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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第一章
2/72

雪見と継母

 伊藤雪見いとうゆきみには継母がいる。

 実母の伊藤紅葉は雪見を生んで間もなく亡くなった。もともと身体が弱かったらしい。一緒に映った写真もなければ、記憶もない。だから雪見にとって母といえば、継母だった。

 継母との思い出はたくさん、本当にたくさんある。

 幼稚園で作ったスイカの団扇は家に帰るなり継母に取り上げられた。小学校の絵画工作で描いた風景画は、継母にビリビリに破かれた。国語で書いた作文もたいがい同じ道をたどった。絵画コンクールで入賞した際にもらった賞状と記念品も行方不明になったままだ。唯一無事だったのは、拾ってきた野良猫ぐらいか(しかしそいつも継母のせいでメタボ気味である)

 読書感想文を書けば奪われ、日記を書けば盗み見された挙句紛失された。観察用のプチトマトは家に持ち帰った一週間後にどういうわけか腐ってしまった。ゴーヤもヒマワリもアサガオも同じような末路だった。全部継母の仕業だ。おかげで毎年の夏休みの宿題は散々だった。

 中でも一番の思い出は、小学二年生の時の授業参観だ。『わたしの家族』をテーマに書いた作文を読み上げる。実母を失くしたことを知っている担任は、雪見に他のテーマで書いていいと言ってくれた。しかし継母以上に強烈な存在を知らない雪見は、素直にそのことを書いて、同級生達とその保護者達の前で胸を張って披露した。

「わたしには八人のお母さんがいます」

 背中に継母達の視線を感じながら、雪見はよどみなく読み上げた。

「もみじお母さんはわたしを生んですぐに死んでしまいました。でも、ほかの七人のお母さんはいつも元気です。先しゅう、五ばん目のお母さんのさくらさんと学校からかえってきたら、四ばん目のお母さんのまゆみさんが、わたしにケーキを買ってくれました。でもわたしが虫ばになったら大へんだから二ばん目のお母さんのゆずさんがとりあげたら、まゆみさんがおこってけんかになりました。ケーキはぐちゃぐちゃになったので六ばんめのお母さんのすみれさんがすてました。かなしくて泣いていたら、一ばん目のお母さんのつばきさんが、あととりはたべものなんかにシューチャクしてはいけません、と言いました。よくわかりませんでした。三ばん目のお母さんのしいなさんがお夕はんのあとにないしょでクッキーをやいてくれました。おいしかったです」

「ちょっと」

 保護者の中でも一際若くて美人の真弓が、隣に立つ三番目の継母ーー椎奈を睨みつけた。

「あんたなに一人だけいいとこ取りしてんのよ」

「最初に甘やかしたのは真弓だろ? 誕生日でもないのに小学二年生の子にゴディバのホールケーキを買う奴があるか」

 ため息混じりにたしなめたのは、二番目の継母である柚子だった。

「旦那様の子にこれ以上、安物の味なんて覚えてほしくないの」

「あら、それは私に喧嘩を売っていると思っていいのかしら?」

 普段、白羽家の料理含む家事全般を担っている椎奈が、真弓に剣呑な眼差しを向ける。が、そこで言葉を濁したり、ましてや引き下がったりする真弓ではない。

「どう捉えるかはあなたの自由よ。でもいい加減、手作り至上主義からは卒業したら? 素人の手料理よりも美味しくて栄養のある料理はたくさんあるんだから。自己満足に付き合わされる雪見がかわいそう」

「よく言うわ。先月、雪見が焼いたホットケーキ一人で全部食べた癖に!」

「だって雪見のは美味しかったんだもの」

「よくもそんないけしゃあしゃあと……っ!」

「椎奈さん、さすがにここでは」

 掴みかかろうとした椎奈を、五番目の継母である桜が引き留める。これで収まるーーくらいなら、今まで争いの火種になった雪見の工作物も作文も、見るも無惨な姿にはならなかっただろう。雪見に関するものなら何でも奪い合うのだ。プチトマトにしてもそうだ。継母達がこぞって肥料や水を大量に投入したせいで根が腐ってダメになった。

 案の定、椎奈の怒りの矛先は、継母達の中で一番若い桜に向けられる。

「うるさいわね、この泥棒猫」

「だ、誰が泥棒猫ですって!?」

「あんた以外に誰がいるっていうの。旦那様の次は雪見を懐柔しようたって、そうはいかないわよ!」

 あ、もうダメだ。

 幼いなりに雪見は継母達のことをよく理解していた。彼女達はほんの少しでも他の継母よりも雪見に好かれたがっている。だからこうして事あるごとに張り合い、最終的には喧嘩になるのだ。

 呆然とする担任や同級生、保護者達をよそに、雪見の継母達は昼ドラばりの醜い女の戦いを繰り広げた。

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