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ペリオンの化石たち  作者: 琶琶
3/4

2話

文体を変えました!!具体的に言うと改行と段落を覚えました!!

その日はすぐにやって来た。いつも通りの日常はすぐに過ぎ去る。例えばNo.30が座学の課題と格闘している横でそれを早々と片付けたNo.06が机に足を投げ出して研究員に白い目で見られたり、No.34とNo.100がこっそり研究室に忍び込んでスナック菓子とコンビニスイーツをくすねてきたり、マリー王妃とグレイさんがお茶会の途中でお互いの国をさりげなく馬鹿にして微妙な空気になったり。そんなこんなで試合の当日になり、俺は早朝のペリオンを一人で歩いていた。


「あれ、13も散歩?」


向こうから歩いてくる女の子が一人。ペリオンとは『太陽に最も近い場所』という意味もあるらしい。だけどペリオンには陽射しなんて射し込まない。そんな照れ屋なお日様も彼女の愛らしさには目を奪われるようで、彼女の肌は褐色だった。ペリオンの制服であるセーラー服がとてもよく似合う。腰まで伸びた水色のストレートヘアー。肌と髪によく映える赤い瞳。


「48?」


No.48。前世はインドの勇敢な王妃、ラクシュミー・バーイー。第9班。ペリオンの男共は彼女のことを地味だと言うけれど俺からすれば彼女ほどキラキラ輝く女の子は他にいない。


「おはよ。……その、今日はがんばって。わたし、応援してる。心から。」


「ありがと。」


本当は、眠れなかった。緊張と興奮でアドレナリンがドクドクと溢れ出して来て目を閉じても頭のなかがぐるぐるして仕方がなかったのだ。だけどそれは第4班の他の皆も同じだったと思う(現にNo.34のベッドからは一晩中荒い息が聞こえていた)。

それから、No.48と他愛ない会話をしながら施設内を歩き回った。胸がどぎまぎして、口の中がからからになっていく幸せな苦しみに苛まれた。歩きながら俺は戦闘訓練で彼女と模擬試合をした時……彼女に恋に落とされた時のことを思い出していた。



正直、自分より身長が低い女の子だからって油断していた。だけどそれが間違いだったと今は思う。彼女の得物は長い木刀で、俺の得物は木製ナイフ。俺の方が間合いが狭くて不利だったってNo.06はフォローしたけれど、ナイフは食いついてしまえばこっちのもので、敗因は得物だったなんてそんなことあり得ない。勝負はあっという間についた。


「勝負あり!だね。」


そうやって俺の首筋に木刀の刃を当てて微笑む彼女は紛れもなく女神だった。本当に一瞬で俺はナイフを奪われた。全速力で低姿勢。集中。そうやって彼女の懐めがけて走っていった俺はNo.48の機敏な木刀捌きについていけなかった。彼女は刃がついていない方の峰で俺の鳩尾を打ち、飛ばされる俺のその手首を蹴りあげてナイフを2メートル先に弾き飛ばしたのだった。あえなく尻餅をついた俺は彼女の刃を見て、それから彼女の顔を見つめた。運動後の興奮とかそういうのではなくて、彼女のせいで俺の頬は紅潮し、胸は高鳴っていた。



チャイムが朝を知らせる。朝食の時間。


「ねぇ、13。食堂までも一緒に行こうよ。」


「……ここで別れるのも変な話だよ。喜んで。」


彼女の誘いが心から嬉しかった。俺たちが歩いている途中も空気を読んで黙っていてくれたラクシュミーには感謝しかない。ラクシュミーは褐色の肌に赤い髪、金色の瞳の背の高い女性だ。王妃のティアラは、ネックレスに加工して常に身に付けている。王妃の身でありながら民たちの先頭に立ち、イギリス軍を相手録って奮戦。23歳で戦死した。……23の歳までに、俺が恋する彼女も命を落とす。

食堂に行く前に、俺たちはそれぞれの班の部屋に立ち寄った。第4班の皆は緊張を肩にぶら下げて俺を待っていた。寝不足を湛えているのは俺とNo.34だけのようで、俺とNo.34はNo.100に「すごい隈。」とからかわれた。

No.48が一番可愛いのは事実だけど、第9班の女の子たちと並ぶと彼女が地味だと呼ばれる理由がわかってしまう。クレオパトラに、楊貴妃。世界三大美女の二強が所属している。男だと、土方歳三にヘミングウェイ。班員の仲は良いし、都合上一緒に行動することが多いので否応なしに比べられてしまうのだ。


「なぁに?13くん。初恋の女の子とデートですかぁ?」


「やめなよ06。アンタがそんなこと言っても面白くない。」


No.06とNo.30がいつも通りの漫才をしている。金髪ツインテールに強めに小突かれたペリオンきっての残念美形男子はあえなく壁に激突することを余儀なくされた。こんなんだが、俺の親友は美形で有名な第9班の皆より容姿が整っている。悔しいことに。


「やめときな06。お前に夢見てる女の子が何人いると思ってる。」


第4班の皆といると頬が緩む。No.06限定だけど、親友の特権で毒を吐いてしまう。No.30が毒を吐くのは誰にたいしてもだから、彼の親友は俺だけのはずだ。寝ぼけ眼のNo.34の顔に、No.100が水をかけた。トイレの前の水道で水を手に含み水鉄砲の要領で発射したのだ。仕返しとばかりにNo.34が彼の頬を強くつねった。身長差はそれなりにあるはずで、彼女は背伸びをしていないから彼は相当屈んでいるのだろう。


「13。朝だねぇ。」


No.48が言う。第9班の女の子たちから一旦離れて俺に話しかけてくれたことが嬉しかった。


「そうだな。」


「顔、赤いけど。」


「……散歩したからかな。」


「……変なの!」


俺の女神さまの笑顔は俺のお日様そのものだった。俺は本物のお日様を見たことはないけれど、冬眠していた動物たちが春のお日様の呼び声で目を覚ますというのならば彼女は確かに春の陽射しなのだと思う。

食堂に入ると、彼女たちと別れた。第9班のテーブルは入ってすぐそこだから。別れ際、第9班の皆は手を振ってくれた。容姿端麗な彼らに優しく接しられると、第2班からの嫌がらせがまるで冗談のように感じる。


「見てぇ。オレンジジュースでまーだべたついてる。」


No.34がこぼす。


「それも含めてこのあと仕返ししようぜ。」


スクランブルエッグを頬張りながら俺は答える。朝から世界一可愛い女の子と話せたから、自信とやる気が湧いてくる。


「あいつらはあいつらで真面目に訓練なんか受けてないよ。僕らにも勝ちの利はある。」


No.100が言う。まるで自分に言い聞かせるような素振りだけど俺はこの人が見かけの数倍『やれる』ことを知っている。なんてったって前世はローマ建国の英雄だ。


「勝つぞー。」


「おー。」


マーガリンをこれでもかと言うほどに塗りたくったNo.06とNo.30がもそもそと声をあげる。第2班というと俺たちをボコボコにする算段を立ててゲラゲラと笑っている。……ぼさぼさの紫色の長めの髪に翡翠色の瞳の小柄な男の子を別として。彼は自分だけの世界に入り込んで何度も深呼吸を続けている。

それからはひたすらに食べた。戦闘で派手に動いたら気持ちが悪くなるんじゃないかとかそういうのは忘れたふりをしてひたすらに食べた。俺はバレないように茄子を隣に座るNo.06の皿に移した。


「なにしてんだよ。」


「恩を貸すと思って食べてくれよ。」


そう頼み込むと彼は茄子のバターソテーを一息に食べきった。茄子を食べられる点はNo.06は俺より大人だと思う。

朝食を食べ終わって俺たちは食堂を出る。食堂を出る時、第2班の奴等に足を出された。No.34とNo.100は無視して跨いだけれど俺とNo.06、No.30はグリグリと踏みしめてやった。

紫髪の彼はすれ違いざまに俺とNo.100に声をかけた。いかにも興奮したような声色で。


「あ、あの!お二人の前世って……!」


彼、もしくは俺たちが口を開く前にアイネイアスが俺たちを引っ張っていった。「嫌な臭いがする」とだけ言って。

かくして俺たちは班の部屋に戻って試合の準備をした。「覗くなよ!」と声を揃えて女子たちがカーテンの裏側で着替えに行く。俺とNo.100はカーテンに目を凝らすNo.06を押さえ込んで学ランからジャージに着替えた。着替え終わったあと、武器を用意する。試合では訓練とは違って本物の武器を使う。俺はナイフ、No.06は長槍。No.30は弓、No.34は日本刀、No.100はそれなりの長さがある大剣。

会場はローマ式のコロッセオに似ている。相違点と言えばガラス張りの展望台が付いていていること。そこから大人たちが見物をする。これに関して俺の親友は「見世物にされてるようで気にくわない」と批判する。


「13!頑張ってね、間違っても死んだりしないで。ううん、勿論信じてるけど。」


廊下を歩いている時、No.48が声をかけてくれた。


「死なないよ。ここで死んだら研究の迷惑になるだろ。……試合が終わったら一番最初に会いに行く。だから、ちゃんと見てて。」


気持ちとしては一世一代の告白をしたつもりだったけれど、彼女は鈍感だ。ペリオンの男の子の中で一番仲が良い子、くらいとしか思っていないだろう。


「残念だな、相手にされなくて。」


廊下の両脇に陣取る女子グループの相手にものともせずにNo.06が言う。本当は愛想を振り撒きたいに違いないけれど、外ではクールでミステリアスなキャラを貫いている彼は彼女たちを無視する他ない。俺からすればそちらの方が残念だと思う。


「まあ、良いだろ。会話ができただけで万々歳だよ。」


気づけばコロッセオに続く大広間に着いていた。ここには俺たちの班以外誰もいない。偉人たちはもう、大広間のドアにシャットアウトされたようだ。第2班はコロッセオの反対側の大広間にいる。

俺たちは大きく深呼吸をする。呼吸のタイミングはもう揃っている。目を合わせて、笑い合う。ここまで来たら、勝つ自信しかない。


「それじゃあ、行こうか!」


俺たちはコロッセオに向かって歩きだした。さながら、戦へと向かう英雄たちのように。

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