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旧都からの誘い



 2011年アメリカ・プロヴィデンスの精神病院にて、マリナス・オーン医師によって聴取されたジョセフ・D・ウォード氏(26歳男性。極度の精神不安定状態にあり病院内に拘禁されていた)の診察の記録である。


 以下を記録形式とする。


 オーン医師:発言内容

 ウォード氏:発言内容

(その他の行動を描写)

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 記録開始


(オーン医師がウォード氏の病室に入る)


 オーン医師:やあ、こんにちは ウォード君。調子はどうだい?


(オーン医師がウォード氏の正面の椅子に腰掛ける)


 ウォード氏:こんにちは、先生。起きている間は至って元気ですよ。


 オーン医師:起きている間? たしか君はよく悪夢を見るそうだね?


 ウォード氏:はい。昨夜もいつもと同じ夢を見て、(小さく笑って)あまりにもうなされていたからと医員の方に起こされてしまいました。


 オーン氏:いつもどんな夢を見るんだい? ああ、思い出すのが辛いのなら無理に話さなくても大丈夫ですよ。


 ウォード氏:いえ、問題ありません。


(数秒程沈黙)


(ウォード氏が視線を床のあちこちに巡らせる)


 ウォード氏:いつも巨大な都市にいるんです。巨石を積み上げて造られた大建築が建ち並ぶ都市です。


 オーン医師:巨石を積み上げた都市? たとえばティルス※のような?

 ※古代フェニキア人の遺跡


 ウォード氏:ええ。ですがフェニキアのティルスよりも、あるいは墓の前で座するスフィンクスよりも、あるいはまた、花園の楽園バビロンよりも、はるかに古い都市なんです。


 オーン医師:どうしてそうも古いと思うんだい?


 ウォード氏:わかりません。


 オーン医師:わからない?


(再び床に視線を巡らす)


 ウォード氏:ただ、どうしてもそう思うんです。


(ウォード氏が大きく咳き込む)


 ウォード氏:すみません……。それから、その都市の至る所に文字が刻まれているんです。


 オーン医師:文字とは?


 ウォード氏:ぼんやりと形は憶えてますが、見たこともない文字で読めませんでした。


(ウォード氏が急に立ち上がる)


 ウォード氏:ああ、いや、違う。あれは呪文です。祈りの言葉です。


(監視医員が座るよう促すが、立ったまま続ける)


 ウォード氏:永き眠りから目覚めるのを待っているんです。あの深く暗い都市で、かつての君臨者を讃え続けているのです。


(監視医員に抑えられ、ウォード氏が座らされる)


 オーン医師:誰が誰の目覚めを待っているんだい?君臨者とは?君には何のことか分かるのかい?


(監視医員からオーン医師に、質問内容への注意がなされる)


 オーン医師:失礼……。悪夢というのはその都市にいるということだけかな?なにかに襲われたり、事故にあったりは?


(ウォード氏は質問に答えず、何かを呟く)


 オーン医師:すまないが聞き取れなかった。もう一度言ってくれないか?


 ウォード氏:その都市の地下からおぞましい音がが聞こえてくるんです。何かが祈りを捧げるような声……しかし人にあんな音が出せるとは思えません。


 オーン医師:おぞましい音? それが君を苦しめる恐怖の原因なんだね?


(ウォード氏は無言のまま、しばらく沈黙が続く)


 ウォード氏:いや、私が恐れているのは彼の復活です。


(ウォード氏が大きく震え出す)


 ウォード氏:ああ、もうすぐやつが目覚めてしまいます。だめだ。人では、いや、やつは。


(ウォード氏が低く唸りながら首を上下に揺らし始める)


 オーン医師:落ち着きなさい。それは夢の話なんだろう? 君は(オーン医師の話を遮り、ウォード氏が叫ぶ)


 ウォード氏:かつての支配者は、海の奈落の底に佇む館でずっと待っていたんだ! 人がこの地球に現れる前から、再びこの星で繁栄する機会を!


(立ち上がろうとするのを監視医員に取り押さえられるが、叫びながら暴れ続ける)


(オーン医師が鎮静剤をウォード氏に投与する)


(ウォード氏が次第に落ち着きを取り戻す)


 オーン医師:大丈夫かい?


 ウォード氏:……はい。すみません先生。


 オーン医師:今日の診察はここまでとしましょう。ウォード君、これからは無理にその夢を思い出すのはやめるようにしよう。


(オーン医師が診察記録用紙とペンを床に落とす)


(オーン医師が拾おうとしゃがみこむ)


 ウォード氏:先生……。彼の名前を先生には知っていてほしいです。


 オーン医師:彼の名前?


(ウォード氏が短く唸ったあと、しばらく沈黙する)


 ウォード氏:…太古より飛来した暗黒の星の落とし子は、(椅子に座ったまま首と腰を曲げ、丸まるような体制をとる)海底で、機会の到来を夢見ながら待っています。


(しゃがみこんだ姿勢のオーン医師に、ウォード氏が椅子から転げ落ちるように近付きオーン医師の耳元で何かを呟く)


(オーン医師がウォード氏を蹴り飛ばす)


(すぐさま監視医員によってオーン医師が取り押さえられる)


(ウォード氏は倒れ込んだ姿勢のまましばらく唸り続けた後、動かなくなる)


 記録終了


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 この後ウォード氏の死亡が確認されたが、死因は脳の損傷と診断され、オーン医師がウォード氏に行った暴行とは関連性が無いとされている。


 また、オーン医師はその後の取り調べでも上記の記録以上の事は話さず、ウォード氏の最後の呟きの内容と暴行を行った理由については黙秘を続けている。

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