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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第三章
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一目惚れ

「普段はまと、じゃなくて、いい人達なのですが……時折、そう、たまに、羽目を外してしまうと言いますか、暴走してしまったり、突飛な行動を取ってしまうだけで」

「全部同じ意味な」

 千歳は終始背負っていたヴァイオリンケースを下ろした。雪見に断ってから机の上にケースを置いて、留め具を外して開く。ほのかに松脂の香りがした。

「オールドヴァイオリンですか」

「おめー知ってんの?」

「少しだけですが。真弓さんがヴァイオリニストなので」

 雪見の部屋を防音にしたのは真弓だ。雪見にヴァイオリンを教えるつもりで譜面台とスモールサイズのヴァイオリンまで準備していたのだが、他の継母達の反対にあったのと、雪見が音楽にまったく興味を示さず絵画にばかりかまけているのを見てあきらめたらしい。

「フリーデブルクの三十三番。あんま有名な職人じゃねェけど」

「でも格好いいですね。暗めのニスを使っているんですか? 木目と相まってなんとも……黒いヴァイオリンなんて初めて見ました」

「音もいいんだぜ。店で弾かせてもらって一発で決めた」

 お値段も相応だったらしい。高校入学祝いとして親にせびり、店主に値段交渉してようやく手に入れたと千歳は語る。

「交渉できるものなのですか?」

「楽器じゃあんまりやんねーな。でもまあ、向こうも値下げに応じてくれたし」

「いい店長さんですね」

 返答はなかった。千歳は考え込むように手元のヴァイオリンに視線を落とす。

「秋本さん?」

「……商売上手なだけだろ」

 千歳は鼻を鳴らした。

「最初から俺に売りつけるつもりだったんだよ。他に買い手がつかねーから」

「こんなに素敵なヴァイオリンなのに、ですか?」

「ヴァイオリンに百万や二百万掛けるのは相当な金持ちか音楽家か音楽家志望のどれかだ。いくらいいヴァイオリンでも、需要がなけりゃ店の飾りにしかなんねェよ」

 千歳は肩当てを素早く取り付けた。慣れているようで会話しながらだというのに手際がいい。肩に乗せて、空いた左手で音叉を鳴らした。まずはA線を調弦。あとは開放弦の和音ーー自分の耳だけを頼りに残り三本の音を合わせた。

 その間に雪見はいつもは絵を描く際の参考資料置き場にしている譜面台を組み立てた。もしかしたらこの譜面台を本来の用途で使うのはこれが初めてかもしれない。

「ーーで」

 開いた楽譜を譜面台に乗せて、千歳は振り向いた。

「とりあえず今日は演奏すりゃあいいんだよな?」

「あ、はい。スケッチさせていただきます」

 雪見は机の引き出しからスケッチブックを取り出した。絵のモデルが決まったところで、次は構図を考えなくてはならない。具体的にはモデルのポーズや視点、モチーフ。装飾品や背景ならまだしも、構図は一度描き出したら変更は難しい。だからいくつか候補のラフ画をあげて吟味する必要があった。

「秋本さんの魅力が一番引き出せる構図を見つけます」

 鉛筆を立てて意気込む雪見に、千歳は「あっそう」と気のない返事をした。

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