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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第二章
30/72

はた迷惑なお茶会

 クラシックな内装のホテルのラウンジで、千歳は接待を受けていた。

 目の前に広げられたには三段のサンドイッチ&ケーキのスタンド。見るからに高級とわかるティーセット。そして先ほどから甲斐甲斐しく給仕するバトラーと思しき上品な男性。絵に描いたような金持ちのアフターヌーンティだった。

「さあ、ご遠慮なくどうぞ」

 向かいの席に座る女性が上機嫌ですすめる。歳はおそらく三十代。自信が持てないのは、歳の割には着ている服が少女趣味なのと、こちらに向ける笑顔がどこか幼いからだ。

「紅茶はお嫌い?」

「知らねェ奴から物貰うなって言われてるもんで」

 言外に名乗れと告げると、女性はきょとんとした。何故警戒されているのかわからないようだ。

(いやおかしいだろーが)

 校門を出るなり、千歳の前に黒塗りの車が立ち塞がり、問答無用で押し込まれてこのホテルまで連れて来られたのだ。警戒するなと言う方が無茶だ。

「百合と申します。白羽成政の伴侶ですの」

 つまりは雪見の七人の継母の内の一人。これまた見るからに一癖も二癖もありそうなのが出てきた。千歳はため息をついた。しかし、渡りに船だ。

「雪見……さん、は学校ですか?」

「どうでしょう」

 百合は小首を傾げた。把握していない。興味もないように見えた。

 千歳は眉をひそめた。百合の態度に違和感を覚えたからだ。

 真弓や菫同様、この継母もまた他人の迷惑や都合など一切頓着しないで我が道突き進む迷惑なモンスターマザーだと思ったが、どうも様子がおかしい。真弓や菫は、結果的に本人の益になったかはさておき、あくまでも雪見のために突飛な行動を起こしていた。

 比べてこの百合という継母はどうだろう。千歳を問答無用で拉致したのは前述の継母達と同じーーしかし、百合からは雪見を気遣う気配が感じられない。ともすれば雪見なぞどうでもよいと思っているようにさえ見える。

「で、オバサンは俺に何の用?」

「おば……っ」

 一瞬、ほんの一瞬だが、百合のこめかみがぴくりと動いたのを千歳は見た。取り繕うように百合は鈴のように軽やかな笑い声をあげた。

「まあ嫌だわ、そんな他人行儀な呼び方」

 他人なのだから当然だ。指摘するのも面倒になった千歳が「じゃあなんて呼べば?」と訊ねると、百合は匂い立つような笑みを浮かべた。

「『百合さん』で結構ですわ。千歳さん」

 千歳は申し訳程度に口をつけようとしたカップを落としそうになった。

「ハァ?」

 千歳はまじまじと百合の顔を見た。百合は微笑みを返した。自分がいかに常軌を逸した発言をしたのかわかっていないようだった。

 初対面で歳もひと回り近く違う相手を下の名前呼び。おまけにそれを千歳にも求めている。自分の歳と立場をわきまえていない。

 真弓や菫とはまた違った脅威を千歳は感じた。もしかするとこの継母が一番ヤバイのかもしれない。

「あの、それで用は?」

 千歳は先を促した。用件だけ聞いてさっさと離れようと決める。雪見に取り次いでもらう当初の算段は捨てた。なんだかよくわからないが目の前の女からは危険なにおいしかしない。非常識だが動機や思考が理解できる真弓の方がよほど安心できる。

 百合は斜め後ろに控えていたバトラーに視線を流した。心得たとばかりに恭しく一礼した男は、懐から茶封筒を取り出して千歳の前に置いた。なかなか厚みのある長封筒。三流ドラマでよく見たことのあるシチュエーションだった。

「些少ですがお納めください」

「いや、どーいうこと?」

 千歳は封筒と百合の顔を交互に見た。セオリーならば札束が入っているのだろうが、手をつける気にはならなかった。

「お近づきの印にと思いまして」

「今度は俺に何してほしいわけ?」

 まだるっこしいのは嫌いだ。剣呑さを帯びつつも単刀直入に訊ねると、百合は口元に手を当てた。

「まあそんな怖い顔をなさらないでください。わたくしはただ、あなたと仲良くさせていただきたいだけですの」

「俺、ここであんたとのんびり茶をしばく時間も趣味もないんだわ。あと三分用件を聞くだけの間なら座っててもいいけど?」

「せっかちな方ねえ」

 百合はティーカップを指で軽く弾いた。

「聞いておりますわ。あなた、雪見さんにモデルになるよう迫られているそうですね」

 正確には『迫られていた』だ。先週のステージ練習の一件を境目にぱったりとストーカー行為はなくなり、後味の悪さを覚えている真っ最中。

「金払うから引き受けろって?」

 いかにも金持ちらしい発想だ。モンスターマザー極まれり。しかし百合は首を横に振った。

「断っていただきたいの。できるだけ手酷く」

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