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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第二章
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 自分で教えておきながら千歳は「来んな!」と厳命した。髪をかきあげてぼやく。

「あークソ、ホントなんなのおめー。調子狂うしめんどくせーしわけわかんねェ」

「す、すみません」

「謝るくらいならあきらめろ。大体さ、俺が何時間も他人のために割いてやるほどお人好しに見えるわけ? もっと脈がありそうな奴に頼むだろフツー」

 千歳の言うことには一理あった。自分が妥協すれば継母達が暴走することも千歳に迷惑を掛けることもなかっただろう。

「でも私が描きたいのは秋本さんですから」

 他人のバイト先に週二で通う非常識さも学校に乗り込む迷惑も雪見は理解していた。それでも躊躇いはなかった。

「一枚の油絵を完成させるにはどんなに早くても二ヶ月はかかります。日がな一日というわけではありませんが、かなり長い間同じキャンバスと被写体と向き合うことになります」

 妥協はできない。他ならいざ知らず、絵を描くことに関してだけは。

 美術に限らず音楽や書道などの芸術は、自分の思想や魂を表現するものと雪見は考えている。だから誤魔化せない。手は抜けない。だってそれはーー自分を偽るということだ。

「描きたくないものと二ヶ月向き合う時間は、私にはありません」

 千歳は胡乱な目でこちらを見た。値踏みするような眼差しだが不快感はわかなかった。見定めているように雪見には思えた。

「スッゲェ迷惑」

「すみません」

「てめーの都合を押し付けやがって。俺、これでも受験生なんだけど」

「極力ご迷惑をお掛けしないよう配慮します」

「もうすでに大迷惑掛けられてるわ。親子揃ってなんなんだよ」

 千歳は深々とため息をついた。やがて観念したように肩を竦め、スマホを差し出した。

「連絡先、教えろ」

「え、れんらく……?」

「そーだよ。さっさと出せ」

 雪見は慌ててポケットからスマホを取り出した。千歳に言われるがままトークアプリのアドレスを交換する。

「なんで画像が大福?」

「連想しやすいかと」

 せめて「美」を当ててくれれば意識せずに済んだものを。何故よりにもよって「雪見」にしたのだろう。亡くなった母の七不思議の一つだ。

「秋本さんは飛行ーー空港ですか? どこで」

 すか、と訊ねようとした言葉が途切れた。北海道だろう。写真だけで空港が判別できるほど詳しくはないが『千歳』とくればそこしかない。

「お互い苦労するな」

「…………はい」

 それ以上名前に触れることはやめた。とはいえ、めでたく連絡先交換。友だち一覧に登録された「秋本千歳」の文字に、雪見の心が踊った。

「私、男性の方と連絡先を交換したの初めてです」

「母親に教えんじゃねェぞ。やったら即ブロックすっからな」

 念押しする千歳に雪見は何度も頷いた。

「用がある時以外は連絡すんなよ? あと俺、返信あんましねェし、遅ェから」

「承知しました。ありがとうございます」

 スマホを両手でしっかりと握って、雪見は頭を下げた。

「では遅くとも文具店に伺う前日までには事前連絡を」

「ん。じゃあそゆことーーじゃねェだろーが! 来んなっつってんだろーが。なんで俺のバイト先に押し掛けんの前提になってんの? この流れでなんでそーなんの?」

「え、で、でも、課題が」

 千歳は「だーかーらァ!」と焦れたように声を荒げた。

「ホンット鈍い奴だな。モデル引き受けるっつってんだよ!」

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