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29. 強震・烈震・激震







吹き荒ぶ風。






ビュービューと言う音が聞こえる。






ふと夜中に目が覚めた。


横を見ると、ミアとブレアが寝ている。


テントの入り口を少し開けて外を見てみる。


しかし、風は全く吹いていない。


夢でも見ていたのだろうか。


寝直すか。


そう思って再び横になった。






―――ビュー……ビュー……






……違う!






これは風ではない。






ブレアの鼻息だ!






ミアの匂いを嗅ぎながら寝たいという強い欲求から、ものすごく鼻から空気を吸い込み、そして吐き出しているのだ。


対外的にはすごく常識人なんだけど、ものすごい変態性を隠し持っているなあ。


短期間でこんなに人の裏側をうかがい知るなんて経験、今までなかったわ。


まあ、せめて匂いくらいはかがせてやるか。


テントの中だから私の匂いも混じっているだろうけど。











―――――










明け方ごろに地震があった。


震度5くらいだろうか。


ふわふわと地面が膨れてくるような感覚。


地中深くで「ゴゴゴゴゴ……」という音も聞こえた。



ブレアの鼻息ほど大きな音でもなかったので、こちらはそれほど気にはしていなかった。









―――――











翌朝。






……頭が痛い。




……耳鳴りもする。




私は寝袋の中で異変に遭遇していた。


実は私、かなり頑丈な性質たちである。


今まで病気らしい病気になったことがない。



頭痛なんて初めてだ!(逆にちょっとうれしい)






そんなことを思っていると……何だろう?


今度はテントの外が騒がしい。


列の前の方の人がザワザワしている様子。



「キンちゃん、おはよう……」


「あぁ。おはよう、ミア」



ミアもそれが気になって目が覚めたようだ。



「……ちょっとミア。大丈夫か?」


「……大丈夫って何が?」


「めちゃくちゃ顔色が悪いぞ」



ミアの顔は青白く、目の下にはクマも出来ている。



「そう言えば体がだるいし、熱っぽい……」



私、生まれて初めて頭痛になったんだ!ってミアに話そうと思っていたが、そんな雰囲気ではなくなってしまった。



「風邪をひいたのかもな。ブレアなら薬とか持ってきているだろうし、聞いてくる。ミアは寝てな」


「……ありがとう」



目が覚めた時にはブレアはテントの中にいなかったから、先に起きているのだろう。


外に出てみる。



「ブレア、おはよう」


「……キンさん、おはようございます。ちょっとこれを見てください」


「何かあったのか?」



焚き火の火は消えている。


ブレアが指をさすのは地面。


倒れたコップが3つ。


入っていたコーヒーがこぼれている。


少し離れたところの地面に裂け目ができている。


こんなものは昨日はなかった。




「あの3人組がいないです」




地割れは行列に沿って続いていた。


明け方の地震の時にできたのだろうか。


深い溝のようになっている。




「この地割れができたことと、3人がいなくなったこと。関係しているような気がします」




深い溝と言っても、50センチ程度だろうか。


人間が落ちて消えてしまうほどの大きな割れ目ではない。




「気になったので、後ろの2人組のテントものぞいてみました。しかし、誰もいませんでした。周囲も探してみましたが、見つかりませんでした」




後ろの2人組は自分のテントのそばの地面に『ここが最後尾です』という看板を突き立ていた。


地割れはちょうどそこから始まっていた。




「今朝、地震があったのは知っていますか?」


「ああ、揺れたなと思ったけど。私はまたすぐに寝た」




ブレアは頭の中は現在進行形で今起きていることを整理しているようだった。


少し間をおいて、ブレアが言葉を紡ぎ始めた。



「うちは地震が起きる少し前に目が覚めていました。 その時、外から3人の話し声が聞こえていました。地震が起きた後、急に声がしなくなりました。 うちがテントから出ると、3人の姿はありませんでした。 もしかすると、地割れが出来たのを見つけて、それを辿って行ったのかもしれませんが……。何もしゃべらずに行ってしまうのは不自然だと思います」



地震と地割れは間違いなく関係しているだろう。



しかし、人間が消える?


どうやって?



話していると、列の前の方からやって来る人がいた。


冒険者っぽい。拳闘士系の格好をしている。



「聞きたいのだが、ここが最後尾だろうか」


「そうです」


「今朝方、こちらに誰か向かってこなかったか?」


「いえ、誰も。何かありましたか?」


「うむ、ワシのパーティーのメンバーがいなくなってしまってな。どこか行くとしたら、列の最後尾の方か、街の方に戻るかのどちらかだと思うのだが。こちらに来ていないのなら、街の方に行ったのかもしれない」


「何も言わずにいなくなったのですか?」


「そうだ」


「実はうちらの前後にいた人たちもいなくなってしまったのです」


「なんと」





―――ゴゴゴゴゴッ





話していると、また地震が!


地面がグラグラ揺れる!


地割れが広がる!






そして




一瞬





不気味な風が吹き抜ける。






「「え?」」






目の前のおっさんも消えてしまった。



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