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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第二章
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勝利は確実

 玲一は同意しなかったが、反論もしなかった。それが玲一なりの返答だった。が、正論だけではーー努力しない連中を片っ端からいびっているだけではオーケストラは成り立たない。だから玲一のような、なだめ役が必要なのだ。

「そんなことより、例の見学者は放っておいていいんですか?」

 あえて頭の隅に追いやっていたことを引っ張り出されて、千歳は玲一を睨んだ。

「放っておいたんじゃねェ。勝負してンだよ」

「何でもいいですけど、他校の後輩に意地悪するのも大概にしてくださいよ。あんた、ただでさえ怯えられているんですから」

「上等だ。ナメられるよか断然マシだね」

 玲一に自分のヴァイオリンとファーストヴァイオリンの指導を押し付けて、千歳は音楽室に向かった。

 別段、意地の悪いことを言った覚えはない。一向に折れない雪見にあることを条件にモデルを引き受けると約束しただけだ。

 内容は至ってシンプル。パート練習時間に充てている一時間以内に体育館のセッティングを完了させることだ。具体的には約七十名分のパイプイスと譜面台をステージ前の定位置に並べる。オーケストラの編成表は渡してあるのでそう複雑な作業ではない。量こそ多いが一時間も猶予があれば十分こなせるーーと、雪見は思っただろう。

 管弦楽部の部室である第二音楽室には、チェロとコントラバスがそれぞれパート練習をしていた。譜面台は四脚を残して、他は全て体育館に運ばれている。

(甘ェよ)

 千歳はほくそ笑んだ。負けると決まっている勝負はしない主義だ。今回も然り。

 パート練習はたしかに一時間だが、体育館では他の部が順番にステージを使っている。管弦楽部の前は吹奏楽部がステージ前で楽団を展開して予行練習。その後演劇部がステージ上を使っている間に吹奏楽部が撤収。入れ違いに管弦楽部がセッティングして演劇部のリハーサル終了を待って練習、という手はずになっているのだ。

 つまり、実際のところセッティングに使える時間はせいぜい十分程度。その間に音楽室にある譜面台とパイプイスを運んで全て並べるのは不可能だ。

(まあ、吹部のイスをそのまま使えばできなくもねェだろうけど)

 しかし吹奏楽部も自分の部のパイプイスを体育館に持ち込んで練習している。終わったら即座に撤収して部で使いたいだろう。管弦楽部に貸す余裕はない。

 事前に管弦楽部のパイプイスを体育館前まで運ぶという手もあるが、一部はパート練習中のチェロや管楽器部隊が使っている。

 あとは何だろう。継母に泣きつくくらいか。白羽グループの力で一時間で人手を集められるかは見ものではある。お手並拝見。やれるものならやってみるといい。しかし、千歳は条件に「お前一人で」と抜かりなく付け足しておいた。それを雪見も承諾した以上、白羽家の力を借りたらルール違反だ。

(苦労知らずのオジョウサマにはいい薬だ)

 いつでも自分の希望が通ると思ったら大間違い。金や権力だけではどうにもならないことを学ぶといい。

 つまるところ、千歳には雪見に負ける気も、モデルなんぞになる気もさらさらなかったのである。

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