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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第二章
32/72

再び対決

 学年総合順位三位。

 惜しくも五点差でトップにはなれなかったものの、期末試験の結果は我ながら及第点だった。

 雪見は学校帰りに本家邸宅に訪れて報告した。白羽家のお偉い方々は一位でないことがご不満なようで渋面を作ったが、正妻の椿は「さすがは成政様の子」と褒めてくれた。そしてこっそりお小遣いをくれた。

 雪見は満足してマンションに戻った。十位以内に入れなかった場合、部活は辞めてその分の時間に家庭教師を雇う約束になっている。とりあえずは秋の中間試験までは創作文芸部にいられることが確定した。文化祭に参加できる。それが嬉しかった。

 結果は褒められても努力は認められないことを、雪見は幼い頃から理解していた。

 優秀な人間でなければ、白羽成政の後継者として認められない。

 しかし、たとえ今後も雪見がこの成績を維持したとしても、自分以上に優秀かつ成政達に認められた者が現れたら、雪見は後継者から外されてしまう。成政と継母達の間に子どもができた場合も然りだ。

 いくら努力したと訴えても無意味。成果がなければ塵と同じだ。

 もっとも相応しい者を後継者に、と掲げて徹底している以上、結果主義なのは仕方のないことーー雪見が生まれた白羽家は、そういう家だった。


 マンション前で車を降りて運転手に頭を下げる。お互い慣れたもので「次は十月ですね」と挨拶された。雪見は苦笑した。年始の挨拶か成績を報告する時しか本邸に行かない。正確には呼ばれない。運転手の言うことはもっともだった。

 お気に入りの歌を口ずさみつつ階段をのぼる。エントランスにさしかかったところで、雪見は立ち止まった。

「秋本さん?」

 先々週以来だが、見間違えるはずもない。秋本千歳が壁に背中を預けて立っていた。来客用の椅子にヴァイオリンケースと鞄を置いて、つまらなさそうに英語の単語帳をめくっている。

 千歳は雪見の姿を認めると単語帳を鞄に押し込んだ。黎陵高校の制服姿なので、学校帰りなのだろう。雪見は血の気がひいていくのを感じた。千歳がわざわざ雪見の家にやってくるとは考えられない。継母が誘拐でもしない限りは。

 雪見は慌てて自動ドアをくぐった。

「あの、まさか、母がまた何か」

 質問には答えず、千歳は万年筆を突きつけるように差し出した。黒く艶やかな漆の光沢が綺麗な万年筆だった。

「念のため訊くけど、おめーの?」

「いえ、素敵な万年筆ですけど、私のでは……」

「あっそ」

 千歳はさっさと万年筆を鞄にしまい「綾瀬の奴」と小さくぼやいた。

「もしかして忘れ物をわざわざ届けに来てくださったのですか?」

「綾瀬と響がウッセーから来ただけだ」

 千歳は舌打ちした。すこぶる機嫌が悪いご様子。早くも雪見は腰が引けてきた。もともと異性と関わる機会が少ないのもあるが、千歳のようなタイプは初めてだった。

「あの、経緯はどうであれ……私に会いに来てくださった、ということで?」

「それ以外何があんだよ」

 千歳は吐き捨てるように言った。苛立たしげに頭をかいて「あー」だの「ホントめんどくせー」だのぶつぶつ言ったかと思えば、突然、雪見の方を見据えた。

「母親もそーだけど、まずはおめーだ。山ほど言いてェことがあんだよ」

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