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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第三章
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内輪揉め

 継母七人に無礼さを非難され、女性に対する心得を切々と諭され、ついでに白羽家の華麗なる躍進(人はそれを『成り上がり』と言う)の歴史を語られて、ようやく解放されたのが小一時間後。なおも首を突っ込もうとする継母達をなんとか宥めて、雪見は千歳を連れて自室に逃げ込んだ。

「ちょっと、二人きりなんて聞いてないわよ!」

「密室で一体何をするつもり!?」

 一部納得していない継母が騒ぎ立てるが、扉を閉めてしまえば聞こえない。防音は完璧だったーーはずだった。しかし外からの執拗なノックは想定外だ。雪見は勢いよく扉を開けた。

「もう時間がないんですから、邪魔しないでください」

 扉の前にいた真弓と百合と椎名がそろって絶句した。

「じゃ、邪魔、ですって」

「仮にも母親に向かって、そんな暴言を吐くなんて」

「なんて、こと……」

 受けた衝撃は大きかったようだ。百合に至っては額に手を当てて、よろめいた。かと思いきやその場に崩れ落ちた。芝居がかった様相で唇を噛む。

「嗚呼……これはきっと夢ですわ。あの優しい雪見さんが、いくら真弓さん相手とはいえ……母親に向かって『邪魔』だなんて」

「なんで私だけが邪魔者呼ばわりされたことになってんのよ。あんたもでしょうが」

 真弓の指摘もなんのその、百合は「よよよ」とハンカチを目に当ててこれ見よがしに嘆いた。

「やはり、やはりわたくしが雪見さんと一緒に住むべきでしたわ……真弓さんのように性に奔放で殿方に見境のない方の側にいるから、雪見さんまでもが影響を」

「誰が男に見境がないってえっ!」

 百合に掴み掛かった真弓。椎名や桜が慌てて止めるのも聞かず、取っ組み合いの喧嘩に発展した。

「きゃあ! やめて、こ、殺さないでぇ!」

「いっそいっぺん死んでみたら! 少しは馬鹿も治るでしょうよ!」

「やめてください二人とも!」

 廊下で繰り広げる昼ドラばりの醜い争いに、雪見は何度目かもわからない戦慄を覚えた。引っ掻き、はたき、殴り、首を絞めとーー特に真弓の喧嘩は、何度見ても凄まじい。振り向けば、千歳がぽかんと口を開けたまま、継母同士の争いを見ていた。

 雪見は何か弁明しようと口を開いた。しかし、いい歳した大人の女性が、子どもでもしないような、容赦の欠片もない喧嘩を繰り広げるそれっぽい理由も、言い訳も、何一つ思い浮かばなかった。潔くあきらめて扉を閉めた。

「お恥ずかしいところをお見せしました」

「いや、なんか……すげェな」

 怒り心頭に発しているかと思いきや、意外にも千歳は平然としていた。動揺こそ多少しているが苛立っている様子はなかった。

「ホントに七人いんだな」

「……怒っていないのですか?」

「怒りを通りこして呆れた。つか感心したわ。こんな典型的な過干渉モンペ、いるんだな」

 継母を未知の珍獣呼ばわり。酷い言い草だが文句を言える立場ではなかった。最初に無礼を働いたのは継母達だ。挙句、継母同士で人目もはばからず取っ組み合いーー弁解の余地はない。

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