだぞ。よくやったな」

「はい。ダレンさんの言うとおりにしたら少しだけよくなりました。ありがとうございます」


 褒めるとふたりとも嬉しそうにしたあと、俺のおかげだと言う。

 助言はしたが、ちゃんと実行に移せたのは彼女らの実力があってこそだ。

 実際俺はなにも手を出していない。

 でもまあ……そう言われて嬉しくないわけがなかった。


「喜んでばかりもいられないぞ。残りの一体も倒すぞ」

「うん」

「はい」


 それから俺たちは残りの一体も無事に討伐することができた。





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