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白雪姫と七人の継母  作者: 東方博
第一章
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親心では誤魔化せない

 かろうじて取り繕っていた笑顔は、エレベーターの扉が閉まると同時に跡形もなく消えた。

 継母三人の非難の眼差しを一身に受けた百合は、憮然とした表情を浮かべた。

「どういうおつもりなのかしら」

「それはこっちの台詞よ、この馬鹿女。雪見の放課後を邪魔して、一体どういうつもり⁉︎」

 噛み付いた真弓に、百合は目をすがめた。

「わたくしはただ、雪見さんの後をつけて詮索している不審者がいたので、教えて差し上げただけですわ」

「ふ、不審者……っ⁉︎」

「知りたいことがおありなら本人に直接訊くべきでは? わたくしだったらそうしますわ」

 思いもかけない正論に真弓が詰まった。珍しい光景だった。

「そういうお前はどうしてこの店に?」

「雪見さんが学校で国語教師に侮辱されたと伺いまして」

 よくぞ聞いたと言わんばかりに百合は胸を張った。

「にもかかわらず、真弓さんが学校に乗り込む気配もなく、菫さんがその教師を抹殺する様子もない。何か別の、他に急ぎの問題が浮上したのではと考えましたの」

 判断基準が他の継母の動向というのもおかしな話だが、この家に限ってはままあることだ。

「ですから、真弓さんに仕込んだ発信器と盗聴器で」

 刹那、真弓の平手が飛んだ。まともに右頰を張られた百合。運悪くちょうど一階に到着したエレベーターの扉が開き、フロアに倒れ込む。エレベーターを待っていた客達が一斉に後ずさった。

「この変態! よくもそんな破廉恥な真似を!」

 同じことを雪見にした自分を棚に上げて、真弓は眦を吊り上げた。

 とはいえ、真弓が怒るのも無理はない。

 雪見を巡って対立している継母同士で尾行・盗聴となれば、宣戦布告にも等しい侮辱であり暴挙だ。真弓が蛇蝎のごとく嫌っている百合ならば、なおさら悪意しか感じられない。それを恥ずかしげもなく自ら明かす百合は相当な大物なのか、それとも相当な馬鹿なのか、柚子には判断がつかなかった。

「ひどいわ。いきなりぶつなんて」

 張られた頰に手を当てて被害を訴える百合には、何か思惑があるようには見えなかった。真弓の動向を探った方が合理的だと深く考えずに実行して暴露したのだろう。先ほどの椎奈に対する発言といい、百合には無意識の内に周囲の人間を見下す困った性癖がある。

「許可なく発信器と盗聴器を仕掛けるあんたは酷くないわけ⁉︎」

「だって、真弓さんに雪見さんのことを訊ねても教えてくださらないでしょう」

「な・ん・で、私があんたなんかに雪見の情報をペラペラ喋んなきゃならないのよっ!」

「人前だぞ、二人とも!」

 取っ組み合いを始めた二人を、柚子と椎奈がそれぞれ取り押さえて車に乗せる。

「離しなさい! 今日という今日はゆるさないわ!」

「騒ぎが大きくなれば、雪見がこの店に来れなくなるぞ」

 愛する娘の名の威力は絶大だった。真弓は怒りに震えながらも大人しくなった。淑女にあるまじき大きな舌打ちは……この際目をつぶっておいた。

「あっちは帰ったわよ」

 待機していた別の車に百合を押し込んだ椎奈が、助手席に腰を下ろしてた。

「とんだ妨害だわ」

「雪見にもバレたしな」

 柚子は深いため息をついた。一人ならばまだしも、継母四人が揃って同じ店にいたら、偶然という言い訳は通用しない。自分を詮索し、挙句発信器や盗聴器を仕掛けて尾行していたと知ったら、さすがの温厚な雪見でも怒るに違いない。

「正直に話すしかないな」

 百合の口から詮索していたことを伝えられるのは避けたい。これ幸いとばかりに悪し様に言うのは目に見えている。

「帰ったらシュークリーム作ろうかしら」

 雪見の好物だ。あからさまなご機嫌取りではあるが、何もしないよりはマシだろう。夕食は椎奈に任せて、柚子はどう穏便に収めるか考えた。

「あの頭お花畑女のせいよ」

「言っておくけど、言い出しっぺはお前だからな。下手な言い訳しないで素直に謝れ」

 主犯である自覚はあったようだ。真弓は渋々ながら「ちゃんと謝るわよ」と言った。

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