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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第四章
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青天の霹靂

 管弦楽部への御礼参りを終えてすぐ、新学期が始まった。部長の彩子に絵が完成したことを伝えると、彼女は笑顔で「さすが伊藤さん」と褒めてくれた。すぐにでも持ってきてほしいと言われたが、そこそこ大きい絵なので保管場所に困ることから、直前まで自宅に置いておいた。無論、継母に見られないよう箱に入れて、だ。

 あっという間に文化祭一週間前を迎えた日、雪見は意気揚々と完成した絵を学校に持っていった。

 展示教室に運んだところで、有紗と彩子にだけ絵を見せた。二人とも目を丸くして、惚けたように口を開けた。千歳と似たような反応だった。

「すごいすごいとは思ってたけど……あんたって本当にすごいわ」

「ほんと、レベルが全然違う」

 レベルというのはよくわからないが、自分史上で一番の傑作であることは間違いない。

 約束通り一番目立つ位置に飾ってもらった絵は額の上から布を掛けた。しっかり教室も施錠して帰宅。無事に絵を納品したことを夕食の席で報告すると、真弓達は一様に喜んでくれた。

「文化祭、楽シミ」

「ガラスケースは明日届くぞ」

 柚子の声は特に弾んでいた。

「今回のはすごいぞ。火災や水害は無論、防弾処理も施した特殊加工のガラスだ」

「普通の額で十分だと思いますが……」

 まずもって銃撃されるほどの価値がない。ただの素人の油絵である。

「何を言うんだ。雪見の絵だぞ。警備には万全を期さなければ」

 雪見の絵は必ずと言っていいほど盗難の憂き目に遭う。犯人は継母七人の内の誰か。さすがに展示期間中に盗みはしないが、終わった瞬間に争奪戦と化す。柚子の懸念も理解できなくもない。

「部誌も発行するんですよ」

 製本する代わりに掲載画は全てモノクロなので、雪見はスケッチからいくつか気に入った絵を選んで提出した。夏休み中に通い詰めただけあって、ヴァイオリニストだけでなくチェリストやマリンバ奏者など貴重な演奏姿を描くことができたのだ。

「百冊買おう」

「そんなに買わなくていいです」

「二百冊」

 菫までもが張り合って妙なことを言う。部誌を買い占めかねない継母達に一人三冊までだと伝えておこうと雪見は思った。

 夕食が終わって後片付けをしている最中、雪見のスマホが着信を告げた。継母か有紗かと思いきや画面には「部長」と表示されていた。

「はい、伊藤です」

『ごめん、今大丈夫?』

 彩子の焦った声に雪見は眉を潜めた。

「大丈夫ですけど、どうかなさいましたか?」

『大変なことが……あのスプリンクラーが故障して、私慌てて外したんだけど』

 要領を得ない。しかし雪見は胸に不安がふくらんでいくのを感じた。とても、嫌な予感がした。

『とにかく学校に来てくれない? 伊藤さんの絵が、大変なことになっているの』

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