序章
「さぁ〜今夜も始まりました!」
暗い六畳間に快活な声と軽快な音楽が響く。
時刻は深夜の3時、俺は夜中にやっている通販番組をぼーっと観ていた。次々に紹介される便利グッズをぼんやり眺めながら、本当かよと心の中でツッコミを入れていた。そして最後の商品の紹介が始まった。
終盤になっても変わらず快活な声が視聴者に問いかける。
「皆さん、最近の家電は使い方がよくわからないとお困りではないですか?」
この問いかけに俺はピクリと反応した。
「最新家電の操作が簡略化されてきたとはいえ
まだまだわかりづらいですよね。特に取扱説明書は
やたら分厚くて活字まみれで嫌になりますよね?」
テレビの前でうんうん頷く、俺。
テレビの中でアシスタントの女性が続ける。
「そ〜なんですよね〜、挙げ句の果てには詳しくはwebでって。めんどくさいんじゃ〜ってなりますよね〜」
テレビの前で大きく頷く、俺。
「そんな貴方に朗報です!何とあのLマシーン社製最新モデルのアンドロイドをご紹介します!」
いつのまにか俺は前のめりになってテレビを観ていた。
アンドロイド産業はここ数年の間の技術革新により急速に発展、今では一家に一人お手伝いアンドロイドがいるまでになった。中でもLマシーン社はいち早く家庭用アンドロイドの開発に着手。今やアンドロイド業界のパイオニアとして知らぬ者はいない企業になった。以上、ウィキより抜粋。
「今やアンドロイドが家事全般出来る事は当たり前!
今回ご紹介する商品にはある特殊機能が追加されています」
「え〜何ですか〜?」
アシスタントがリズム良く合いの手をいれる。
「なんと家電製品の操作説明やメンテナンスをやってくれちゃうんです!」
「わ〜すごいですね〜。でも、どんな家電でもってわけではないんでしょ〜?」アシスタントが視聴者の意見を代弁する。
「ご安心下さい。こちらのアンドロイド名前をセツコと言いまして、このセツコさんは常にインターネットに繋がっているんです。なのでネット上に情報のある家電であればセツコさんが自動で検索して最適な対応をしてくれます」
「ネット上ってことはほぼ全ての家電に対応出来ちゃいますね〜」
「そうなんです!セツコさんが居ればもう取説を見なくてもよくなるんです!」
「家事をこなして取説代わりにもなって、メンテナンスまでしてくれるなんて夢のようですね〜!
でも〜お高いんですよね〜?」
いよいよ通販番組のクライマックスだ。
「お値段、なんと56万3千800円!!」
「え〜!安〜い!普通60万は超えますよ〜」
アシスタントの言う通り相場は60〜70万、新型ならさらに値が張る。確かに安いが今の俺の金力だと一カ月は三食もやし生活が確定してしまうくらいの値段だ。くっ、欲しいがあきらめるしか・・・。
「何と番組終了後一時間以内にご注文いただくと何処でも送料無料!さらに番組特製メイド服一式と手作りクッキーが付いてきます!」
なん・・・だと?!
「もちろんお値段そのまま!!数に限りがありますので完売次第終了になります。」
そしてテレビから耳に残る連絡先の歌が流れる中、
俺は最高の笑顔で電話をかけていた。
この時、人生で最大にして最悪の買い物になることを俺はまだ知らない。
稲妻電太郎社長 後日談より抜粋。
初めての投稿になります。まだ右も左も上も下もわかりませんが、ぼちぼちやります。
次の投稿は年明けにできたらいいなぁと思っています。完結はさせるつもりなので気長にお待ち下さい。