26. 出発!最後尾を目指して
「さあ行くぞ!」
時刻は早朝。
集合場所はギルド前。
伝説級の魔物を倒すクエストに向かうわけでもないのだが、気持ちが高ぶっている私。
昨日は買い物をし過ぎて、荷物の整理に相当時間を取られ、あまり眠れなかった。
つまり徹夜明けのテンションだ。
「1ヶ月かかるのか2ヶ月かかるのか知らないけれど、絶対ラーメンを食べてやるぞ!」
「キンちゃん……、気合入ってるね」
「本当ですね」
私とは対照的にミアは眠たそうだ。
その傍に立つブレア。気付かれないようにそっとミアの髪の毛の匂いを嗅いでいる。相変わらずだ!
門から城壁の外に出る。
街の中から続く行列。並んでいる人々は、これから売りに行かれる奴隷のような表情をしている。
交代制をとっているパーティも多いだろうが、数週間以上も列に並び続けるのことは想像以上にキツいのかもしれない。
彼らを尻目に、ガラガラと荷車を引きながら(ミアとブレアは後ろから押している)最後尾を目指す。
歩きながらミアが言った。
「って言うか、何で整理券とか配らないんだろうね」
ガヤガヤとしていた人達がシーンとなる。
「整理券を配るだぁ?楽してラーメンを食べてレベルが上がるわけないだろう!」
「苦労して並んで、やっとの思いをしてラーメンを食べて、だからこそ美味いんだろうが」
「そうだそうだ!」
何かゴツい連中に囲まれた。
禿げ頭で髭を生やした大男。
赤いモヒカンの男。
ビール樽のようなでっぷりと太った男。
「……ミアさん!その話はしたらダメだって昨日言ったじゃないですか!」
「……そうだっけ?」
ブレアが調べたとことによると、一部に熱狂的な「並ぶ」マニアがいるらしい。
行列が長くなり始めた時に、もちろん整理券を配布するという案は出た。
しかし、一部の人たちの猛烈な反対によって実施されなかったとのこと。
苦労して並ぶことによって神に近づくことが出来るという教えを信じる人々。
だったらもう他人と関わりのない山の中とかでずっと並んでいればいいのに。
「楽をしようなんて根性で並ぼうと思うんじゃねぇ!」
「俺たちは伝説のラーメンに並んでるんだ!ここはガキの来るところじゃねえ!」
「そうだそうだ!」
私はふわりと浮き上がる。
突然と光景に周りの男は驚く。
「うるせえ!」
スキル:空中浮揚頭突き
スキル:空中浮揚鉄拳
スキル:空中浮揚膝蹴り
今日はテンションが高かったので、何の躊躇もスキルを発動。
3人の男の顔面にそれぞれ、頭・拳・膝を叩きこむ。
打撃を受けた彼らはその場に倒れ込んだ。
「キンちゃんって、こんなに武闘派だった……?」
「あわわわわ……。これ、やりすぎとちゃいます?」
ミアとブレアが動揺しているが、気にするほどのことではないだろう。
列の中から他の連中が出てくるかもしれないと見渡してみるが、一様に私から目をそらしていた。
「何かあったのか!」
遠くから声がする。
走ってきたのは青いプレートアーマーを着た金髪の男。
どこかで見たことのあるシルエットだ。
「キンバリーじゃないか!」
「アレク兄さん」
そういえば、兄さんもラーメンを食べに行くって言ってたよな。
騒ぎがあったようなので、駆け付けてきたらしい。
「大丈夫か?」
大男3人が倒れているのを見て私に聞いてくる。
「全然大丈夫だお」
何も心配される要素はない。
ただ蚊を追い払っただけだ。
「ちょっと、キンちゃん? 何、このイケメン!」
「私の兄」
「紹介して紹介してお願い紹介して」
お願いポーズでキラキラした瞳を私に向けてくる。
ブレアを見ると「やれやれ」といったポーズをしている。
何だよ。
「兄さん、私の仲間のミアとブレアだよ」
「はじめまして。ミアって言います!」
「ブレアです」
「アレクだ。妹がお世話になっている。あの辺で仲間と並んでいるから、何かあったら俺に言ってくれよな」
「はい!」
兄さんはさわやかな笑顔を向けて、走って戻っていった。
草原に吹くそよ風のような人だ。
「キンちゃんのお兄さん、カッコよかった!すごい聖剣を持ってそうだったなぁ!」
大剣を持つポーズをするミア。
なぜか柄を握る手の部分を股間当たりに持ってきている。
「ミアさん、何言ってるんですか……」
引き続きあきれ顔のブレア。
あれ。
ちょっとよく分からないんだけど。
今、ミアは下ネタを言ったのか?




