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独蛾

作者: 石鍋 盥囘し

例えば。


その(人間だとすれば)彼女ないし彼の生物はとてもとても阿呆であって(もっとも、普段はそれなりに賢いような動きを見せる)、一見こちらには幾ばくかの安心感を抱かせるのである。



例えば。


その(人間だとすれば)彼ないし彼女の生物は、燃え盛る無人の廃屋を見掛けたら、するりするりと野次馬の隙間をすり抜けて、消防団と消防士の停止もかわし、その必死の業火に駆け込んでいくのだ。

それを道楽としている。




そんなものを見た私は、野次馬の背中やら肘やら、時には押し返さんと突き出される掌に鼻っ柱を押し潰されながら不器用に人波を掻き分け(時には鼻血が出るんです)、離せ、放せと騒ぎ立て私の二の腕を掴み静止を促す消防団と消防士の腕を打ち払い(私は私の愚か者さ加減に吐き気がする)、そのとても愚か者な生き物を助ける為に、必死の業火に駆け込んでいくのだ。勿論私も愚か者だ。



でも、私はその生物のことが心配だった。

消防団はもとより、消防士達はそうそうに周囲の家を打ち壊して延焼を防いでいる。


後はゆっくり適度な放水で、廃屋の全焼をまっているのだ。


私は一息ついただけで肺の中も焼け付いてしまうソコで、その生物が危ない目にあってやしないかと、目を皿のようにして(勿論、目も開けるのが大変な熱波の影響でもあるのですが)その生物を探しますのですよ。


でも、何処にもいない。間違いなく、何処にもいない。


いよいよ廃屋が燃え盛る炎で崩れ始めて、何処にもその生物がいない確信をもった私はすぐさま、廃屋から脱出を試みるけれども、煙と熱波にやられてふらついて、崩れ落ちてきた材木で大火傷をおった。



医師にも警察にも消防団にも消防士にも、他のあらゆる人間に様々に叱られるのだ。でも疑問に思うのは、その生物はどうしたのかという事で、やっぱり心配だったわけであるわけだ。


手当てを受けて、戻ったらその生物は食事はまだかと待ち構えていて、話をしたら、炎の中を突っ走り、そのまま直ぐに裏口から逃げたのだとか。


そして、私の火傷を見たその生物がその独特の言葉でもって言ってきたのは、要約するとつまりは、要領が悪いな、という嘲りに似たもの。



私はひとしきり、当然、その彼女ないし彼の生物を叱りつけたのだ。この際、その傷の事等には触れていない。



火傷が癒えてもいないうちに、また火事があった。


その生物は一見賢くも見える行動をとるし、私の教えや、会話を理解しているような素振りをみせるけれども、阿呆であって。


また、するりするりと炎の中に突っ走ったのだ。


そして、今度こそ危ないかもしれないと助けに向かうとまた、そこにはいない。真っ直ぐ脱出してるのだ。

そしていつもいつも、私は火傷をおって帰っていくわけで(当然叱られる)。



火傷が癒える前に繰り返しその生物はそんな事を繰り返すものだから、私はケロイドだらけで瀕死だ。

でもそれなりに痛いのやら苦しいのやらに耐性があるし、偶然顔はほぼ無傷なものだから、ただ顔は笑ってみせるわけだ。


むしろ、身体中の皮がつっぱるものだから、もはやひきつれた表情しかできないのだ。つまり、それが笑って見えるのかも知れないとも思う。


いよいよ、次にこんなことがあったら君は死んでしまうかもしれないと、医師は言った。


勿論、そんなことを言われなくてもわかってます。

笑って私は返す。



そして、また阿呆な生物は炎に飛び込んだ。


今度こそ私は追わなかった。



どうせ、直ぐに脱出してるのだ。

いい加減、自己満足でしかない、(出来損ないも甚だしい)自己犠牲なんて、馬鹿馬鹿しいのだ。

少なくとも、私が思う、その生物を(助けたい)(救いたい)という思いは単なる傲慢であり、その生物からしたら厄介なものであり、嘲りの対象ですらあったわけだ。だからこその自己満足。



私は追わなかった。


笑って、その生物の帰還を待った。


そして、その生物は帰って来なかった。


炎で崩れた足場に足をとられ、逃げられなかったのだ。


熱波と緋色の光のせいで顔が濡れていた。


例えば、世間は笑っていた私を、なじった。サイワイにも、顔が無傷だったものだから、世間は何も知らなかった。

例えば、ならば死をとしてその生物をまた助けに向かっていたならば、私もその生物もそろって二人とも無事に帰還を果たしたのだろうか。

もしくは、二人ともそろって炎に巻かれて帰らぬことになればよかったのか?

たった一度、その生物が無事に帰還すると、『信じた』のが悪かったのか。

二人ともそろって生還していたら、その生物は改心したのか?間違っていたのは、私、なのだろうか。


愚かだったのは。


例えば。例えば。便利なコトバだ。憎たらしいほどに。 お付き合いいただきありがとうございました♪

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