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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第二章
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オジョウサマの意地

 はてさてオジョウサマは何をしているだろうか。

 音楽室に雪見がいないことを確認した千歳は、体育館に足を運んだ。よもや泣き出したりはしないだろうが、途方には暮れているだろう。

 千歳とてステージ練習が滞るのは本意ではない。他の部に迷惑でもある。さっさと雪見に負けを認めさせて、くだらない勝負を終わらせるつもりだった。心配事はただ一つ、それでもオジョウサマが駄々を捏ねた場合、自分が果たしてキレずにいられるかということだ。

(まあ……意外に図太いから大丈夫だろ)

 あれこれ考えていると体育館入り口で雪見を見つけた。管弦楽部の譜面台をせっせと運び入れている。少しでも設営時間を短縮させるためにステージ近くに置いておくつもりなのだろう。焼け石に水だが。

 千歳の姿を認めると、雪見は顔を輝かせた。

「心配して見に来てくださったんですか?」

「練習すんのは俺らだかんな」

 あくまでもオーケストラがちゃんとステージ練習ができるかの心配であって、決して雪見を心配をしているわけではない。千歳はそう言ったつもりなのだが、伝わっていなかった。雪見は嬉しそうに「お気遣いはありがたいのですが、ご心配には及びません」と答えた。

 解せぬ。千歳は細い眉を寄せた。

 突飛なオジョウサマだとは思っていたが、これは想定外過ぎる。何故笑顔なのだ。何故困る素振り一つ見せないのだ。

「ステージ練習ができねェと俺らが困るんだって」

 もしかしたら、このオジョウサマは状況の把握もできていないのかもしれない。あるいは童話よろしく妖精が助けてくれるとでも考えているか。

 いずれにせよ現実は変わらない。不可能なのだ。一人で十分以内に七十人分の椅子と譜面台を運んでセッティングするなんて。

「大丈夫ですよ」

「無理だろ。どう考えても」

 本音を漏らした千歳に、雪見は自信たっぷりに断言した。

「定刻には皆さんが練習できるよう設営を終えます」

「いや、だから、」

「わかっています」

 落ち着いた、芯のある声だった。千歳は雪見の顔をまじまじと見た。

「秋本さんはご自分にも他人にも厳しい方のようですから、簡単に勝たせてはいただけないことは、重々承知しております」

 苦労知らずのオジョウサマ。千歳に怒鳴られては萎縮していた、気の弱い他校の後輩。固定されかけていたイメージが覆される。雪見ははっきりと宣戦布告した。

「ですが、私とて絵描きとしての意地があります。受けて立った以上、全力で勝ちにまいります」

 雪見の笑みに、千歳は先日会った真弓の面影を見いだした。おかしなことだった。真弓は継母。他の六人と同様に、雪見とは全く血のつながりはないと聞いている。

 しかし今、千歳は雪見にある種の凄みを覚えた。力ずくな、単純な強さとは違う。しなやかで、それでいて芯のある強さだ。何ものにも立ち向かおうとする意志が、雪見にはあった。

 そうこうしている間に吹奏楽部の演目が終了した。撤収作業を始めたのを見て、雪見は壁際に寄せていた譜面台を持ち上げた。両手合わせて四つ。結構な重さのはずだが、よろめく様子はない。

「では準備をしてまいりますね」

 呆気に取られた千歳に軽く頭を下げて、雪見は設営を始めた。

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