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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第二章
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形勢逆々転

「コロンブスの卵」という言葉がある。

 かの新大陸を発見したクリストファー=コロンブスが自分を侮る周囲の人間に「卵を立ててみたまえ」と難題を課し、ギブアップさせたところで模範解答もとい実演した。コロンブスは卵の尻部分を潰して立ててみせたのだ。

 つまり、正解がわかってしまえば実に単純で簡単なこと。

 今回の雪見の勝利方法もまた、タネがわかってしまえばすごくもなんともない、単純で簡単なことだった。


 つつがなくステージ練習は終了。いざ撤収する時になって、それまで様子を見ていただけの雪見が「すみませんが、お片付けにご協力ください」と声を張った。

「お使いになったイスはこちらにお願いします」

 ステージ部分からスライドさせて出したのは、体育館用パイプイスの収納庫。それで千歳は理解した。手品かと思われた雪見の鮮やかな手並には、当然ながらタネがあった。

 またしても戸惑う一同だったが、これまた響が率先してパイプイスを運び出したので、つられるように部員達も後に続く。手が空いている部員に譜面台を運ばせれば撤収完了。二往復を想定していた当初に比べて、かなりの時間と手間が短縮された。

「体育館のイスを使ったんか」

「はい。どの学校も保管場所は大体同じなんですね」

 雪見はあっさり認めた。

 各部でイスを用意しなくてはならないのは、当日は観客席として体育館用イスを使うからだ。しかし、練習に関していえばその限りではない。練習の際に観客席などわざわざ用意しないのだから。

(先入観がないから……か)

 素直な発想ができるのは。

 考えてみれば、現地にあるものを使うのが一番手っ取り早い。至極単純な理屈だった。

「それで吹奏楽部の方に手伝っていただいて」

「ちょっと待て」

 聞き捨てならなかった。

「吹部の連中が『手伝った』のか?」

「はい。皆さんとても親切でした」

「一人でやったんじゃなくて?」

「あ」

 雪見は口を開いたまま固まった。約束を思い出したらしい。雪見一人で設営する。誰の手も借りない。千歳の意図としては白羽家や継母に頼らないように釘を刺したつもりだった。しかし、理由はどうであれ約束は約束だ。

「ルール違反。おめーの反則負け」

「ええ! そんなあ……」

 雪見は情けない声を出した。心情は理解できなくもない。ほんの少し厚意に甘えただけで、勝負をふいにしたのだから。おそらく、吹奏楽部が手を貸さなかったとしても雪見は時間内に設営を終えただろう。

 案の定、雪見は未練がましく千歳を見て、恐る恐る切り出した。

「あの、努力賞……とか」

「ねェよ」

「もう一度、チャンスを」

「これっきりっつっただろ」

 すげなく突っぱねる千歳に、雪見は肩を落とすーーかと思いきや、何やら名案が浮かんだらしく手を叩いた。

「あ、では、間を取って片手だけ描かせていただくというのは、いかがでしょうか」

「いいわけねェだろバァカ! 間も何もねェよ。おめーは負けたの。潔く帰れ!」

 雪見は今度こそ肩を落とした。つまりはようやくあきらめた。

「わかりました。今日のところは帰ります」

「いや、明日も来んな。二度と来んな」

 念を押したが返事はなかった。呆れた図太さだ。雪見は体育館の端に置いていた学校指定鞄と絵の道具一式を背負うと「お騒がせして申し訳ありません」と頭を下げた。殊勝な態度に少しーーほんの少しだけ、千歳の胸に罪悪感がよぎった。が、結局は黙って雪見が帰るのを見送った。

 音楽室に戻ろうとしたところで、玲一に遭遇する。一部始終を見ていたのだろう。玲一は呆れを隠そうともしなかった。

「潔くないのはどっちなんだか」

「ほっとけ」

 千歳は言い捨てた。あのオジョウサマのしつこさは自分が一番わかっている。継母のお墨付きだ。どうせ明日か明後日には性懲りもなくやってくるに決まっている。

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