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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第三章
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ハンバーグ

 タイミング悪く、口論した翌週は盆休みで一週間部活はない。アルバイト先である文具店に行けば会えるかもしれないが、盆休みに働いているとは考えづらかった。残るは交換した連絡先ーー直接連絡することなのだが、なんと言えばいいのか、決めかねる。

 たしかに千歳の言うことは正しい。雪見の家庭は普通のそれとは全然違う。継母も実の父も褒められる保護者ではないかもしれない。しかし、他人である千歳に非難される謂れはなかった。

 そもそも、白羽家の養子になることは雪見が自分で望んだことだった。文句を言えるはずもない。

(私が言葉足らずだったのかもしれない)

 千歳は雪見がやむなく養子になったのだと思い込んでいる可能性がある。だとすれば悪いのはちゃんと説明しなかった雪見だ。誤解は解かなければ。

 とは思うものの、必要時以外は連絡するなと厳命されている以上、安易にメッセージを送ることははばかられた。千歳はただ厚意でモデルをやってくれているだけなのだ。友達でもない。他校の先輩だ。

 リビングのソファーに雪見は倒れ込んだ。行儀の悪さを咎める継母はいない。誰一人としていなかった。

 盆休み中の三日間、白羽家本家邸宅で親族の集まりが催される。成政も出席するので継母は全員出払っているのだ。

 雪見はその間、一人で留守番だ。掃除や洗濯をし、椎名が作り置きしてくれたお惣菜を温めたり、自分で簡単な料理を作ったりして三日間を過ごす。夜更かしすれば監視カメラで継母にバレるし、あいにく盆休みで田舎に帰省している子が大半で、遊べる友達もいなかった。

 絵を完成させなければとは思うものの、とても筆を持つ気にはならない。絵は描き手の心情を如実にあらわす。今の精神状態では意地の悪い人相の千歳を描いてしまいそうだった。

 結局、雪見の盆休みの三日間は勉強と単発の一日アルバイトで終わった。

 三日目、継母達が帰宅する日は朝からスーパーに行って材料を買い込んだ。午前中にハンバーグとマフィンを作った。昨日観た料理番組で美味しいハンバーグの作り方が紹介されていた。どうせなら継母に喜んでほしい。

 マフィンは粗熱を取ってラッピングする。ハンバーグのタネは冷蔵庫で寝かしておく。夕食前に焼けば立派なおかずになるだろう。真弓達が喜ぶ姿が目に浮かんで、雪見は上機嫌だった。

 スマホが着信を告げたのは、台所の後片付けが終わった頃だった。

『これから帰るからねー』

 いつも以上に明るい桜の声。久しぶりに成政と会えたのが相当嬉しかったのだろう。継母にとっての一番はいつだって成政だ。

『六時には着くと思うから、一緒に夕飯は食べような』

 柚子の提案に雪見は「そうしましょう」と一二もなく賛成した。

「あのね、私、」

『そうそう、ミートローフを持って帰るわ。楽しみにしてね』

『都内の一流ホテルのシェフが作ったんですって』

『焼き菓子もあるわよ』

 椎名と真弓が口々に言う。雪見は冷蔵庫を振り向いた。ミートローフとハンバーグ。形状が違うだけであとはほとんど同じだ。さらには焼き菓子。ブッキングにも程がある。

『雪見?』

 怪訝そうな菫の声。

『何カアッタノカ』

「いえ、何も。楽しみにしています」

 雪見は努めて明るい口調で言った。

 通話が終了した途端、ため息が口をついて出る。なんという間の悪さ。冷凍保存という方法もあるがどうしたって味は落ちるし、椎名はすぐ見つけてしまうだろう。

 仕方なく雪見は昼食にハンバーグを焼いた。サラダも付けて、ついでにマフィンもデザートにした。

 ハンバーグをかじると肉汁が口の中に広がった。

「あ、美味しい」

 我ながらかなりいい出来だった。さすがは料理番組で紹介されるだけはある。しかし同意してくれる人は誰もいなかった。雪見は一人だった。

 雪見は手元のハンバーグに視線を落とした。マフィンもハンバーグも結構な量を作ってしまった。一人では消化しきれない。

 しばらく考えてから、雪見はハンバーグをタッパーに詰めた。ラッピングしたマフィンと一緒に紙袋に入れて、身支度を整える。

 東銀座なら有楽町線で一本だ。二十分もあれば着くだろう。

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