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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第四章
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宣戦布告

 危うく焼身自殺騒ぎになるところではあったが、実際の被害は教室が水浸しになったことと、一生徒の絵が駄目になったことの二点。学校側からすれば大した被害ではないーー被害を受けた生徒が伊藤雪見でなければ。

 事件発覚から一時間後には学長が教頭を伴って白羽家の邸宅に訪れ、警備体制及びスプリンクラーの不具合を陳謝。原因調査結果と再発防止策を追って報告することを約束した。

「それで雪見の評価はどうなるのでしょうか」

 椿は冷静に訊ねた。

「文化祭とはいえ、課題を提出できなくなりました。しかし雪見に非があるとは思えません」

「も、もちろん、お嬢様の成績や内申に影響が及ばないよう配慮いたします。別の作品を提出するのも難しいでしょうから、今まで提出していただいた作品で代用を」

「何か適当な作品はありますか」

 雪見は少し考えてから「小作品であればいくつか提出できます」と答えた。椿は頷いた。

「では、そのように取り計らいなさい」

「承知いたしました」

 深々と頭を下げて学長と教頭は退室。自分が被害を受けたせいでとんだ大事になってしまった。雪見は小さくため息をついた。

「柚子さんは大丈夫ですか?」

「ショックで寝込んではいますが、二、三日もすれば落ち着くでしょう」

 椿は額に手を当てた。

「本人ならまだしも母親が倒れるなんて……まったく頼りない」

「一番警備面を心配してくださっていましたから」

 継母による争奪戦に備えていたのに、まさか展示期間前に襲撃されるとは柚子も想定外だっただろう。

「スプリンクラーの誤作動では致し方ありません」

「本気でそう思っているのですか」

 椿は手にしていた扇を閉じた。

「偶然、あなたが作品を搬入した日の夜に、偶然スプリンクラーが誤作動し、偶然あなたの作品だけ修復不可能なまでの被害を受けたと、本気で考えているのですか?」

 さすがは白羽家を取り仕切るだけあって椿は鋭い。

 雪見は首を横に振った。そんな偶然があるはずがない。学長や教頭の前でも黙っていたのは、事を荒立てたくないのもあるが、何より継母達が私刑に走るのを防ぐためだ。

 忘れもしない小学二年生時の授業参観。雪見が継母達のことを書いた作文を読み上げた翌日、雪見はクラスメイト達から散々からかわれた。「日替わり母親定食」だの「泥棒猫の子」だの色々言われてついには泣き出した。言われていることの意味の半分もわからなかったが、酷い言葉を投げつけられていることは幼い雪見にもわかったからだ。

 ところがその翌週からクラスメイト達の態度が一変し、よそよそしくなった。今まで雪見のことをチビだのトロいだの馬鹿にしていた子ですら、雪見を見るなり逃げ出すようになった。そして程なくしていじめっ子グループメンバー全員が一斉に転校、あるいは不登校になったことを雪見は知った。

 継母が何かしたのは明白だった。自分の行動一つにも責任が伴うことを、雪見は幼い頃に察した。

「犯人の目星は?」

「ついています。ですが決定的な証拠に欠けます」

 部室でないことが災いした。展示教室は防犯カメラを設置していない。

「証拠がなければ作ればよいこと」

 そら恐ろしいことをさらりと口にした。

「雪見、あなたも知っての通り、私は揉め事や争い事が嫌いです。ですから成政様が愛人を囲おうと、他の女性と子を成そうと黙っていました。全て、私にとって『外』のことですから」

 普段は穏やかな眼差しが凄みを帯びる。

「ですが私も人です。白羽成政の正妻としての誇りがあります。あなたの継母としての矜恃があります。私の娘がここ数ヶ月懸命に描いた作品を台無しにされて、大人しく引き下がるわけにはまいりません」

 目に煌くのは怒りであり闘争心だ。白羽家を取り仕切る者として、母としての誇りを守るための。

「あなた個人に対する恨みによるものだろうと関係ありません。白羽家の者に手を出したらどうなるのかを知らしめなければ」

 椿は有無を言わせない口調で命じた。

「遠慮は無用です。思い切りおやりなさい」

 雪見は息を飲んだ。思い切りやらなかった場合は言わずもがな。授業参観の作文の時と同様に、継母が乗り出すということだ。

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