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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第三章
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継母の地雷

 仕事であるはずの真弓がいた時点で嫌な予感はしていた。しかし平日である。しかも千歳の来訪は急に決まったことだ。

 にもかかわらず、継母全員が勢揃いして雪見と千歳を出迎えた。有紗が遊びに来た時を彷彿させる対応。違うのはレッドカーペットがないことと、お茶菓子の用意もなく、菫以外の継母がリビングで面接官よろしく椅子に並んで座って待っていたことだ。どう好意的に解釈しても歓迎しているような雰囲気ではない。

「はじめまして。白羽家の当主、白羽成政の正妻の椿と申します」

 代表して椿が型通りの挨拶をする。その間も他の継母達は値踏みするような眼差しを千歳に注ぐ。

「やめてください。秋本さんに失礼です」

 見かねた雪見が抗議するが、真弓に「あなたは黙っていなさい」と跳ね除けられる。

「秋本千歳さんと言ったわね」

「俺の個人情報調べておいてよく言うぜ。白々しい」

「あんた、また首を突っ込んだの?」

 椎名が咎める。真弓は悪びれるどころか胸を張った。

「悠長なあなた達に代わって調査しておいたわ。感謝してね」

「どうせまた発信器つけたり盗聴したんでしょう」

「失礼ね。私はそんな破廉恥な真似はしないわよ!」

「おい、私の方を見て言うな。だいたいこの前だって、お前が雪見に仕掛けろと言うから」

「おやめなさい。お客様の前ですよ」

 椿の一言で柚子、椎名、真弓が一斉に口を噤む。

「おおよその経緯は菫と真弓から伺っております。雪見の絵のモデルになってくださるとか」

 椿は形の良い眉を僅かに寄せた。

「ご存知かと思いますが、雪見は白羽成政様の嫡子で白羽家の正統なる後継者です。未成年とはいえ相応の振る舞いが求められます。本人も十分自覚しており、わたくしの目から見ても問題はないと判断しております。しかし、こと異性に関してとなれば話は別です。雪見はまだ十五です。思いやりのある子ですが男女の機微に詳しいとは言えません。過保護のそしりを受けても保護者として厳しく監視し、必要とあらば干渉も辞さない所存です」

 ひとしきり椿のお言葉を聴いてから、千歳は訊ねた。

「つまり?」

「端的に申し上げますと、高校生らしい健全な交際をお願いいたします」

「健全な交際、ね」

 意味ありげな視線を椿の後ろに控える柚子達に投げかけた。千歳は鼻で笑った。

「この状況でそれ言う?」

「おっしゃりたいことはわかります。ごもっともです」

 正妻の椿以外に六人の愛人をはべらせているような家の者が言う台詞ではない。椿は額に手を当てた。

「だかこそ同じ轍を踏みたくないのです」

「あの、椿さん」

 及び腰になりながらも雪見は訂正した。

「そもそも秋本さんと私はあくまでも友人で」

「今はそうかもしれないけど、男女の仲はいつどうなるかわからないものなのよ」真弓がたしなめる「今のこの状況を見ればわかるでしょ。私だって大誤算よ」

「でも秋本さんは大丈夫です。私のことは鈍くて図太くて面倒で全然タイプじゃないって」

「バッーーおま、それ今言っ」

 血相を変えて千歳が振り向いたのと、椿の笑顔が凍りついたのはほぼ同時だった。椿だけではない。柚子も椎名も真弓も桜も菫も百合もーー要するに継母全員が一様に凍りついた。

「もう一度おっしゃっていただけますか」

 口調は丁寧。しかし声に凄みがある。浮かべる笑みは上品で美しい。しかし目が全く笑っていない。

 雪見は失言を悟った。とんでもない地雷を千歳に踏ませてしまった。戦慄に身をこわばらせる千歳に向かって、七人の継母達は異口同音に訊ねた。

『誰の娘が全然タイプじゃないって?』

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