prologue
[prologue]
温故知新という言葉がある。旧きを温め新しきを知る。長きに渡って世界を彩った人間の歴史に於いて、いつ如何なる時代でも人々はその言葉に倣ってきた。故にこの世界は魔法と科学の両立という偉大な功績を成し遂げた。現代では当然のことだが、科学とは文系と理系の垣根を飛び越えた、人の未来を切り拓く学問全般のことを言う。
孤児施設、ペリオン。若き2代目所長が管理する歴史科学研究施設。科学の為に魔法を行使した代表例。親となる研究員に過去の偉人を降霊させる。やがて生まれる[来世]と呼ばれる子どもたちは、その偉人の記憶を[前世]のものとして持つ。その子どもたちへと尋問を繰り返すことで、過去を知る。こう聞けば真っ当に聞こえるが、その実極めて非人道。子どもたちは前世の偉人たちと一生を過ごし、前世と同じ運命を辿る。例えば。ジャンヌ・ダルクを前世としたあの子は聖女と同い年となったその日に焔に包まれ死んだ。ジル・ドレを前世としたあの子は前述の彼女の後を追うように狂気に陥り吊るされた。あまりに酷い。子どもが死ぬ度に所長は顔をしかめる。しかし、当の本人たちにとってはそれは当たり前で逃れようのない、それでいて輝ける栄光の運命なのだ。
17年前、研究所で一人の男の子が生まれた。彼の母親は幼い子どもが辿るその運命を嘆いた。
「可愛い子、あなたの前世は素晴らしい詩人。だけど彼の人生は悲しいものよ。暗闇のなかで一生を終え、今や存在すら信じられない。そんな悲しい運命、あなたに辿らせたくはない。」
そう言って離乳までの短い期間、その子に世界を教えた。来世である子どもたちに多くを教えすぎることは前世の記憶と今の記憶の混同に繋がる。時に、処罰を与えられることさえある。それでも母親は、教えたかった。赤子はそれを理解できたか?……ああ、できたのだ。彼は今も、母が語った世界を覚えている。夢を見て、こっそりと、手を伸ばしている。いつかこの白い天井ではなく青い空の下で目覚める日へと。
追記。子どもたちが辿る運命について。逃れようのない、と書いたが、逃れる方法もある。それは『前世である偉人に認められること』。そう簡単なことでもないが、それでも、可能性はある。
ぐだぐだだけどこの調子でやって行きます!