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第22話 暗躍する集団



 暗く昏い、闇に溶け込んだかのような場所。

 外からの光が入らない、洞窟の中、ひとりの少年が凄惨な笑みとともに言う。


「見つけちゃったー」


 その言葉に壁に寄り掛かっていた人物が鼻を鳴らす。


「寝ぼけてんのか? 都市の中だぞ?」

「寝ぼけてないよー、マジ中のマジ」

「じゃあなにか、都市の中にモンスターが混じってたってわけか?」

「さあ? そこんところは専門外だからわっかんないけど」

「ほら見たことか。そんなもの信用できないな」

「おいおいおいおい。なにもわからない人は黙っててくれないかなー」

「ああ?」


「それで」


 馬鹿にされるような発言をされ、壁に寄り掛かっていた男が動くのと同時にそれを制止する声が洞窟内に響く。


「――どのくらいの魔の因子だった?」


 続けて割って入った男が軽薄そうな少年に問いかける。

 彼はうーん、と顎に手を当てて考えるような素振りを見せる。


「まあまあやばいと思うよ」

「ああ? 具体的に言えよ」

「もううるさいなー、口を開かなきゃ生きていけないの?」

「殺すぞ」

「ウィムス」


 物騒な言葉を吐き捨てた男――ウィムスは少年に襲い掛かろうとしたところで名前とともに発せられた圧により、一歩を踏み出せず、代わりに地面を蹴る。


「へへー、怒られてやんのー。バーカ、バーカ」


 大きな味方がいるためか、ここぞとばかりに追撃をする。


「しかし、そうなるとどうするかな。貴重な存在かもしれない」

「おい、リウス。こいつの言うこと信じるのか?」

「信用はしていないが――信頼はしているさ」


 どういう理由であれ、仕事だけはこなす。

 そういう関係を、リウスは徹底してきたし、築けてきたはずだと言外に告げる。

 無感情を貫くその姿勢にウィムスは寒気を覚えたかのように口を閉ざす。


「んじゃあ、どうするの?」

「そうだな」


 ウィムスとは違い、まるで意に介した様子のない少年が問うと、リウスは思案を巡らすように数秒指を動かす。


「ちょうど新しいモンスターを手に入れたところだったんだ。そいつを使おう」

「新しいモンスター?」


 興味津々といった様子で少年が目を輝かせるとウィムスが「おい」とたまらず声を出した。


「あれは戦力として取っておくんじゃなかったのか?」

「そのつもりだったけれど、まあいいさ」


 リウスが自身の指を舐める。


「そいつがいるのはトロントだっただろう?」

「うん? ああ、うん、そうだよ」

「あそこの冒険者には魔族化させた火炎竜ファフニールをやられた一件がある」

「なるほど。仕返しってわけか」


 乗ったとばかりにやる気を漲らせる少年にリウスは笑って応える。


「そんなところだ」

「だがトロントはかなり大きな都市だぞ。どうやって標的を狙うつもりだ?」


 まだこの話に消極的な姿勢を見せるウィムスの意見にリウスは言う。

 当然のように。


「魔族化したモンスターをばらまく」

「…………っ」


 その大胆な作戦にウィムスの口の動きが止まる。


「へえ、それ面白そう」


 しかし能天気な少年は実に愉快そうにぴょんぴょんと跳ね回る。


「決行は三日後とする。それまでに仕事のほう、調整しておくことだ」

「あいあいさー」


 軽い返事とともに用は済んだ少年は洞窟から姿を消す。

 とんとん拍子に進んでいき、もはや決行することは決定事項となる。


「リウス、そんな簡単に決めていいのか? もっと慎重に行ったほうが――」

「うかうかしている内にどこかへ逃亡でもされたら探すのが面倒になるかもしれない」


 リウスは可能性を告げ、不服げなウィムスを説き伏せるように聞く。


「アトランタを襲撃した時のことを覚えているか?」

「そりゃあな」


 忘れるはずもない。

 魔王が滅び、長のいなくなった魔族たちだけで人間を襲った初めてのことだ。


「あれも本当はアトランタを潰すことが目的ではなかったはずだろう」

「ああ、そういえば……いやしかしあれは結局――」

「魔の因子を持つ者がいなかったか、器ではなくただ死んだだけか、はたまた逃げたか――まあそれは有耶無耶に終わったが、しかし、俺が言いたいのはそういうことではない」

「なるほど、前例はなくはない、か」


 リウスの言わんとすることを理解したウィムスは納得の意を示す。


「今回は顔が割れているんだ――前回の時とは違う」


 暗がりに落ちた言葉。

 その時のリウスの表情は、ウィムスにはわからなかった。


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