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0.0 最初の記憶・男の料理・力の覚醒


―――私の記憶はあの食べ物の味から始まる。






「お味はどうかな?」


男が不器用そうな笑顔を向けた。


周りには5人ほど子どもたちがおり、簡素な木の器に入ったスープをすすりながら答える。


「うまい」


「おいしい」


「マジやばい」


子どもたちは一様に褒めていた。



ここは貧民街の路地裏。


あまり一般の人間は足を踏み入れたがらないような場所である。


そこを根城にしている子どもたちは、ゴミをあさったり物乞いをしたりして暮らしている。


誰かから食べ物を恵んでもらうことはあっても、それは固いパンや傷みかけた果物などであり、温かい作りたての食べ物をもらうことなんてなかった。



男は鍋を持ってやってきた。


その辺に落ちている石で簡易な土台作り、中央に薪を置く。


火をつけて、鍋を乗せる。


中のスープの温度が上がってくると、いい匂いがしてくる。



最初、子どもたちは遠巻きに見ているだけだった。


しかし、その匂いにつられて、一人、また一人と近くまで寄ってきた。



男は近寄ってきた子どもに、木の器とフォークを渡した。


そして、鍋で温めたスープを入れる。



―――スープをくれるんだ!



まだ距離をおいて見ていた子どもも、木の器とフォークを受け取り列を作って並んだのだった。



私が並んだのは一番最後だった。


スープを受け取って口にする。


塩味が効いている。


たくさんの野菜と肉などの食べ物を煮込んである気がする。


スープなのに、なぜスプーンではなくてフォークなんだろうと思っていたら、


中には黄色くて細長いものが入っていた。



―――不味いわけではない


だけど……



「味にパンチが足りない」



私だけが、かわいげのないことを言っていた。



「もっと味が濃い方が、この細長いやつ……」


「麺?」


「麺?に合うんじゃない」


私が言ったことに腹を立てるわけでもなく、男はむしろさっきよりも自然な笑顔を私に向けてきた。


「ありがとう」


ポンと私の頭に手を乗せた。


タダで食べさせてやっているものにケチをつけられて、何で笑っているんだろう?


料理の味も不思議だったが、


その男も不思議だった。




―――――




その料理を私たちにふるまうために、男は何度かやってきた。


「今回はどうだろう?」


「今までの中で一番マシじゃないか」


私たちというより、むしろ私に感想を求めに来ていたような気がする。


最初に食べたものと比べて、最後に食べたものは非常に味に深みが出ていておいしかった。


「ありがとう!君のおかげで、完成しそうだよ」


「……別に私は思ったこと言ってただけだし」


「また、機会があったら感想を聞かせてくれよな」



そう言って男は去っていった。




本当に不思議な時間だった。




私は、他の子どもたちともあまり話したことはなかった。


道行く大人たちも、当たり前だが私に何か意見を求めてくるなんてこともなかった。




あの男は私の感想を喜んで聞いてくれた。


あの料理を食べると、ポカポカと体が温かくなった。


あの人の笑顔を見ると、何だか心が温かくなった。




初めてのことだったで、うまく言えなかった。


……もっとあの人のために協力できることはなかっただろうか。


むしろ、何かをしてあげたかった。


だんだんとそんな気持ちが強くなっていた。




いつもは木の器を回収して帰っていたのだが、


最後はそのまま私たちに預けていった。




あの人が去っていたあと、


私は木の器に残ったスープを飲み干した。








その瞬間








私の力が








覚醒した








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