番外編 王道的異世界召喚
わたしの人生はいつだってついていない。
みんなでひまわりを育てたけどわたしの芽だけ出なかった。
ペアを組む時、いつも余って先生と一緒に組むことになった。
友達と外で遊ぼうとした時はだいたい雨が降ってしまう。
連絡網が回ってこず、ひとりで学校に行ってしまったこともある。
積極的なタイプではなかったため友達を作るのも精一杯だが親の都合で転校を余儀なくされ、仲良くしていた子といつも離れ離れになってしまう。
とかいろいろ、枚挙にいとまがない。
だからこんなふうに。
高校二年生に進級して一年生の頃に仲の良かった子たちとわたしだけがクラスが違うといういつもどおりのことが起き、だれも立候補がなかったためくじ引きで委員長になり、さっそく雑用を押しつけられるのなんて――いつものことだ。
だけど。
「ようこそ、おいでくださいました――勇者様」
クラスまるごと異世界に送り込まれるって。
そんなことある?
――――
ロイヤルズ王国の王様によれば、いわゆるここはファンタジーの世界らしい。
モンスターと言われる化け物が存在し、それらから国を守る騎士団がいて、モンスター討伐をする冒険者がいて……まあわたしはそこまでこの手のものに精通しているわけではないのでよくわからないけど、なんとなくはわかった。
つまりアニメや漫画、ゲームの世界に来たということだ。
なんのために?
くどくどと説明を受け、わたしと同じような疑問を持った比較的早くこの状況を受け入れたらしい男子生徒が王様に向かって言った。
もちろんいくら相手が謙った態度であったとしてもおそらくは年上であろう人にいきなりため口で聞いたわけではないと思うので、その問いはもう少し畏まったものだったと思うけど、何分わたしも頭がいっぱいいっぱいだったので正確には聞き取れなかったのだ。
でもそういうみんなの気持ちを代弁したということは確かであった。
「ふむ、きみたちを迎え入れたのは他でもない……魔王の復活が迫っているからだ」
魔王。
それは数十年前に倒したと言われている人間の敵らしく、その脅威が再び復活してしまうのだそうで、その魔王をわたしたちに倒して欲しいとのことだ。
魔王の復活というのはほぼ確実らしく、それを防ぐことは難しいとのこと。
そこら辺のことははっきり言わなかったけど、現在もいろんなことをしている最中なのだが成果は芳しくないとか。最後まで頑張るつもりとのことだが、魔王が復活してからわたしたちを呼び寄せたのでは遅い――だからいま、魔法で呼んだのだそうだ。
「つまり僕たちはこれから魔王との戦いに備えて鍛えると?」
「理解が早くて助かる」
物怖じしないタイプの男子生徒が召喚の意図を確認する。
「古来より異世界人の潜在能力は我々をも凌駕すると言われており、是非とも勇者様となってこの世界を救っていただきたい」
懇願される。
なるほど。どうやらわたしたち異世界人はこちらの世界の人にはないような力を持っているということらしい。だから将来有望なわたしたちを鍛えて魔王と戦わせようということか。
「これがラノベとかアニメである異世界ってやつか」
「な。チートスキルもあるって話だ」
「やばい。楽しそう」
こういう世界に憧れを持っていたのか、数人の男子生徒がウキウキとした様子で話している。
いやいやちょっと待ってよ。なんでそんなすぐに受け入れられるの? 普通あり得ないでしょ。異世界だよ? モンスターとか言っているよ? なんで楽しそうなの?
異世界などまったく興味のないわたしはただただ不安で仕方なかった。
「あの、話はわかりましたけど……私たちは帰れるんでしょうか?」
わたしと同じように思っていた女子生徒が勇気を振り絞って口を開く。
「もちろんそれは保証いたすが……」
王様は言いにくそうに下を向く。
「この召喚魔法と呼ばれるものはとある契約を結ぶことで発動でき、その契約というのが『この世界を脅威から救い出す』こと、としているため、それをなし得なければ帰る手段はないという現状であり……」
「そ、それじゃあ結局私たちが魔王っていうのを倒さないといけないってことじゃないですか!?」
「いや必ずしもそなたたちがなし得ずとも我々でどうにかすれば帰還の条件は達成できる」
「でもそれって長い間、帰れないことには変わりないってことだよね」
自分たちの置かれた状況を聞き、一部から不安の声が上がる。
「巻き込んですまないが、こちらとしては相応の報酬を用意している。またこちらの世界での援助も充分なものを提供する予定でいる。どうか、力添えをしてはくれぬだろうか」
何度も頭を下げられればこちらとしてもそれを簡単に無下にできない。
こちらでの生活の保障や戦闘などの様々な方面で支援はあるとのこと。
けどそうは言ったって――
「わかりました。自分は勇者としてこの世界のために戦おうと思います」
まだまだ不安はあり、異を唱えたかったけど、その言葉を発した人物にだれもが注視した。
「ほ、本当か?」
「はい。正直、不安はありますし、自分なんかが……と思いますが、どのみちもとの世界へ帰れない現状、困っているこの世界を放っておくなんてできないというか」
どこまでも爽やかな表情で、格好いいことを言う男子生徒。
彼はこのクラスの人気者であり、リーダー的役割を担う小鳥遊翔。
スポーツ万能、頭脳明晰、顔もいいの三拍子揃った漫画に出てくるキャラクターのように完璧な人である。
彼はこの場面でもその完璧っぷりを発揮し、凛然と言う。
「俺は頑張ろうと思うけど、みんなはどうかな? できればみんなと一緒に戦いたい。ひとりじゃあ不安っていうのもあるけど、みんなと一緒ならできそうって思えるし……もちろん、強制じゃない。女の子なんかは特に怖いって思うだろうから」
こんなふうに小鳥遊くんから言われてしまえば、拒否することなんかできない。
「俺も戦うよ。翔がやるっていうんならやれる気がするし」
「私も。翔くんがいれば安心!」
「まあチート能力もあるだろうし、やっちゃうかー」
「頑張ろっか」
案の定、口々に賛成の意が言われる。
まあ、うん、そうなるよね。
栗原美羽ことわたしもみんなと同じように異世界を救う意思を示した。
――――
謁見の間から場所は移ってひとつの部屋の前に案内される。
「ここでひとりひとり恩恵と呼ばれるものを確認してもらいます」
王様のすぐそばに控えていた騎士がそう言って順番に部屋に連れていく。
どうやらその恩恵というのがこの世界で重要な能力というやつらしい。
この恩恵によってそれぞれ戦い方を決めていくとのこと。
彼らによればわたしたちは例外なく強い能力があるってことだったけど、果たしてわたしはどんな能力を授かるのだろうか。
小鳥遊くんなんかはものすごく強そうなのを授かりそうだけど、わたしは無難なものなんだろうなあと思う。
というかそれがいい。
無難が一番。
「おっ」
石碑の前で祈りを捧げること数分。
わたしの目の前にある石碑が光ったかと思えば、突然消えた。
「あれ?」
どういうことだろうかと首を捻る。
もしかしてなにか失敗しちゃったとか?
それとも。
――この世界でも稀に恩恵を持たない者がおるが、まあきみたちなら問題あるまい。
王様の言葉が蘇る。
「あはは……」
やっぱりわたしはついていない。




