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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第二章
33/72

クレーム

 雪見が了承する前に切り出した。

「最初からしておかしいんだよ。なんで継母が七人もいんだ。他所の家庭のことをとやかく言うのもどうかとは思うけど、明らかに変だろ。ただ、まあ、変なだけなら俺だって文句は言わねェよ? 関係ねーし。けどバイト帰りにエアガン突きつけられてガムテでぐるぐる巻きにされて拉致られたり、いつの間にか個人情報身ぐるみ剥がされてたり、学校出た途端に黒塗りのベンツに問答無用で押し込められて頭お花畑なババアのお茶会に付き合わされたら文句の一つや二つや三つぐらいは言ってもバチは当たらねェと思うんだが」

 一方的に捲し立てて、千歳は三白眼を眇めた。何が文句でもあるかと言わんばかりの眼差しに、雪見は顔を引きつらせた。

「あ、はい。ごもっとも……だと」

「ん」

 千歳は満足げに頷いた。

「で、次はおめーだ。俺の手が描きたいと。課題だかなんだか知らねェけど野郎の手を好き好んで描こうとする悪趣味さはさておいてだ、俺断ったよな? いや、時給の話とかして交渉の余地アリみたいな感じに一時期なったけど、でも俺断ったよな? 邪魔で迷惑だっつったよな? ストーカーとも言ったな。普通さ、そこまで言われたらあきらめるだろ。むしろ二度と関わろうとは思わねェんじゃねーの? なんで五秒も経たねェ内にモデルの話に戻んの? おめー鈍いの? 図太いの? 俺もセッティング一人でしろとか無茶振りして大人げねェとは思うけど、モデルやる気はさらさらねーってことぐらいわかんだろ。エイジョのくせに空気読まねェのな」

 栄光女子学院に通っていることと察知能力の如何は関係ないはずだが、それを指摘できるような雰囲気ではないことぐらい雪見でもわかった。結果として口を閉ざしたまま固まった雪見に、千歳は半眼になった。

「で、なんでぱったり来なくなったんだ。新しいモデルでも見つかったんか」

「まさか。そもそも秋本さんをあきらめていません」

「そう、まだあきらめてねェわけだ。性懲りもなく」

 千歳はため息を吐いた。

「だったらなんで急に来なくなった」

「テスト期間に入ったので……お邪魔でしょうし、私も勉強しようかと」

「あっそう、少しは俺のことも考えてくれたわけだあんがとねェ。ついでに売り言葉に買い言葉とはいえ『二度と来んな』っつった翌日からぱったりおめーが来なくなった場合、俺がどー思うかも考えてくれたら完璧だったんだけどなー」

「秋本さんが?」

「気になんに決まってんだろーが!」

 突然の大喝に雪見の肩が跳ねた。

「おめーは知ってるかもしんねェけど、俺はおめーの都合なんて全然知らねェんだよ。部活にまで押しかけてきた奴が、最低でも週二で顔を出してたバイト先にすら急に来なくなったら不安になってくるだろ! 綾瀬はウッセーしウゼェし、細かく詮索してくるし、どーいうことなのか俺が知りてェくらいだっつーのに、すっげえだんだん俺が悪ィみたいな感じになるし」

「ご心配を掛けてしまったのですね、すみま」

「いや心配じゃねェから! 断じてそーいう仲のイイ感じのもんじゃねェから、そこ間違えんな。ただ気になるっつーだけだから」

 雪見は内心首をかしげた。誰かの様子が気になって不安になったりすることを『心配』と言うのではないだろうか。

「とにかくだ。おめーは相変わらず手フェチで先々週の一件でも全く懲りてねェ。試験も終わったから平常運転に戻るって認識でいいんだよな?」

 気圧された雪見が頷くと、千歳は「よし」と呟いた。

「あ、でも来週は文化祭の準備があるので文具店に伺えるのは一度だけかと」

「いつ」

「たしか木曜……少々お待ちください」

 雪見は鞄から手帳を取り出した。

「失礼しました。いつもの水曜が難しいので、金曜日に伺おうかと」

「あーその日、俺補講だからシフト入ってねェ。土曜日の午後、部活の後なら普通にいるけど」

「そうですか。私も午前中は用事があるのでちょうどよかったです」

 雪見は土曜日に赤ペンで「PM文具店」と書き記した。

「では来週の土曜日に」

「ハイハイよろしくーーってなんでおめーがストーキングしやすいように俺が協力してやってンだよ!」

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