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第27話 冒険者を志した理由



 建物が壊れる音が遠ざかる。

 うまく逃げているだろうか、怪我などしていないだろうか。

 考えれば考えるほど不安に駆られるが、ひとまずモンスターの気配が消えたところで足を止める。


「もう安心だ」


 なにも闇雲に走ってきたわけではなく、もうすぐで教会に着くところまで来ていた。

 見知った場所までたどり着いたからか、コウもひどく怯えていた表情は消えていた。


「ありがとう、ダレン」

「おう。……しかしここまで来たはいいが、教会のみんなはどこかに避難したんだろうか」


 そうするとその場所まで送り届けなければならない。

 この近くだとやはり冒険者ギルドということになるのだろうか。

 期せずしてそうなったなら応援を呼ぶこともできる。


「とにかく教会まで行こうか。歩けるか?」

「うん……あの、ダレン」

「ん?」

「ジェイミーとペトラは?」


 問われ、俺はその心配はいらないとばかりに笑顔を作る。


「大丈夫、ふたりなら逃げているはずだ」


 たぶんこれは俺自身を安心させるために言っていることなのかもしれない。

 言葉にすることで不安を取り除こうとしている。


「さ、早く行こう。みんな心配しているだろうから」


 そう促し、歩を進めた時、前方の通りからだれかが走ってきていた。

 またなにかモンスターから逃げている人だろうかと身構えるがそうではなかった。


「フィルムルトさん?」


 目を凝らすとその人物がフィルムルトさんであることがわかった。

 彼もこちらに気づいたらしく、近づいてくる。


「コウ!」


 隣にいたコウの身体の無事を確認するように彼に抱き着く。


「無事だったか? どこか怪我したりしていなかったか?」

「だいじょーぶ。ダレンやジェイミー、ペトラたちが助けに来てくれたから」

「そうか」


 言葉にされ、フィルムルトさんは安心したように息を吐き、立ち上がる。


「すまない、助かった」

「いえ、たまたまでしたから」


 少ない会話が交わされる。

 コウの身を心配して走ってきたために疲れていたのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。顔や身体のところどころに傷を負っていて、防具もボロボロだ。


「あの、もしかしてモンスターと遭遇したんですか?」

「ああ……教会のほうに来ていてな」

「ぶ、無事だったんですか!?」

「なんともない。俺と仲間も手伝ってくれてな、ガキどももマースレットさんも」


 言いながらもその表情から苦戦を強いられたのが窺えた。

 俺がそんな疲弊したフィルムルトさんを見つめていると、彼ははっと笑う。


「俺が守るっつったろ」


 当然だとばかりに言われる。


 確かそれは彼が冒険者を志した理由であり。

 彼が冒険者をし続ける理由。


「あの時は悪かった」

「え?」

「嫉妬、していたんだ。俺よりも遅く冒険者になったのに追い抜いていくアンセムやダレン、お前らに……自分勝手だとは思うけど、どんどん強くなっていくお前らにむかついて、弱いままの自分にむかついていた。でもさ、今日、教会のみんなをモンスターから守って、マースレットさんやガキどもに礼を言われて気づいたんだ」


 フィルムルトさんは言う。

 とても幸せそうな表情で。


「俺が冒険者になった理由はあいつらの笑顔を守ることなんだって」


 その言葉が胸を衝く。


「強くなることばっか頭にあって、馬鹿みてえなことして……本当にすまなかった。一歩間違えればお前は死んでいたかもしれなかった……このとおりだ。許してくれ」


 頭を深く下げ、謝られる。

 隣にいるコウはなにを話しているのかわからないらしく、俺とフィルムルトさんのことを交互に見ている。


「こんな簡単に許してくれるだなんて思っちゃいない。俺にできることならなんでもする」

「……じゃあ、ひとつ約束してください」

「約束?」


 頭を上げたフィルムルトさんに言う。


「子供たちやマースレットさん、教会のこと……お願いします」

「……は? いや、なんでそんなこと」


 予想外のお願い事に訝しむように呟く。


「だってあそこはジェイミーやペトラ……それに俺にとっても大切な場所ですから」


 言って、俺はポーションをフィルムルトさんに渡す。


「おい、どこか行くのか? あっちには確かモンスターが――」

「俺も思い出しました」


 冒険者になった理由、と言って俺は守るべき存在を目指して走った。



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