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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第二章
20/72

絵に描いたようなヒロイン

 覚えのない番号から着信があったのは、ザイバツのオジョウサマと会った翌日のことだった。部活と個人練習をこなして帰宅。夕食も終えて風呂から出た途端、タイミングをはかったかのようにスマホが鳴り出した。

 千歳は電話が嫌いだ。自分のペースを乱すから。メールも正直めんどくさい。にもかかわらず出たのは、相手がどういう輩だから予想がついたからだ。

『断ったそうね』

 今さら驚かなかった。自宅住所および家族構成から所属している部活まで調べ上げられたのだ。電話番号くらいお手の物だろう。それよりも千歳には言わなければならないことがある。

「何が『片想い』だ。ただの学校の課題じゃねーか」

『部活よ。文化祭の』

「どーでもいい。完全にあんたの勘違いだったってことだ」

『その点に関しては弁解の余地もないわね。我ながら不覚だったわ』

 真弓は素直に非を認めた。意外にまとも、というべきか内省するだけの良識は持ち合わせているらしい。

『まさか「美しい人」がテーマで雪見が私を選ばないなんて。あの子の美意識を矯正しなきゃ』

 前言撤回。ただの自意識過剰のモンスターマザーだ。

「で、娘に泣きつかれて、まーた母親がしゃしゃり出てきたってワケ?」

『まさか。泣きつくどころか怒って口も利いてくれないわ。ふふふ、どうしましょう』

「知るか。子離れしろよ」

 少なくとも子どもーー雪見は自立したいと考えているようだ。その点はほんの少し好感が持てた。が、所詮は恵まれたお嬢様のお気楽な発想でしかない。

 いざとなれば助けてくれる人がいる。それを知っているから、頼れる保護者がいるから、伊藤雪見はのびのびと自由にふるまうことができるのだ。

「用件はなんだ」

『あきらめなさい』

 唐突で端的な一言。目的語すらない。

『あなたが何を思ってモデルの件を断ったのかは知らないし、興味もないわ。でもあきらめて引き受けた方が身のためよ』

「今度は脅迫かよ」

『いいえ、これは忠告よ。あなたは雪見のことを何もわかっていない』

 それこそ『知らないし、興味もない』ことだ。

『せっかく私が穏便に事を済ませようとしたのに』

「拉致拘束監禁が穏便ってのは初耳だな」

『穏便よ。無関係な周囲を巻き込んでいないもの』

 見解にかなり相違があるようだ。千歳は相互理解をあきらめた。

『雪見を侮ると痛い目見るわよ』

 千歳は失笑した。親馬鹿もここまでくれば大したものだ。

 一般的にエリートと呼ばれる学生には三種類ある。強欲でワガママで自分の優位性を鼻に掛けた、下品な成金タイプ。周囲から嫌われ、軽蔑されるのがこの人種だ。

 二つ目は本人のがむしゃらな研鑽の末に何かを手にした努力家タイプ。尊敬されこそしても軽蔑されることはまずない。ただ、えてして努力家タイプは張り詰めた空気をまとっているので敬遠されがちだ。普段は穏やかにしていても時折、カリカリとした一面を覗かせる。当然だ。常に努力しなければ、競い、勝ち続けなければ今の地位を死守することができないことを彼らは知っている。

 最後は生れながらのエリート。何世代も続く裕福な家に生まれた連中は、おっとりと育てられ、ガツガツしたところがまるでない。本人が望む前に必要なものは全て用意される。努力は必ず報われ、戦うことなく勝利する。それがいかに恵まれていることなのかに気づきもしないーー千歳がもっとも嫌う人種だった。

 それを体現したのが伊藤雪見だ。

 話を聞いた時点で気に食わなかった。ただ白羽成政の娘に生まれたというだけで成功が約束された奴。過保護な継母七人に蝶よ花よと育てられたお嬢様。実際に本人を前にして余計に嫌悪感は増した。

 わずかなやりとりで千歳は把握した。雪見はおっとりとしていて、他人と接していても苛立たない、焦りもしない。怒ったことなどほとんどないのだろう。戦わずして勝利したヒロインそのものだった。

「上等だ。やれるもんならやってみろ」

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